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781.~790.

781.

事故で頭を打ってから、幻覚が見えるようになった。薬の効果は芳しくない。今も、私の前で微笑む彼女の顔から、ピンク色の芋虫がぼろぼろと零れ落ち、パスタの隙間で青紫の蛹になり鮮血色の蝶に変態して飛び立つ。美味しそう。我慢できず、フォークを彼女の顔の芋虫に刺した。


782.

全てのヒマワリが狂ってしまった。夏の暑さのせいだろうか。ヒマワリたちは水分を求めて地上を、すぐに水中、海中にも蔓延った。ビルほどにも育ったヒマワリの大輪の周りに血の通った生き物は皆無だ。酷暑と吸い上げた熱い血の熱に益々狂うヒマワリは、伸びて伸びて太陽を目指す。


783.

七月のカレンダーが終わらない。捲ると、八月があるはずのそこには七月。日付は三十二、三十三…と続く。九月も当然浸食されている。でも何か問題があるだろうか。確かに日付の数字がどんどん大きくなっていくけど、慣れてしまえばどうでもいい。2017年のカレンダーももちろん七月だ。


784.

猛烈な雨で庭がまるで海のようになってしまった。犬が溺れている。だがどうしようもない。なにしろ、鮫が泳いでいる。一瞬顔を出したのは完全に首長竜だった。ガボガボ怖い音がして振り向くと、台所の排水溝から蛸か烏賊の触手がずるっちょと出てきて、猫に襲いかかられて引っ込んだ。


785.

猫がいなくなったので探していたら、コーヒーカップの中で液状になっていた。ぽこぽこと泡混じりだが、みゃおみゃお鳴いて餌を催促してくる。キャットフードを落としてやると、ちゃぽちゃぽといくらでも入る。興味本位で指を突っ込んでみたら、案の定食べられてしまった。痛い。


786.

巨大な化け物が世界各地に現れた。そして化け物たちと暗闘していた者たちも表舞台に姿を見せる。彼らは言う。「死にたくない、生きたいという願いが奴らを退けます」化け物は暴れ続ける。破壊が続く町を眺め、割と多くの人が「ああこれで働かずに済む」と安堵の笑みを浮かべている。


787.

暑さのあまりアスファルトが溶け始め、釣りができるようになった。ニートの僕は今日も部屋のベランダから釣り糸をたれる。餌は女の薬指が一番良い。ママの貴重な二本をとられないよう慎重に。黝い手が波打つアスファルトから伸びてくるので、鉈で切りつけタモで掬う。今日も大量だ。


788.

テーブルに西瓜があった。きっと親が用意してくれたと思って、齧りついた。ひどい味がしたので吐き出した。腐ってるのか。水で口を濯ぐと、ひどい味がした。水道水まで?暑さのせいか?タオルで口を拭った時、少し生地が口に入った。美味い。噛みちぎって咀嚼した。とても美味い。


789.

独身の頃、私の帰宅を待っているのは小さなサボテンだけだった。おはよう、いってきます、ただいま、おやすみ…短い挨拶だが毎日声をかけていた。結婚後、声をかける相手は夫になった。年々二人の間の会話が減っていく。サボテンの方がマシだ。今でも、ちゃんと返事をくれる。


790.

気付いた時には降りるバス停を過ぎていた。ぎょっとしたが、降車ブザーを押す気にならない。窓から外を眺める。見慣れない光景。まだ空は明るく青くて白い雲がきれいだ。次のバス停を通り過ぎる。死んだ母がニヤニヤ笑って立っていた。次のバス停が近付いてくる。誰か立ってる。

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