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741.~750.

741.

赤い糸を寄りあわせた細いロープが、足首に喰い込んでいる。正当防衛で殺したストーカーは魔術師で、あの世から私を引っ張っているのだ。少し迷ったが、私は鉈で足首を叩き切った。ロープをぐいぐい引いていたストーカーが地獄への坂道をゴロゴロ転がっていく。


742.

ヘッドライトの光の中に、子どもぐらいの影が見えた。急ブレーキを踏んだが、鈍い衝撃。やってしまった。夜道に出て確かめると、濃すぎる生肉の匂いとコールタールのようなものが道にぶちまけられていた。錯乱したまま車に戻り、顔を上げると、大男が鉈をフロントに振り下ろしてきた。


743.

私はこの呪われた一族を終わらせることにした。初代当主の魂が乗り移った仮面を斧で叩き壊す。「莫迦者め…」サラサラと消える仮面。乗っ取られて人生と妻と奪われるなんて嫌だ。扇子で顔を隠した妻が艶やかに笑う。ん?妻?まあいいか。私は封印された地下室へ彼女と共に降りていく。


744.

目玉が四つあった。雨の中みつけた泥だらけの僕の右の上履きには、目玉が四つあった。二つは茶で、緑と赤の目玉が一つずつ。まぶたはなくて、ぎょろぎょろ動く。とりあえず履く。左を探していると、くすくす笑ういじめっ子たち。その手に上履き。上履きに、がばりと大きな口が開いた。


745.

死んだ祖父の鼻の穴から出てきた、薄青いビー玉。家族は気味悪がったものの、私は面白がって、よく洗ってパワーストーンと一緒に小袋に入れて持っていた。思い立って小袋から出すと、ビー玉の中に昨日死んだ恋人がいて「出してくれ」と内側から叫んでいたので、大事に小袋に戻した。


746.

モルフォ蝶が好きで、写真集や標本を見かけるとつい買ってしまう。あの煌めきに抗えないのだ。だから饐えた匂いが立ちこめる裏路地で、頭を叩き潰されて死んでいた女の、広がりゆく血がぐつぐつ蠢き蝶の翅を形作って飛び立とうとした時もつい捕まえてしまった。餌は私の涙である。


747.

地球の半分に全部の水が移動した。当然もう半分は砂漠化した。重力や月の引力なんぞものともせず、水は地球の半分から微動だにしない。人間を含めた生き物は、水と砂漠の境の僅かな地域でしか生きられない。空から見ると、きれいに緑の線が走っているが、今や誰も見下ろす余裕はない。


748.

私が五歳のとき世界の底が抜けて、陸と海の八割がなくなった。残った陸と海の間には、触れるとあらゆるものを溶かすガスが充満している。たまの晴れ間に隣の陸や海が見えたが、今朝ついに周りにあった最後の海が崩落した。次はここだろう。落ちる光景は、誰かが見てくれるのだろうか。


749.

木を植えている。娘の耳の中に寄生した芋虫が食べる葉が生る木を。遺伝子操作で生まれたこの木は生命力が強過ぎ、周囲の植物を枯らす。この人造の木根絶のために生み出された芋虫は成虫にならぬよう遺伝子操作されていたが、人間の子に寄生して生存を図り、結果的に木をも守っている。


750.

願いが叶ったので、神様にお礼をしにいった。だが先客がいた。神域を穢し、御神体を破壊している。なぜこんなことを。その人は、願いが叶わなかったからだと、血涙を流して答えた。私の願いが叶ったからだ。叶わなければ同じことをしたかもしれない。青空からの落雷。私は無傷だった。

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