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031.~040.

031.

先だって引き千切られた相棒の足は無事に生えてきた。気の良いグールたちの貢物のおかげだ。調子はどうだと聞くまでもなく、相棒は素足のかかとを唸りを上げて振り下ろす。球状の胴に蟹のような脚、無数の吸血管を持つ生き物の化石が粉々に砕け散った。


032.

赤富士は縁起物だという。だが、これは縁起が良いどころか、どうしたらいいかも分からない。山が丸ごと燃えていた。生ける炎の邪神そのものは降臨しなかったが、祭壇を壊すのが少し遅かったらしい。無数の炎の精たちによって山ひとつがキャンプファイヤーと化し、世界を赤く照らす。


033.

日本には百目鬼という目がたくさんある妖怪がいるが、百近い顔をつけた特大な芋虫とどちらが気色悪いだろうか。私は既に感覚がマヒしているが相棒はダメだったらしい。眼鏡を外して「何も見えない、なーんにも見えない!」と叫んでダッシュで逃げ出した。私も逃げるとしよう。


034.

蛙のようにぎょろりと飛び出した目、腐った沼色の湿った肌、背骨は曲がり奇怪な歩き方―息抜きの為私達が訪れた温泉は邪神の眷属の街だった。だが世界有数の温泉豊富な島国の山奥に順応したせいか、すっかり山の民と化し平和そのものだ。それともこの居心地の良さが罠なのだろうか。


035.

温泉街は豊富な湯を利用したエコな発電システムだった。他にも地球温暖化対策にやたら積極的な半魚人たちに訊いてみた。氷が溶けて水位が上がる方が版図が広がるのでは?と。「ルルイエの浮上が大変になるので」即答に納得しつつ、温暖化推進について一考した方がいいのかもしれない。


036.

七夕祭だと半魚人たちが楽しげに笹を飾っている。「アルデバランじゃないからいいのかな?」渡された短冊に「健康第一」と達筆で書く相棒の呟きを聞いて、ひとりがぴょんと近寄ってきた。「年に一度の高頻度で星辰が整うお二人にあやかるんです」こいつらやはりどうにかしないと。


037.

懐かれた。相棒は身を折って笑い、埃っぽい床をバンバン殴っている。お陰で床板は割れ、床下のいくつもの死体が見つかった。いやそれはいい。問題は異界出身の幻の巨大な馬の餌付けに成功し、頬ずりされていることだ。太陽の光をいっぱいに浴びて育った林檎は魔をも魅了するらしい。


038.

この前の温泉で習ったと相棒は微笑んだ。「ダゴンぴょこぴょこ三ぴょこぴょこあわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ」何か違う生き物が集まりそうな呪文を都合十回噛まずに連続で唱え切ると、川面が湧きたちナマズにコイからヤマメまで数多の魚が集まり、二人で次々手掴みで捕まえた。


039.

魔術師が放り捨てたのは、金色の壺のようなランプ。落ちて横倒しになった時に火は消えたが、私が吸い込むに充分な蒸気が噴き出していた。強い眠気に襲われ、無様に相棒の腕の中に倒れこむ。名状しがたい奇怪な光景がまぶたに映り、痩せ細り餓えた襤褸布のような獣と目があった。


040.

部屋の角から青黒い煙と酷い刺激臭とともに不浄の猟犬が現れた。青緑色の粘液に覆われた襤褸布のような体、鋭い筒状の舌が牙の間から零れ落ち、癒されることのない飢えた目が私を捉え―相棒が完璧な球状の水晶を投げつけると、透明な玉は青黒く染まって床に落ちた。「ゲットだぜ!」

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