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041.~050.

041.

その本は人間の生皮で装丁されているという。更に不気味なことに、その革表紙は触れるとうっすらと汗ばんでいるかのようだ。本自身の魔力によってかたくなに開こうとしない魔導書を見つめていた相棒が呟く。「エアコンを切ろう。」ぱっと開いた個所は、私達が見たいページだった。


042.

水死体めいた寒気を催す無毛の巨体が、両手を突き出してまろぶように駆け寄ってくる。掌には尖った牙が並ぶ第二第三の口。信者たちを殺さないように戦っていた私は、一瞬対応が遅れた。三つの口で噛まれる…と覚悟した途端、勝手に転び、土が入った三つの口のでケホケホむせ始めた。


043.

長い純白の被毛に覆われた巨体。人や大型類人猿に似た体型だが、そのどれとも異なる。冬山であれば1Mの距離でも気付けまい。だが今は真夏だ。私は苦笑し、相棒は腕組みをして睥睨している。ぴたりと緑の草地に伏せそれの毛皮を心地好い風がわさわさ揺らしている。


044.

ヘマをした私と相棒は、オカルティストたちによって厳重に縛りあげられ生贄の祭壇に放りだされた。長い儀式の末に呼び出されたモノはふかふかの毛に覆われた蟇蛙に似ていた。顕現した時薄く目を開けていたが、一度大欠伸をしてから今に至るまで、ぐうぐう寝入っている。


045.

お礼に貰ったその箱は、時間を停滞させることができるのだという。サイズが中途半端で使い道がないからどうぞ、と言われた相棒は「ちょっと改造しようよ」と円錐形の生き物と一緒に箱をいじり始めた。暫し後、箱にはスマホが嵌めこまれた。以来電池は持つが、時計は使えなくなった。


046.

魔術師が己の魂を閉じ込めた絵画があるという情報を得て、私と相棒は辺境の廃教会を訪れた。の、だが。教会は綺麗になっていた。話を聞いたところ先月新しい司祭が赴任し改装が終わったという。絵の事を尋ねると、すぐに案内された。壁の肖像画は、残念な感じに修復されていた。


047.

闇の中から不意に私の首を襲ったのは、大きな毒蛇だった。地球産の毒蛇であれば耐性があるが、これは違う。牙が離れた途端、傷口がぶくぶくと泡立ち激痛が走る。天井から逆さにぶら下がった魔術師の両腕は蛇の姿に変じ、魔術師の哄笑と共に耳障りな威嚇音を発した。


048.

「わー、綺麗…だが斬る」一瞬表情を輝かせた相棒だが、金切り声をあげるガイガーカウンターを投げ捨てると隕鉄から作った特異な磁気を放つ脇差を振るった。靄のようにたゆたう虹色が絶叫を上げて両断される。相棒の髪はバチバチ凄い音を立てながら重力を無視して逆立ってしまった。


049.

しこたま酒を飲んだ。親友と思っていたヤツと婚約者の不貞を知ったからだ。何件目かで隣に座った男に蛸の足が浸けこまれた酒を貰った。「全て忘れられる」と漆黒の肌の男は微笑んだ。瓶を抱えてよろよろと帰った。ああ酷く酔っている。蛸の足が栓を押しのけ、ずるりと伸びて僕の首に


050.

ふと、今年は蝉の声を聞いていないような気がし始めた。仕事中は聞こえないだけとは思うが、気になりだすとふとした拍子に蝉の声を探してしまう。自宅の壁に、アブラゼミが張り付いて鳴きだした時には安堵すら覚えた。俺は無造作に蝉を掴むと羽と足と頭をもいで口に放り込んだ。

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