461.~470.
461.
何年か前に海辺で撮った写真。ピースサインをしてはしゃぐ俺と友人たち。背後の荒波の中に、不気味な半魚人みたいなのが写ってる。心霊というよりUMAだなとか笑ってたが、これは心霊写真だ。だって写真の中の半魚人がどんどん俺に似てきて、俺はどんどん半魚人に似てきている。
462.「毎月14日はツイノベの日お題「かすかに」」
目を覚ますと、枕元にカカオの木が生えていた。ラグビーボール型の実がたわわに実っている。実がもげて次々顔に降ってくる。物凄く痛い。動けず腕で頭をかばう。「手作りっていうなら木からって言ってたから」実の乱打の中、去年山に埋めた女の声がかすかに響いた。
463.
美しい石には人の想いが宿るといいますが、いやはやこれは…随分と深い色合いのエメラルドだ。同じくらい業も深そうでございますね。こちらを割ってピアスに仕立て直すと?承りました。身につければ見る者の嫉妬を一身に集めるでしょう。首飾りの持ち主を貴方が見ていたようにね。
464.
「先日助けて頂いた、眠気です」うとうとしていると、突然声がした。どういう意味?と考えると「わたくしが、つまり眠気がきたときに逆らわずに眠ってくださいました」ああ、昨日の。「お礼に、永遠の眠りを差し上げます」人面の蜘蛛に生きたまま喰われていた私は一も二もなく頷いた。
465.
近所の寺に、お経を読む木というのがあった。木肌に耳を押し当てると、たまにお経が聞こえてくるのだ。御神木というか霊木というやつだったのだろう。美声だったので、ふざけ半分で木の小さな穴にイヤホンをいれて色んな歌を聴かせた。十年後、美声でロックを歌う木になった。
466.
雀が涙を流していた。雀って泣くのか、そういえば雀の涙って言葉があるよな。などと思いながら眺めていると、小さな丸っこい雀のつぶらな目からぼろぼろと大粒の涙が零れ続ける。次第に羽がカサカサと抜け始め、細く萎れ干乾びて息絶えた。涙が、目から勝手に溢れ始めた。
467.
隣に立った人の傘から水が滴り落ちている。外、雨なのか。いつも鞄にコンパクトサイズの折り畳み傘をいれてる俺に死角はなかった。水たまりが大きくなっていく。畳む前に水切りしなかったのか。人の肌に似た色の傘から、延々水が滴る。なんだか臭い。加齢臭に似ている。
468.
ドアスコープを覗くと、犬がいた。人の体に犬の頭が乗っている。被りものじゃない。血走った目や、震える唇、牙から滴り落ちる涎は興奮している犬そのものだ。翌日犬男はエレベータの前にいた。次の日はアパートの玄関。少しずつ遠ざかる。確認しているだけ。ついてってるじゃない。
469.
昔、この辺りは養蚕の里だったらしい。私が生まれた頃には我が家は既に普通の会社員だったが、裏山は桑だらけだ。蚕は人の管理を離れて野生化できない種なのだと祖母に聞いた。その手があったと彼の手足を落として閉じ込め桑の葉を与えて養っていたら、昨日から繭を創り始めた。
470.
それは代々続くとても立派な雛人形で、本物に迫る絢爛な着物、装飾品も小さいだけで豪奢に緻密に作られ、人形たちはひと抱えほどもあり表情にも味がある。未婚の母の娘である私が七歳になる年、動かぬ筈の女雛が男雛の首をもいだ姿で見つかった。もがれた首は私によく似ている。




