681.~690.
681.
物を大切にしなさい、と何度も母から教えられた。私の目の前にはバラバラにされたゲーム機が転がっている。試験が終わったからといって一時間ゲームをした罰だと母に壊されたのだ。翌朝、母が死んでいた。解剖の結果、胃の中に新品のゲーム機があり、溶けた電池による中毒死だそうだ。
682.
美しい雪景色を何百という灯籠が彩っている。私の村のお祭りだ。すべて三歳になる前に死んだ幼子の魂を閉じ込めてある。村の子ではない。近隣の墓場から盗ってくるのだ。雪の中から次々長い触手が現れて、震える小さな魂を引き込む。これで、うちの子たちは安全だ。
683.
海岸に未知の生物の死体が打ち上げられた。見たこともない形状でパッと見、明らかに新種なので調査が行われた。まず全身に絡みついた遺棄されたゴミを取り除く。内臓もゴミでいっぱいで何を食うのか不明。DNAも元のままなのか、放射能汚染されているのか、よくわからないとのこと。
684.
階段が滝と化した。手摺を掴んでいなければ足を取られるほどの勢いだ。ここは普通のマンション、上階に水のタンクでもあるのだろうか?背後で妻の悲鳴。振り返ると、すぐ下の踊り場まで水が溜まっている。地上十階なのに?勢いよく錦鯉が階段の滝を遡って行く。我々も昇るしかない。
685.
最近ゴミ捨て場が荒らされるので、収集日の前夜に出すなと、管理人から厳命。だが朝は忙しい。夜のうちに出してしまいたい。そういうわけでゴミ袋を持って行くと、やはりいくつかのゴミ袋。そのうちの一つに、黒い人型の何かがいそいそと潜りこんでいく。陽が昇ってから出直そう。
686.
思い余って彼氏を包丁で刺した。傷口から溢れ出てきたのは緑色のドロドロしたもの。腰を抜かして後ずさる私を無視して、緑のドロドロは、ドロドロ流れ出てバスタブに収まった。彼の皮は干乾びて砂になった。ドロドロに彼の好物のエビフライを与え続けていたら、最近少し懐いてくれたよ。
687.
母がトイレに経って20分経つ。私も行きたいのになあ。ドアをノックするが、返事がない。寝てる?まさか倒れていたりするんじゃ。父を呼び、大声で呼び、最終的にドアをこじ開けた。誰もいない。それから母は行方知れず。一年ぐらい経ち、トイレから微かに赤ちゃんの声が聞こえる。
688.
バイカラートルマリンの色が変るところに精霊が宿っていると姉は言った。境が曖昧で判別できないところに神秘を見たロマンチストの姉は、犬とも人ともつかない奇怪な生き物に成り果てていた。目をぎらつかせて手を差し伸べる姉は、助けを求めているのか私を殺す気なのか判別できない。
689.
コバルトブルーの雪が降り始めて、三日が経つ。どぎつい青は家屋の二階の屋根を越えつつあり、殆どの家は青の中に閉じ込められた。雪国は白い雪の上に積み重なって、更に高く積雪しているという。青雪は甘い良い香りがして、とても心が安らぐので、特に誰も騒いでいない。
690.
床が暖かい。床暖房にしたわけではない。ただの普通のフローリングの床。本来なら冷たい筈の床が、熱のある人肌ぐらいの温もりを保ち続けているのだ。帰宅してそのまま疲れた体を横たえる。知らない人の、肌の匂いがする。手触りは硬いが、爪を立てると一瞬びくりっと震える。




