511.~520.
511.
父はサラリーマンだったが以前実家は養蚕を営んでいたという。「だからたまにあるのじゃよ」祖母が私の腹を撫でて笑む。胎内で育っているのは蚕の幼虫だ。「ゆっくり風呂に入っておいで」言われた通りにすると腹に激痛。これが陣痛?驚いているうちに大量の絹糸が湯船いっぱい溢れた。
512.
幼い私が食べさせられたのはなんの肉だったのだろう。生まれた時から幾度も死の淵を彷徨った私に海で助けた生き物から肉を貰い与えたらたちどころに健康になったという。青い雲から血と臓物の雨と共に舞い降りてきたモノどもは、私が雛鳥であるかのように捕えた人肉をくれようとする。
513.
異様に背の高い痩身の男性が、背を折り曲げるようにしてドアをくぐってきた。「一着仕立てて欲しいのですが」名前を聞くと常連客だった。ここに勤めて長いが見覚えは全くない。しかし手順通り採寸し、布を共に選ぶ。「出来上がる頃参ります」その時もきっと彼を忘れているだろう。
514.
新しい彗星が発見されたと興奮する朝のニュースを背に遅刻ギリギリで家を飛び出す。眼鏡を忘れたが、遠視だからなんとかなる。走っていると空から轟音。騒ぐ人々。見上げると炎に包まれた巨大なものが空を切り裂いていく。遠いけど巨大だから分かる…左だ。
515.
壁に鼻が生えていた。ゲリラ的に設置された前衛的なアートなのかもしれない。そっと触ってみると人の肌っぽい弾力がある。試しに油取り紙を乗せてみると、油がとれた。一緒に見ていた子どもが鼻の穴にアグレッシヴに指を突っ込んだら鼻血が出たので、ティッシュを詰めてあげた。
516.
私は宝石商が黒い掌に載せた真っ黒な宝石を覗き込んだ。「気をつけて、落ちたら這いあがれませんよ」「本当に貴重なものだ…人を煮詰めて煮詰めて超圧縮して人の中の最も揺ぎ無い部分だけが残った、稀なる宝石!」「わりと簡単ですが、希望という輝きを取り去るのが一苦労なんですよ」
517.
いじめられている亀を助けたら、海の底の奥津城へ案内された。この世のものとは思えないもてなしを受け、地上へ返される。浜辺でのそのそしていると、蹴られたり棒で殴られた。駆け付けてくれた親切な人を、海の底へとご案内する。
518.
川をぐいぐいと大きな桃が遡ってきました。おばあさんは桃を川から上げて、鉈で割って食べました。するとみるみるうちに若返り、牙と爪が伸び、鬼になりました。帰りが遅いのを心配して見に来たおじいさんを食べ、近隣の村人を食べた鬼は、川辺で木になり、大きな桃の実をつけました。
519.
荊に覆われた荘厳な城の最上階に、魔法の眠りについたお姫様が、呪いを解いてくれる王子様を待っている…そう噂を流すだけで、特になにもしなくても次々人がやってくる。「試練を乗り越えられなかったんだねえ」と言うだけで、毎日人を殺していても許されるなんて、面白い。
520.
愛犬を殺され、その墓標の木は切り倒されて灰にされた。でも、器物破損なのだそうだ。愛するものの命が軽いと言われたような気持になる。爪が掌に喰い込んで血が零れた。血塗れの手で灰を撒く。ざわりと草木が蠢いた。隣家の庭を侵略するように、次々花が開いていく。
514話は、二十億光年の島田黒介様より頂いた「遊星より飛来するランドルト環」に基づき作成しました。
というより飛来しました。
島田様のツイート「#RTした人が主人公の小説タイトルを考える」にふぁぼって、考えて頂きました。いあいあ。(※ありがとうございますの意)
つまり本体を忘れたこいつは、私ですね。
517話からは、「昔話改悪シリーズ」とでも呼べそうなお話が続いております。
いつまで続くかは不明。




