841.~850.
841.
突然妄想が閃いた。少子化は、毎年過酷なプレゼント配りをさせられるサンタたちによって推進されているのでは。よく考えなくても超ブラック企業だ。ピンポーン。誰だこんな時間に。居留守を使おう。息をひそめていると、窓ガラスをぶち割って目を血走らせたトナカイが飛び込んできた。
842.
落ち葉が雨で泥と汚らしく混ざり、道路にベタベタ張り付いている。黄色やオレンジ、そして真紅のもみじも…もみじ?小さな、小さな手形だ。生臭い匂いのする、赤く濡れた手形。気持ち悪いので、落ち葉と泥を蹴って覆う。顔を上げると他の通行人も落ち葉を蹴っている。
843.
死体が甦るようになった。しかし末期の癌や糖尿病などの病でボロボロだったり、極度の過労でボロボロだったりして、動きは遅いし、しばらくすると自壊した。元気な体の死人は事故や殺人の犠牲者が多く、加害者を喰い殺すと満足するのか動かなくなる。生者も死者もどんどん消えていく。
844.
手荒れが酷くて、指の皮がベロベロめくれて行く。剥いちゃだめなのは分かっているが、ストレスが溜まっているからか夢中になって剥いてしまう。無意識に剥いた皮を食べていた。段々美味しく感じ始め、食べるのが目的になりつつある。横で寝ている恋人の指から、最近目が離せない。
845.
「手紙を返してください」仕事終わりに留守電を聞くと、必ずこのメッセージが入っている。なんのことだか。DMを除けば年賀状しか貰ったことがない。休みをとって電話を待ってみた。非通知。「手紙を返してください」「持ってませんよ」「取りに行くので」次の瞬間、ピンポーン。
846.
「下の子が生まれてからさあ、やっぱり上の子の先祖返りが酷くって」「赤ちゃん返りじゃなく!?」「言ってなかったっけ?うちの一族、よくあるの。私は哺乳類までだったんだけど、うちの子ピカイアまで戻っちゃって…水質管理とか難しくて、弱ってて…死んじゃったらどうしよう」
847.
私と弟を育ててくれたのはスマホだ。父は家に居着かず、母は寂しさを理由に私たちを放置した。充電が少ししかもたない古いスマホで動作も遅かったが、必要なことは充分できた。まあお金を払っていたのは父母のどちらかだけど。なぜか、母の訃報を受けたあの日から起動しなくなった。
848.
ふらりと入った店には小瓶がずらりと並んでいた。透明・色とりどりの液体や粉に結晶、見覚えのある生き物から幻想世界の生き物、今迄見た事のない生き物、何かわからないモノが入っている。自殺した妹にそっくりな顔の鼠が入った瓶の前で固まっていると背後から「お気に召しました?」
849.
冷蔵庫を開けたら中で炎が震えていた。「いじめっこに閉じ込められたの」皿に乗せてストーブの前に置いてやったら、涙声で言った。「誰も守ってくれないの」「私がそいつらやっつけてあげるよ」次の日、私をいじめる子たちの家が次々全焼した。私は温暖化促進の方法を考えている。
850.
水神様の嫁になるのだよ、幼い弟は村で守っていくからと説き伏せられ、滝つぼ身を投げた。水底にいたのは水神様ではなかった。それは今迄捧げられた娘達のかたまり。いくつもの笑顔が何百という腕を伸ばして私を千切り、我と我が身に埋めていく。やるのはそれだけ。日照りは続く。




