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541.~550.

541.

血がぽつりぽつりとたれている。滴下血痕というやつだ。ドラマ知識だが、雫の形からみて流血している人はあっちの方向へいったことになる。暇だったので血痕を追っていく。50Mほど追った結果、血の滴は胸のあたりに浮いていて、さらに空に向かってぽつりぽつりとたれている。


542.

歯を食いしばって家路を急ぐ。職場でのあまりに理不尽なクレームに怒りが治まらない。頭の中でぐるぐるしている間に、食事を用意し家に入って風呂まで終えていた。無意識のなせる技だ。だから冷蔵庫に昨日捕まえたおじさんが入っているのに、新たに攫ってきたこの人をどうしようか。


543.

こじ開けた部屋から、目鼻を突き刺す悪臭が溢れだした。反射的に床に手をつき嘔吐する。吐瀉物は、漏れだす汚物と混ざり合い、それが更に吐気を誘う。だがそれでも進まなければ。私を呼ぶ、か細い声。神木の樹皮と葉のみを食す我が一族の排泄物で封印された、星空から来た存在の元へ。


544.

エレベーターに乗りこみ、1階のボタンを押す。一番上と下に変なボタンを見つけた。「天」「地」。なんだこれと思っていると次の階で白い翼を生やしたマッシヴな美形が、おっさんの首根っこを掴んで乗り込んできて、地のボタンを押した。僕が1階で出ると、そのまま降りて行った。


545.

確かにわたしは、バカにされても仕方ない人間だ。目糞でクズなのだろう。だけどそんなわたしを嘲笑うお前らは、鼻糞でカスだ――臆病なわたしがそんなふうに開き直れたのは、急に社内に充満した赤黒い霧と乱舞する化け物と飛び散る血潮のおかげだ。みんな平等なか弱い血袋だったのだ。


546.

雨に濡れたアスファルトに、街灯の光が照り返し、私の顔が映し出される。はずなのに、光る路面に映っているのは母の顔。雨の夜に必ず私をビニールのゴミ袋で梱包し押入れに閉じ込め、今は自分が病院に閉じ込められている。雨に濡れた髪が歌い出す。冷たい雫が、腐り始める。


547.

葉っぱや川が歌っているね。自然の音をそんなふうに言って無邪気に笑っていた子どものころの記憶はあまりない。けれど本当に葉や川は、風は海は空は歌っていたのだ。地底深くに棲むモノ向かって。耳を塞いでも、猛々しく禍々しいモノの応え―大地の激震が止まる筈もなく。


548.

急に暑くなった。溜まった洗濯物を洗って干し、窓を開け放ってソファに寝転がった。カーテンが爽やかな風に揺れる。年中こうなら楽なんだけど。からんっとコップの中で氷がずれる音がした。でも飲み物は用意してない。薄ら目を開けると、死んだ母が麦茶を置き、白い粉を混ぜていた。


549.

丈の伸びてきた水田は緑の海原のようだ。風にうねる稲の合間に3メートルぐらいの頭が見え隠れしている。ぼさぼさの黒髪をざっくりと三つ編みにした女の子。昔いじめの末に自殺した中学の同級生だ。どこを見ているかわからない眼差しに見つかる前にと、私は車のアクセルを踏みこんだ。


550.

部屋の僅かな空気の動きで、薄く開いたロッカーのドアがきいと動く。縦長の閉鎖空間の闇の中に祖母が悄然と佇んでいる。きい。一度閉じて開くと母が立っている。きい。見知らぬ、面立ちの似た女がしゃがんでいる。きい。細い隙間から部屋が見える。小学生の娘が青い顔で私を見ている。

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