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761.~770.

761.

マンションが増えた。私と私の家族が住むマンションが、一棟丸ごと増えたのだ。一体どちらが元々の我が家なのか。ひとまず右のマンションへ帰宅してみた。今迄と変らぬ家族の姿。翌日会社へ行き、帰宅は左へ。やっぱり変らぬ家族がいる。次の日帰るとマンションは三つになっていた。


762.

虫と人間の立場が入れ替わった。単純に大きさが入れ替わったことに加え、人間はそのままだが、虫の知能と感性が人間並みになったのだ。「キャー!人間!」「ごみをほっとくからでしょ!」「殺人剤どこ!?」「もういい素手でいく!」「汚いよ!」「でも逃がすと強くなるし、うりゃ!」


763.

すぐそばで凄まじい絶叫が上り、私も思わず叫んだ。振り向くと、若い男が手首からドバドバと真っ赤な血を吹きださせて叫び続けている。ああ、なんてこと。周囲の注目が血を撒き散らす男に集まっているうちに、鞄と間違われて口に手を突っ込まれた変り果てた兄を抱え込んで逃げ出した。


764.

廃品回収に出した古いデスクトップPCと山に埋めた父が一緒になって帰ってきた。一緒というのはつまり、合体して。たぶんPCが父を埋めた山に不法投棄されたのだろう。画面には僕への憎しみと歪んだ劣情。警察に通報した。化け物なってくれたお陰で、やっと警察は来てくれるようだ。


765.

母が押入れに隠して世話をしていたのは、美しい人形だった。光を紡いだような金髪、透きとおる青い瞳、雪色の肌、サクランボ色の甘そうな唇。母の血で頭からずぶ濡れの私に、無垢な笑みを向けてくる。「   」動かない唇が言葉を紡ぐ。頷いて、私は母を電動鋸で切り始めた。


766.

TV画面上のニュース速報を読んだが意味がわからなかった。戸惑っているうちにドラマは特番に切り替わる。「深海でイエティが発見されました」いえてぃ。深海で?なるほど?海底で鯨の死体を貪り食う白い獣毛の大きな人型の生き物のVTRが流れた。わー、イエティほんとにいたんだ。


767.

生きたクトゥルフの落とし仔が売られていた。ポップには「今晩の夕食に!ペットに!呪詛に!」。目があった仔を買って帰り、踊り食いした。日に日に胎が膨らみ、私の不妊を理由に言葉の暴力を浴びせ続けた舅と姑も優しくなっていく。不倫夫も戻ってきた。幸せだ。早く生まれてね。


768.

暴漢に襲われた私を助けてくれたのは、死んだ夫が大切にしていたバイクだった。前輪でグチャグチャに轢き潰された人体の破片を車体中にくっつけて、エンジン音を甘えるように轟かせながら近寄ってくる。夫も、走り慣れた道でバラバラになって死んだのだ。工具箱をとっておいて良かった。


769.

ゴロゴロゴロゴロと重苦しい音が頭上で鳴り響いた。外を歩いていた人たちは全速力で頑丈な建物へ走り出す。転んだ者を踏みつけ、遅い者を突き飛ばして、走る。誰もそれを咎めない。咎められない。黒雲を突き抜け、良い香りのソースが降り注ぎ、銀色のフォークが逃げ遅れた人を刺す。


770.

頭痛が酷いので、螺子を一本抜いて貰った。ほっと安堵の息を吐く。「なくさないように保管して下さいね」という看護師の言葉を背に病院を出る。抱えた箱には今迄抜いた螺子がぎっしり。あとで戻す為だ。海へ向かうバスに乗りこむ。皆膝の上に箱を乗せている。早く海につかないかな。

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