391.~400.
391.(全滅亡祭参加作品)
自分はダメな奴だ。世界を滅ぼす為に生まれて、たまに滅ぼそうとするんだけど。途中で眠くなったり、別の事に気が散ったり。それになにより、あの言葉を聞くとどうしても滅ぼしたくなくなる。滅ぼさなきゃならないのに。「また明日ね」誰も言わなくなったら、やれるかな。
392.
虹の生まれるのは、夢のような素敵な場所だと子どもの頃思っていた。成長して、ただの自然現象だと漠然と考えていた。どちらも違った。命尽きた友人たちの脳天から伸びる虹。巨大な手が徐に虹を掴んで引くと、魂と呼ぶべきものが抜き取られた。綺麗な虹が嵐が去りゆく空にかかる。
393.
おかあさん、ここをあけて。とびらを、たたく。いいこにするから、あけてよ、おかあさん。とびらのむこうから、はんのうはない。みみをすます。いきづかいが、きこえる。おかあさんは、とびらのまえにいる。たたく。あけて。もう、そとにはだれもいないの。おかあさんしか、いないの。
394.
まだ中身はあるはずなのに、チューブからハミガキが出てこない。両手で絞ろうとしても、中でぐにゃぐにゃ動くだけ。詰まってるのかもと、爪楊枝を突っ込んでみた。階上で凄まじい叫び声。三年近く引き籠っている兄だ。チューブから赤い液体が滴る。階段を猛然と駆け下りてくる音がする。
395.
急に寒くなった。昨日は半袖で平気だったっていうのに。遊びに来る予定だったヘビ人間の友達は「うごけない」というダイイングメッセージすれすれのメールが朝来て以来音信不通。灯油を買いに行った使い魔を、室内でコートを着こみ、くしゃみをする人皮装丁の魔導書を抱きしめて待つ。
396.
誕生日プレゼントに貰った靴下に足を入れると、ぬるりとした生温かい感触。え、と思った時には靴下に足首から先を食い千切られていた。鮫に似た三角形の牙がずらりと生えた靴下はゲッゲッと鳴いていたが見る間に黒く萎んでしまった。片割れの靴下と手袋が動けない私に這い寄ってくる。
397.
世界を滅ぼすものは、ここもかぁと溜息をついた。何故なら世界の滅びが確定した時、大喜びした生き物達がいたからだ。いろんな世界を滅ぼしまくったが、割とあるのだ。特に頑張れば自分を倒せそうな複雑多様な可能性を持つ生き物ほど、滅びを喜ぶ。不思議だ。これだからやめられない。
398.
気が長くて、穏やかで滅多なことでは怒らない彼女が、殺された。遊び半分で冷たい川に突き落とされた。幼いからと無罪になった。でも彼女は許さなかった。彼女の死んだ日から育ち始めた彼女と同じ名の樹。見事に花開き、宴会が催され、大人になった人々の上に突然折れて倒れ込んだ。
399.
オレの友達、真の姿は触手とか目玉とかいっぱいある化け物なのね。でも人間に化けて生活してる。最近恋をしたんだけど、相手は漫画大好き二次元が恋人ってタイプ。でもリアル恋愛する人もいるしって励まそうとしたら「俺は四次元にだって行ける!(涙)」って。肉まん奢ってやった。
400.
赤い傘の女の子を歩道橋で見たら、通ってはいけない。万一通っても、無視しなければならない。彼女はいう。「虹が見たいの」ちょっとでも反応すると、風が吹く。女の子の手から離れた傘の取っ手が喉に突き刺さり、風に乗って空の高くへ。絞りとられた血の雨では虹は出来ないのに。




