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401.~410.

400.

赤い傘の女の子を歩道橋で見たら、通ってはいけない。万一通っても、無視しなければならない。彼女はいう。「虹が見たいの」ちょっとでも反応すると、風が吹く。女の子の手から離れた傘の取っ手が喉に突き刺さり、風に乗って空の高くへ。絞りとられた血の雨では虹は出来ないのに。


401.

原因不明の不治の病に罹った。自死は法が許さず、自ら手を下すこともできず、いつしか全て諦めた。しかしある日空から大いなる邪悪がやってきて、人も獣も花も木も虫も残酷に弄ばれ始めた。水晶のような透きとおる鉱物と化した私は一部始終を眺めているが、既に思考も硬質化している。


402.

ハロウィンの仮装パレードに出たいというから、人ごみは苦手だけど出てきたのに…。お菓子を貰うとジャンケン(方法不明)で代表を決めた人皮装丁の魔導書も使い魔のショゴスもガチ仮装した人間たちの気迫に圧されてマントに隠れ、私は「なんの仮装?」と熱烈な質問攻めにあっている。


403.

寒さに首を竦めて歩いていると、太鼓のような音が聞こえてきた。お祭り?にしては叩くリズムがめちゃくちゃだ。なんだろう、と角を曲がる。道いっぱいの蟇蛙に似た生き物の半透明の腹の中で、何人もの男女が必死で腹を叩いていた。ああこれか、と長い舌に巻きとられながら思った。


404.

居間のテーブルに花束が座っていた。違う。パパとママだ。目や鼻の穴、口、耳の穴、よくみれば毛穴からも、いろんな花が突き出て花開いている。蜜蜂や蝶が窓から入ってきて楽しげに飛び回っている。頭にちょろちょろ水がかけられた。視界が花びらで埋め尽くされていく。


405.

酒飲み友達が、たまには紅茶もいいだろうと用意を始めた。実はメインはこれなんだよ、と黄金色の蜜が入った瓶を掲げる。ひと掬いして、透き通る紅葉色の水面に垂らす。蜜の中の気泡から次々溢れたのは人の嘆き、啜り泣く声。「一滴で充分だな」「そう、世界で一番甘い蜜だからね」


406.

首を吊ってからもう三日も経つのだが、いっこうに死ぬ気配がない。邪魔されないよう滅多に人が来ない山奥を選んだので、発見もされない。風に吹かれて揺れているうち、枯葉が伸び放題の髪の毛と絡んで、体にぴったり張り付いた。暖かな枯葉に包まれて、春の日差しを待っている。


407.

学校から縦笛を何十本も盗んでいた男が逮捕された。一体どんな目的があってこんなことをと世間が眉をひそめる中、警察は頭を抱えていた。押収された縦笛どもが、夜な夜なひとりでに奇怪な音楽を奏で、保管された多数の証拠品が飛び出して署内を跳梁跋扈するようになっていたからだ。


408.

加湿器から変なにおいがする。カビ?嫌だなと思いながら、タンクを外して見てみる。本体側にも、タンクにも異常なし。一応フィルターや外せるものは外して洗い、天日干しすることにした。昼過ぎ、海水の腐ったようなにおいと爆音に驚いて見ると、加湿器は粉々になっていた。


409.

世界滅亡願望というものがあるらしい。将来が真っ暗とか今日ひどいめにあったとか、いろんな理由で。「でも実際に滅亡するとなれば、死にたくないものだよ」と笑った彼は棘だらけの触手の化け物に弄ばれ、殺してくれと叫んでいる。その横をひっそり通り過ぎつつ、滅びを待っている。


410.

どうしてもとお願いして、祖母からオルゴールを貰った。深みのあるワインレッドの木製で、中は硝子張りになっていてシリンダーが回るのが見えて好きなのだ。祖母は死ぬ間際まで何度も「ぜんまいを逆回しにしてはだめ」と言っていたが、不思議なことにどこにもぜんまいが見当たらない。

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