801.~810.
801.
恋人から送られてきた小指を、水栽培用の容器に置いた。祖母が投身自殺した井戸の水と恋人と同じ星座・血液型の少年の生き血で器を満たす。一週間ほどで肉が増え、二か月も経つと、指の根元から艶めかしい足が伸び始めた。足の間の黒いつぶらな目は監禁している少年によく似ている。
802.
貴方のファンです、とその手紙は始まった。白の縦書き便せんにインディゴブルーのインクで書き連ねてあるのは、どう考えても別人への賛美。私の名前と住所なので、誤配でなく、人違いだ。毎日届くファンレター。読み耽るうち、私もファンになってしまった。ファンレターを書こう。
803.
図書館から返却を催促する葉書が届いた。良く見れば一カ月前に死んだ兄の名前。何故兄宛の通知が家を出た私へ?葉書を持って里帰りする。未だ憔悴している母と少し話して、そのままの兄の部屋へ。扉を守るショゴスは私を覚えていたので、スムーズに入れた。本はすぐに見つかった。
804.
ガス状の地球外生命体との共生関係を初めて、今日で三日になる。生まれた星では基本的に肺呼吸をする生物に寄生し、見返りに宿主の精神を安定させたりホルモンや免疫を整えたりする。クシャミをした拍子に紫と緑の斑の気体を吹きだしてしまうのだが、禁煙できたので良しとする。
805.
幼馴染は人間じゃない。普通見れば狂い触れると呪われるが、邪神の巫女の末裔である私は耐性がある。それ以外は無力だけど。だから上司に弄ばれて心身ともにボロボロに。誕生日に親友がくれたのは上司入りのボトルシップ。中では嵐と謎の触手が荒れ狂い、彼は残虐に死に翌日生き返る。
806.
鏡の中の自分が満面の笑みを浮かべている。私は笑ってなどいないのに。周りの人も「いつもステキな笑顔だね」と笑いかけてくる。私は、笑ってなんかないのに。長雨続きで路面にはいくつも水溜りができている。渋面の私の顔が映っている。水面に映る人の顔はみんな、笑ってなどいない。
807.
珍しいペットが欲しくて人間を攫ってきたのだが、環境が良くないらしくすぐ死んでしまう。どうしても飼いたかったので、改造や交配をして色々と造り変えた。でも、飼いたかった人間とは見た目も性格も違うものになってしまった。コレじゃない。この子は故郷へ帰してあげよう。
808.
庭の柿の木にイケメンの首が生るようになった。俳優やアイドルに似たものから、2.5次元的イケメン、学生の頃クラスにいた感じの美形まで、バリエーション豊か。浮気した夫を生き埋めにしてからだ。最近、実りが悪い。死んだのかな。夫の顔?いえ、特に良い男じゃなかったですよ。
809.
「あなたは器が小さいので、分相応の大きさになって貰いますね」枕元に立つ真っ黒な男が爽やかに言い放ち、俺の鼻を人差し指で弾いた。どんどん縮んで、シーツの繊維の間に挟まってしまった。目の前にはダニの群れとその卵。降ってくる妻の声。「久し振りに晴れたし、洗おうかしらね」
810.
コーヒーをいれてソファに座る。スナック菓子の袋を開けて、カップに手を伸ばすと、指を痛みが。驚いて見ると、黒い水面からぬうっと小さな、しかしすらりと長い爬虫類の首が突き出ていた。菓子をひとつ近付けるとぱくっと咥えてコーヒーの中に消えた。飲み干したが何もいなかった。




