651.~660.
651.
世の中は年末で仕事納めや帰省やらで楽しそうだ。けれど我々、邪神や邪悪な魔術師と戦う者には、あんまり関係がない。地球外の論理だから、戦場のメリークリスマスのような奇跡は起きないのだ。「年越し蕎麦ぐらいは食べたい」「ぬるぬる長いものはちょっと勘弁…」「おいやめろ」
652.
羊が一匹、羊が二匹、三匹…家から出てきた羊達が続々と列をなして月明りに照らされる道を歩いていく。もふもふの真っ白な羊。毛を刈られた寒そうな羊。薄汚れたやたら毛むくじゃらの羊。赤い羊。黒い羊。たまに山羊。窓から見ていた私の横を、ごく普通の羊がメエと鳴いて出ていった。
653.
日の出を見ようかと玄関を出ると、郵便ポストから尻が出ていた。赤い尻だ。茶色の毛に覆われている。フタを開けると、怒れるニホンザルの顔に出くわした。犬歯を剥きだし、ギャーと吠える。戸惑っていると、立派な巻き角の羊がメェヘヘヘと鳴きながら猿の尻を一突きして駆けていった。
654.
「はいお年玉」と渡されたのは、おおむね球体でウゾウゾ蠢き冒涜的な文言を呟き続ける肉塊だった。球体のそこここにある唇は紅を差したわけでもないのに赤く、白い歯を覗かせて滑らかに動く。「空から落ちてきたの。だから正確には落とし玉」「どうしろと」「溜める?いっぱいあるよ」
655.
気づくと線路に立っていた。そばに駅は見えない。街の明かりすらもない。レールと枕木と小石だけが闇に浮かび上がっている。突っ立ってても仕方ないので歩き出す。歩くうちに視界が低くなり服もブカブカに…いや私が縮んでいるのだ。止まろうかと思ったが、歩くことにした。
656.
同僚が私を見て悲鳴を上げた。「耳から蜘蛛が出てる!」ああ、春みたいにあったかいから目を醒ましちゃったのね。子守唄を歌ってやると、こりゃうっかりしたぜと言わんばかりに耳の奥へ戻っていった。爪の間から出ていた蕗の薹も引っ込む。同僚は泡を吹いて倒れ、頭から流血している。
657.
カップ麺にお湯を注ぎ、三分待つ。蓋をあけると、白く濁った目でうさぎがこちらを見上げていた。ぎゃっと叫んでカップを取り落とす。床に広がる、お湯とうさぎのバラバラ死体。お湯を入れる前は普通のだったのに。気持ち悪くて風呂場に駆け込むと、風呂桶いっぱいの白く濁った目の…。
658.
吐く息が毒ガスになってしまった。ペットのセキセイインコがもがき苦しみながら死に、妻と息子も血を吐きながらのたうちまわるのを見て、漸く理解できたのだ。息を止めて外へ飛び出す。だがすぐに苦しくなり、息を吸って吐く。道行く人が犬が猫が鳥が、血を撒き散らして倒れていく。
659.
今日は成人の日。我が村には独特のしきたりがある。村では双子や三つ子ばかりが生まれる。同じ日に生まれた我々は、今日殺しあわねばならない。そうすることで立派な一人の人間になれるというのだ。弟の血で両手が真っ赤に濡れそぼる。人間になったのだ。やめたのでは、なく。
660.
ちらちらと白いものが灰色の空から降ってきた。もしかして初雪?黒い手袋にふわりと乗ったのは、小さな、とても小さな、老婆の頭。雪に見えたのは振り乱された白髪。皺だらけの顔にぎょろりとむいた目玉は血走り、薄黄色い乱杭歯をガチガチ言わせている。ちらちらガチガチ降ってくる。
あけましておめでとうございます。
…もう寒中見舞いですかね。
そういうわけで、2016年初更新でございます。
今年も、少なくともこれくらいのペースは維持して行きたいと思います。
よろしくお願いいたします。




