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731.~740.

731.

嘘つきを喰う化け物が世界中に出没するようになった。あっという間に人類は絶滅するかと思われたが、意外にもけっこうな人が生き残っている。目の前で、酷い嘘で私を陥れた上司をもぐもぐ食べながら、化け物は微笑む。「美味しい嘘を育てるためには、傷つけられるカモがいるからね」


732.

左足の親指がセキセイインコになってから三日、右足の指が全部ジュウシマツになった。靴下を履くどころか歩くこともままならない。医者は困惑し、一先ず獣医に世話の仕方を習う。翌朝異様な鳴き声に目覚めると、左足の人差し指がアオダイショウになっていてインコの頭を呑んでいた。


734.

飼育小屋の兎の口の中におっさんができた。おばさんもいる。餌を食べるとおっさんやおばさんが痛がって騒ぐので、兎は怯えて食餌を拒み、痩せ衰えていく。子どもに見せないようにしていたが、こっそり覗く子が後を絶たない。見た子どもたちは皆一様に「親にそっくり」と話している。


735.

ラジオの調子がおかしい。折角好きな曲がかかってたのに。アンテナを動かしてみたが、嫌に耳障りなノイズがするばかりだ。諦めかけていると、急にノイズが消えた。無音だ。耳をそばたてる。無音に鼓膜が押されるような、圧力。静か過ぎて自分の鼓動の音が聴こえ、それもやがて消えた。


736.

最初は風邪に似た症状。だが咳に血痰が混じり始めると急速に状態が悪化。全身の体毛が伸び太くなり管状になり、すべての体液を強制的に排出して僅かな土塊となる。体液に触れた者も同じ末路を辿る。人も動物も加速度的に減り続け、地球はたくさんの水と土だけの世界に戻っていく。


737.

赤い兎がべちゃんと跳ねる。跳ね跳ぶ度に、赤く粘度の高い液体が飛び散る。べちゃんべちゃり。鼻腔を圧倒する甘いような生臭いにおい。私はちっと舌打ちする。赤く濡れた兎が目を細めて嘲笑う。今夜も狙っていた美味そうな子どもを先取りされた。あの可愛い見た目で誘うのだ。ズルい。


738.

我が家では代々呪われた壺を監視している。整えられた和室の床の間の、誰の目にもおぞましい地獄絵図の描かれた大きな壺がそれだ。部屋を綺麗に掃除し、花を生けたり、茶をたてたりするだけで良い。だが少しでも怠ると、家人の誰かが近所の子どもを攫っては喰うようになる。


739.

彼女は歌が上手く、歌うのが好きだった。路上で歌を披露す、ファンが出来た必然で、イカレたファンに刺殺されるのも必然の悲劇だったのだろう。だが彼女の血を浴びたギターが歌うようになったのは、奇跡だ。更に、ギターの演奏を聞かせ続けたミニトマトも綺麗な声で歌うようになった。


740.

祖母の残した桐箪笥。祖母は着物を仕舞っていた。受け継いだ私は着物は持っていないから洋服ばかり入っている。ある日一番下の引出しを開けると、服が赤黒く汚れていた。咄嗟に経血だと思った。汚れた服は全て捨てて空にした。一年程経つが、ゴトゴト動くのは気のせいではないだろう。

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