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811.~820.

811.

なんだか眼鏡が妙に曇る。いい加減嫌になって眼鏡を外した。眼鏡置きに眼鏡を置いてから、お茶を淹れにいき、戻ると眼鏡がない。家には私しかいないのに。今日はなんなんだ。カップを傾けると目の前が湯気で曇った。え。眼鏡はかけてない。視力も落ちたまま。眼鏡は、見つからない。


812.

私は前世、蛾だったので、ついつい明かりへ引き寄せられてしまう。特に仕事で疲れきり、ぼーっとしながら帰宅するときなどは危ない。気づくと街灯の下に突っ立っている。今日も疲れて立っていたのだが、もう一人知らない人がいた。私と違い口をあけて、蛾をむしゃむしゃ食べている。


813.

ベランダに案山子が立っている。幼い頃、未だ現実に疲れていない頃、祖父の田んぼで見たようなやつだ。「いっしょにかえろう」祖父の声だ。ベランダに出て、案山子の手をとる。「おじいちゃんなの?」「ちがうよ」だよね。私はベランダの柵を乗り越えた。


814.

サッカーボールがころころと転がってきた。思わず拾って周りを見るが、誰もいない。首を傾げて、ボールをそっと置いて歩き出す。曲がり角に来るたびに、テニス、バスケ、バレー、アメフト、色んなボールが転がってくる。家の玄関についた。「わんわんっ」首だけの愛犬が転がってきた。


815.

降りエスカレーターに乗ってから、三日が経つ。動いているが、下につかないのだ。走っても、上にも下にも行けない。その瞬間だけ激烈に速度が上り、転んでしまう。溜息をついて座りこむ。不思議と空腹も喉の渇きもない。何時間か置きに、真っ黒な顔のない犬が脇を駆け抜けていく。


816.

地球上の生まれる子どもが、しっちゃかめっちゃかになってしまった。鮭の卵から猫が生まれ、犬が駝鳥を産み、人間がカメレオンを…と完全にランダム。どうやら同じ瞬間に受精した生き物と入れ替わるらしい。妻の腹が内側から蹴られる。長子のサイと次子のカマキリが庭先で戯れている。


817.

子どもが生まれたら、たくさんのおもちゃを与えなければならない。夜になればおもちゃは箱を飛び出して、子どもを悪夢や魔物から守ってくれる。そしてもしも、育て方を間違えて、或いは生まれながらに邪悪だったなら、おもちゃは箱を飛び出して、子どもの部屋にはいつかない。


818.

驚いた拍子に料理の乗った皿を落としてしまった。砕ける陶器の音、汚らしく撒き散らされる食べ物。大丈夫と駆け寄る夫。だが私の目は窓の外に縫いとめられて動けない。窓から覗く真っ赤な目。轟音と共にマンションそのものが持ち上げられる。ああ食卓へ運ばれるのだなと分かった。


819.【14日はツイノベの日:お題「仮想現実」「VR」】

VRの世界から戻らなくなる―そんなのは都市伝説だと思っていた。ゴーグルをかけたまま、唇の端から涎を垂らし嬉しそうに笑っている友人。どんな世界を見ているのだろう。無限再生する肉体にされ、毎日生きたまま脳を啜られるより、幸せな世界なのは間違いない。


820.

猫の首が伸び始めて数年の月日が流れた。明らかにバランスが悪いのだが、平然としている猫たち。テーブルや戸棚に飛び乗らずとも上にある食べ物がとれるし、窓の外を覗けて便利。問題は、首だけ先へ進み、モタついているところを車に轢かれ、生首が頻繁に道に転がるようになったこと。

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