061.~070.
061.
ここ何日か夫の寝言が、ひどい。早口で呪文みたいな言葉を凄い勢いで喋っているのだ。寝言というのは、もっと不明瞭なものだと思っていたのだが。4日目ぐらいで慣れたのか、眠れるようになった。すると朝、起きてきた娘がいう。「二人して夜中に大声で呪文みたいなの唱えてるね」
062.
「これだ…!」Twitterを眺めていたダゴン秘密教団日本支部団員は、ガタッと椅子から立ち上がった。つい今しがた、日本で最も有名なアニメ映画の最も有名な台詞が発せられ、TLが一斉に滅びの呪文で埋め尽くされた。「アニメ映画を作って呪文を流行らせればいいんだ!」
063.
「これだ…!」ニュースを見ていたダゴン秘密教団日本支部団員は、ガタッと椅子から立ち上がった。TVでは人気のご当地キャラクターについて報じている。前から薄々思っていたがご当地キャラはちょっと気持ち悪いキャラでも人気がある。「ダゴン様をキャラ化して流行らせるのだ!」
064.
森は涼しい。都会の暴力的な暑さはどう考えても異常だ。地下もいいけど湿気が多過ぎる。僕は森の中が好きだ。土と木々の匂いを楽しんでいると、馨しい香りが鼻腔をついた。藪を分け入ると、大樹の枝からぶら下がる自殺者。やはり下水でぶよぶよした死体より、血もたっぷりで好きだ。
065.
海で溺れて救助されてから、女の趣味が変わってしまった。というか性的嗜好そのものが、一般的には異常とされるものになってしまったのだ。元々草食系で性欲が強いわけでもなかったので、眺めるだけで満足できるから周囲にはばれていないが。「いつまで蛸の水槽に見入ってんだー?」
066.
牛乳が変な味がする。給食の時間が始まって数分もすると、そう訴える児童が出始めた。最初は一人二人だったが、教師も異常な味を感じとり、十分ほどで学校中が混乱に陥った。不思議なことに一部の児童は喜んで全て飲んでしまった。翌日牛乳を飲みきった児童全員が行方不明となった。
067.
アンティークショップで偶然目についたオルゴールを買った。指輪などのちょっとしたアクセサリーを入れておくのに良いと思ったのだ。一度螺旋を巻いて音楽を聞いてみたが知らない曲だった。以来毎夜、夢でオルゴールの曲にのせて美男と踊るようになった。日々、彼は急速に老いていく。
068.
わたしはクトーニアンを崇める一族の末裔だ。今も細々祀り、たまにテレパシーでお告げを頂く。特に地震予知に関しては彼らの右に出るものはいない。今日も地震速報より速くテレパシーが届いた。が、大した震度ではなかった。直後言い訳のように「大仏め…」とテレパシーが一言届いた。
069.
巨大であるということは、それだけで有利だ。千年を生きた大樹の如き胴体と粘液滴る巨大な口、蹄が大地を踏み砕く。最も太い4本の触手のうち一本を、組みついた相棒が引き千切り、代わりに足をねじ折られた。私は相棒の落としたナイフを握り直し、うねくる触手めがけて腕を振り抜く。
070.
十数年に一度、月と星の位置がもっとも望ましい今宵のみ、異界への門を開く為の儀式を行う事が出来る。一族の悲願である星空の向こうへ続く門を…だが、栄誉ある生贄に選ばれた我が娘は泣き喚いて拒む。そして娘の恋人によって連れてこられた二人の狩人が儀式場へと飛び込んできた。




