481.~490.
481.
立派な桐箪笥には今は亡き祖母の着物が入っている。その中の、海のような青に、血のような彼岸花の図柄の着物が私のお気に入りだ。なにしろその彼岸花、私にしか見えないのだ。たまに見ると花ではなく伸び上がる触手に変わっている。そういう時は決まって一族の誰かが海で消える。
482.「毎月14日はツイノベの日おかわり・お題:おやすみ」
うとうととしてると恋人が笑う。「おやすみ」言われるまでもなく、ぱたりと意識が暗転し。「起きろよ、おはよう!朝ご飯!」頬をべちべち叩く、喋る猫。「ほんとに寝てた?」「おう。また俺のいない世界の夢?」寝た気がしないのだから、どちらもきっと夢じゃない。
483.
人々の目の前で、女はけたたましく笑いながら橋から飛び降りた。異常事態に思考が追いついた時には彼女の身体は既に橋の下。いくつもの通報、川の捜索が始まる中、冷静な人たちの脳裏を過ぎる疑問―水飛沫の音したっけ?翌日、目撃された女性が橋の上で墜死体で見つかった。
484.
イライラを口に出さずに溜めこんでいたら、身体からトゲが生えてきた。服が破けては困るので無理やり折ると、痛いし血が出る。イライラしながら投げ捨てると、窓をすり抜け飛び去った。翌日大嫌いな上司が心臓発作で死んだとの報せ。さて失血死と皆殺し、どっちが先かなあ?
485.
桜が嫌いだ。幼い頃、身体の弱かった私を救うため両親は樹齢数百年の大桜に血肉を捧げた。おかげで私は丈夫になり、今も元気に生きている。「あら、桜の花びらがついてるわ。開花の時期だものね」微笑み返してそそくさ部屋に戻ると服を脱ぐ。背骨代わりの大枝から淡い色の花開く。
486.
どうしても忘れられない。だからつい、情事のときは相手の肌に歯を立ててしまう。私の顎の力ではすぐに消える痕がつくだけで、むしろ可愛いなどと喜ばれる。食い千切ったりしたら大変だからこれでいいんだけど…忘れられない。雪に閉ざされた冬山、未だ行方不明扱いの恋人の味。
487.
異界から邪神を召喚する儀式の生贄にされかけていた私を助けてくれた人は、名前も告げずに去っていった。異常な状況で命を救われて恋に落ちるなんて、まるで映画だ。映画ならあの人と恋人になれたのに。私は邪神召喚儀式の準備を整えてあの人が来るのを待っている。
488.
最近、お風呂の排水溝の流れが悪い。そろそろ掃除をしないと髪の毛とか溜まってるんだろうななどと思っていると、噎せ返るような腐臭。まさか下水が逆流してきた!?がぼっと排水溝から出てきたのは、ヘドロ色の触手。そして先端の艶めかしい真っ赤な唇が「掃除しろ、くせえ」美声でした。
489.
彼女が目をしっかり閉じて眠っているので、そっと顔を出して覗き込む。できるなら彼女の瞳を見てみたい。自分の存在も知ってほしい。でもそれは無理な話。僕を見た者は皆狂い死ぬ。#twnovel 目を閉じて待っていると今夜もそれがやってきた。あまりに美しくて争いを呼んだ古い神なのだという。
490.
狂った祖母が死んで何年か経つが、未だに寝室からは孫の私を呼ぶ叫び声がする。最初は思わず見に行ったものだが、今は完全に無視だ。今日も縋りつくような呼び声。どしゃっ。生前は何度か聞いた寝台から落ちる音。犬が雷のような唸り声を上げる。祖母の甘く腐った匂いが鼻をついた。




