表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/100

521.~530.

521.

沐浴の隙に、彼女が纏っていた赤く透ける薄絹を隠したのは私だ。天に返したくなくて、これがなければ飛べぬだろうと。思った通り天に帰れぬ彼女に親切にし、夫婦になった。だが彼女は諦めていなかった。生まれた我が子を包む生温かく濡れた薄絹を広げ、彼女がゆらりと舞い上がる。


522.

七色に光り輝く竹を、慎重に切ってみると中には玉のような美しいモノがいた。布に包んで持ち帰り、育ててみることにした。玉のような美しいモノは口もないのになんでも食べ、すくすく丸々と大きくなり、家よりも大きくなり、山をも凌駕し、ついには星をも呑み込んでしまった。


523.

姉姫たちから渡された短刀を持ち、人魚姫は愛しい王子様を見下ろしていました。「殺しなさい。奴らの種族は敵なの」王子様を殺さなければなりません。でも人魚姫は王子様を愛してしまったのです――王子様が、何年か待てば海で暮らせる身体になると知ってしまっては、余計に。


524.

地震が、止まった。暫くしても地震が始まらない。人々がざわつき始める。生まれて初めて動かない地面に立った幼児が怯えて泣きだす。揺れる世界に慣れた体に確固たる大地の感触は硬過ぎる。それに。揺れが治まったということは…世界を揺らす鼾の主がまどろみから醒めたということ。


525.

赤い頭巾を被った少女は、籠をしっかと抱えて森の小道を祖母の元へ急ぐ。「狼に気をつけて」何度も諭す母は泣きそうな顔だった。しかし狼は現れることはなく、祖母の家と教えられた場所には祠。「ヨクキタネ」初めて会った祖母はヒトの形をしておらず、少女を赤い頭巾ごと噛み砕いた。


526.

閉じ込められて、どれくらいの時間が経ったのだろう。灯りは頭上の僅かな隙間から零れてくる掌大の陽光だけで、監禁場所の大きさもよくわからない。壁を掻き毟った手は傷だらけだが痛みは麻痺した。だから爪の代わりに緑の芽が出ても痛くも痒くもない。蔓は陽光目指して伸びてゆく。


527.

TVから響く警報音に背筋が凍る。人が不快感や恐怖心を喚起するよう造られた音なのだという。正しいのだが、現代人は命の危機というものへの耐性が低い。おおおん、と洞穴に響くような鳴き声がし、窓の外を巨大な蹄のある七本の足が通り過ぎていく。ああ、洗濯物が踏まれてしまった。


528.

手作り飛行機で世界一周をするという無謀過ぎる挑戦の旅に出た友人が行方不明になってから十年の月日が経った。普通に考えれば海の藻屑となったのだろう。確か死亡認定もされた筈だ。星の瞬く夜空を黒い大きな影が過ぎり、部屋の隅で埃を被った無線機からノイズが消える。『帰りたい』


529.

貌無き神はゆったりと人間たちを見下ろして、小首を傾げる。かれを信望する人間の手により、この地に根差した神は放逐された。空席には貌無き神の主や他の神々が座ろうと殺到している。滅びが迫る中、変らず己の営みを続ける人間たち。地球に蔓延るこの種族が少しばかり恐ろしい。


530.

「背中のファスナー、上げてくれない?」首を艶めかしくくねらせてこちらを振り向く彼女。いいよ、とファスナープルをつまむ。「ねえ、髪の毛引っ掛かってて上がらないよ」「長くて綺麗な髪だったのよね」啜りあげる音共に彼女の背中に髪が引き込まれ、無事にうなじまで閉めることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ