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531.~540.

531.

胎盤がなければ血の繋がった我が子でも異生物と判断され、免疫の攻撃を受けるのだという。血縁も何もないではないか。自分以外は全て敵。それが生命の本質。胎内で育つのは、実父が呼んだ異形の神の胤。早く生まれておいで。緒が切れたら完全な敵。あらゆる手段で殺してやる。


532.

朝起きて窓を開けると、てるてる坊主の首が降っていた。まん丸い白い布は雪のように白く、ぽすぽすと軽い音を立てて降り積もっていく。TVをつけると特別ニュース番組。「今年も我々の祈り空しく梅雨が来ました。犠牲になられた五月晴れにお生まれの方々に哀悼の意を」


533.

偉大な魔法使いが世を去った。彼が遺した魔法の効果は、人の世の続く限り消えることはないだろう。完璧な魔法というのは、そういうもの。人が在ってこその魔法。顔無き御使いは輝きを失わない人の魔法を暇を持て余す白痴の神に捧げてみる。神は即座に創られた世界を壊した。


534.

歌が聞こえる。とても美しい歌声が。不安と眠りを誘う旋律、ひび割れつつ澄んでいる神々しい呪いを孕んだ美声だ。歌っているのは、絶やすことを禁じられた囲炉裏の炎の下に埋められたしゃれこうべ。灰は、しゃれこうべの持ち主と一族の遺灰。歌が止む日、全人類が自由になるそうだ。


535.

星の光が失われて久しい。地球が浮かぶのは完全な暗黒。宙より降り来る邪悪な存在を排除するため、永遠の闇に鎖すことにしたのだ。星座や星空の知識は禁忌とされた。しかし古の書を紐解いて少女が小さな缶で天象儀を作り上げた。密室に広がる星の海。禍々しい神々の叫びが、聞こえる。


536.

夕焼け、だと思ったのだ。山の稜線を赤く縁取る、太陽の最後の光だと。いつもの帰り道、見上げた赤い空。消えていく筈の赤が、じわりじわりと空を圧して増え続け、あの日から青空も星空もなくなった。赤一色の空からは巨大な九本指の手が流星の速度で落ちてきて、街に穴を開けていく。


537.

足が棒になってしまった。右足は膝まで、左足は太ももの半ばまでが檜の棒になってしまった。というか幹か。歩けないし、成長痛に似た痛みにずっと苛まれている。段々棒が、いや足が、伸びているのだ。最近気になるのは、根っこは伸びている棒(足)の方か、体の方か、どっちなのかだ。


538.

強い風で雨が吹きつけ、全身びしょ濡れになったところを電車の冷房で冷やされすっかり凍えてしまった。背中がぞくぞくするし、心なしか吐気もする。暖かい湯にゆっくり浸かった方が良いだろう。お風呂場で蛇口を捻ると、大量の蛇がにょろにょろ。爬虫類じゃ温まれないじゃないか。


539.

綺麗な空だ。鮮やかだが目に優しい水色の空に、白い雲がもふもふと広がり、涼やかな風が吹き抜けていく。なんて素敵な朝だろう。背筋をぴんと伸ばして、爽やかな空気を胸一杯に吸い込む。手袋をはめ直し、999人の人間の血錆で切れ味最低の刃物を、最後の生贄の喉笛に押しこんだ。


540.

明日は、梅雨の晴れ間だという予報に人々は戦慄した。食料を買い込み、学校も会社も休みになった。海外のTV局は日本に梅雨の晴れ間が訪れることを大々的に報じ、米軍のみならず近海には他国の軍艦が集結しつつある。夜が明けた。美しい朝日。予報通り、晴れ間が来る。

533話は、クリストファー・リーの訃報をきいて。

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