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371.~380.

371.

自分のファミリーツリーを創ることにした。既に両親も亡く、専門家の手を借りて何年もかかって完成した。出来あがった家系図には共通点があった。血をつなぐのは必ず第4子。第1子から3子まではみな幼いうちに死ぬ。二度の流産を経た妻が、食入るような目で妊娠検査薬を見ている。


372.

大吉しか引いたことがないと彼は笑った。幼い頃は単純に嬉しかった。成長してからお御籤とみれば必ず引いた。必ず大吉。同じ場所で十回連続で出たこともある。けれど特別凄いことが起こるでもない普通の人生だ。今、彼の手には大凶。「何もないよね?」私は彼の目を見られなかった。


373.

生きていると辛いことがある。死にたくなるようなことが何度も起こる。けど小さくても、良いことや楽しいことは必ずある。だから私は願う。私や私の大切な人達を生き地獄に落とした奴らの死を願う。一瞬の幸せだって味わわせてやるものか。顔のない神父様は楽しげに引き受けてくれた。


374.

疲労の極地だからだろう、最近夜ひとりで静かに眠ろうとすると幻聴が聞こえる。一度病院に受診してみようか。でも忙しくて時間がない。無視して寝るのだ。眠れ。「がんばるねぇ」「現代っ子はストレスに弱いなんて嘘嘘」「どこまでいくか、楽しみだね」「上の階のはそろそろダメそう」


375.

古着屋を営む我が店には、呪われているらしいドレスがある。デザインが美しいため、店頭に出すとすぐに売れ、すぐに戻ってくる。今日も暗い顔をした遺族からドレスを買い取り、マネキンに着せる。「うん、似合ってる」意識せずいつもかける言葉。マネキンが笑った気がした。


376.

やっと理解した。彼女は決して僕のモノにはならないと。職を、友を、家族を奪い、手足の自由を奪い、手足そのものを奪い、命も奪って、やっと逃げられないと思ったのに。彼女の肉で育てた木、その葉を食べて育った漆黒の繭から出てきたモノは僕には一瞥もくれずに窓から飛び去った。


377.

俺の主食は夢。ある寝所に忍び込み、顔を見下ろすとその人間はぼろぼろと涙を流していた。これは良い悪夢に違いないと食べてみれば、思った通り極上の悪夢だった。次の夜もその次の夜も最悪の悪夢で毎晩大満足。腹を撫でていると、ぱちりと人間が目を開けた。「ありがとう」


378.

私の友達、化け物なんですけど、とても良いやつです。人喰いとかではなく、ひたすら真の姿の見た目がグロいだけ。でも体を変形させるのが得意で、人間に化けて学校に通ってます。ただ問題が。「吃驚したあ。口から心臓出ちゃった♪」比喩なんかを鵜呑みにして、本当にやるんですよね…。


379.

「この海をイエティが泳いでたんだって!」と、天然が激しい友達が釣り糸を垂れつつ言う。たぶんジュゴンを良く似た見た目のマナティと混同し、語感の似たイエティになってしまったのだ。「釣れた!」彼女がワイルドに銛を突き刺した生き物は、類人猿と蛙のあいのこという感じだ。


380.

人は自分が欲しい才能を持って生まれられない。私は人を感動させるような絵描きになりたかったのに、描くもの全てが人の正気を蝕み、名状しがたい冒涜的なモノ達を喜ばせてしまう。今日描きあげた絵からは注射針のような舌を持つ四足獣が現れて、足元でスリッパにじゃれている。

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