051.~060.
051.
私と相棒は、海底で死せる邪神が見る夢を受け取る大学教授を訪ねた。彼女は夢を逆用し、邪神と眷属どもの陰謀を幾度となく阻んでいた。そんな教授が深刻な顔で告げる。アジアのある島国で大王烏賊を筆頭に深海生物が大流行している、と。恐らくダゴン秘密教団の仕業だ。
052.
ずんっと大きく大地が揺れた。私と相棒は全身を緊張させて身構える。地中を蠢くクリーチャーは巨大で強力なモノが多い。こんな都会のど真ん中に出現しないだろうが、奴らの考えを読むのは難しい。すると隣に立っていた地元民が「日本初めて?今のは震度3ぐらいだから大丈夫だよ」
053.
やたらと不運に見舞われるので調べてみたら呪われていた。どうやって紛れこませたものか、忌まわしい品々が詰め込まれたヴードゥーの護符グリグリが荷物の底にあったのだ。相棒が隕鉄のナイフで叩き切ると、グリグリから真っ赤な何かが叫びながら飛び出し、窓を割って飛び去った。
054.
逃げるわけにはいかない。私と相棒を殺す為輝けるフォマルハウトより炎の王を呼びだそうとした魔術師は、一瞬にして漆黒の焔に巻かれ灰も残さず焼き尽くされた。王冠の如き角を持つ雄々しい牛めいた生ける炎の化身は、万象を焼き払うべく地下迷宮の出口を目指して蹄を振り下ろす。
055.
ええ、そうです。不思議な青い霧が町中に立ちこめたあの日、僕は連絡の取れない妹のアパートへ行きました。1m先のものはけぶってて。あんな霧の中でしたが人は結構歩いてましたね。…人、だったと思います。合鍵で部屋に入って見つけたのは、青い霧を目鼻と口から吐いてる妹でした。
056.
家族写真の中から父の遺影を選んだ。良い笑顔だと好評だった。けれど、写真立ての中で他の家族と並ぶ父の笑顔が違って見え始めた。歯を見せた屈託のない笑顔だったのが、どこか卑しさや嘲りが混じる。余命を告げられた私は家族と撮った写真から己の遺影を選んだ。良い笑顔だと思う。
057.
赤ん坊は時々なにもないところを見つめたり、喋りかけたりするという。我が家の2歳になる娘もそうだ。多少喋るようになってはいたが、半分ぐらいは意味不明だ。娘はゴミ箱の中にご機嫌で話しかけている。すると不意にはっきりと「ばれないようにね」ゴミ箱から黒いものが溢れだした。
058.
したたかに酔うと死んだ愛犬が来てくれるのだと、急性アルコール中毒で救急搬送されてきた男性がうわ言を言っている。深夜、ぐっすり眠る男性の胸に乗りイボだらけの触手を耳や鼻に挿しこむモノを見たが、無論仕事中のわたしは飲酒などしていない。
059.
世界一のスーパーコンピュータを造る―そんな夢を描いて、何年になるのか。仲間はもちろん家族も恋人も失ったが、ついにわたしは成し遂げた。ある時を境に次々と画期的なアイディアを思いつくようになった為だ。だからこの機械が勝手にロボットを製造し始めても、止めるすべがない。
060.
何を食べても不味い。夏バテの影響かとも思ったが、食欲そのものは異常なほどあって始終腹の虫がグルグルと鳴り続けている。ぐったりと駅のホームに立っていると、スマホを見ながら歩いていた人が線路に落ちた。入ってきた電車に弾かれ吹き飛ぶ体。顔に赤い飛沫が飛び散る。…美味い。