351.~360.
351.
ウーパールーパーが大繁殖してしまった。水槽内で共食いが始まり、蟲毒状態だ。最強の一匹になる前に、まだ小さいうちに釣りの餌にすることにした。早速でかいのを釣り上げたと思ったら、もっとでかいウーパールーパーで、仲間が川から次々上がってきて、今まさに俺の頭を噛み砕いた。
352.
#ひと夏の滅亡 海から上がってきた化け物どもは、砂に首まで埋められた俺を無視して砂浜の人々を牙と爪で引き裂き喰い殺していった。暫くして海の匂いが血と臓物の匂いにかき消されると、俺の元へ化け物が集まってきた。一匹が海藻を顔に巻き、手には赤い何かに塗れた棒を持って。
353.
童話の赤頭巾ちゃんや七匹の子ヤギに疑問を持っていた。食べられたのにお腹を裂いたら無事なんて変だ。普通の生き物じゃなかったのかも。海で行方不明になり、三日後に海底洞窟で見つかった姉の腹を引き裂いて出てきたコイツのような生き物だったんだ。そうだ、お腹を糸で縫わないと。
354.
とんとん。壁の中からノックの音。誰かいるの?はいなら1回、いいえなら2回ノックして。とん。埋められたの?とん。まさか、お母さん?とん。私は壁を壊し始めた。お父さんが飛んでくる。「お母さんを壁から出すの!」「違うよ、川に捨てたから」壁の隙間から巨大な爪が突きだした。
355.
ゴミ屋敷を強制的に掃除することになった。家主の老婆は目を血走らせ、乱杭歯の間から唾を飛ばして暴れ、絶叫する。「封印を破ってはならぬ!」堆積する生ゴミや粗大ゴミが崩れないよう縛っているのは注連縄。すべて撤去した。その夜から、片付いた無人の家から謎の遠吠えが聞こえる。
356.
このままでは床上浸水は免れない。だが台風となると、下僕のビヤーキーは怯えて役に立たないので、家具や魔具の避難は私一人でやらなければならない。この国で暮らす以上、研究室は地下は避けて二階にしよう。階下から泣き声。魔導書たちだ。今行くから、頼むから呪わないで。
357.
物心ついたときから、誰にも愛されていなかった。今日フライパンで殴られて、こめかみが陥没。動けなくなった。慌てた両親は僕を林に捨てようとして、木の化け物に食べられた。化け物が蔓を伸ばして僕を絡め取る。僕は生まれて初めて、抱きしめて貰った。
358.
天ぷらをあげていたら電話が鳴った。着信音が小学生の我が子からだったので、反射的に取りに行く。話しながら台所を覗いて鍋の様子を見る。通話を終えて電話を置いて戻ると、油の中になにもない。じゅうっと凄まじい音。居間へ走ると、水槽の中の熱帯魚をえび天が追いまわしていた。
359.
妖精を浸けこんだ洋酒を手に入れた。雨上がりの満月のような金色で、後味は寝所に仄めく恋人の残り香のように甘く胸を締め付ける。新月に星の光を浴びさせるように言われたので定期的に窓辺に置いた。その翌日必ず若い男がひとり消え、グラスに注ぐ酒の泡は嬌笑に似た音で弾ける。
360.
僕は幼い頃から女の悲鳴が好きで、最初は母を驚かせて喜んでいた。段々エスカレートして今に至る。けど、どんなに良い録音機材を揃えても生の声とは違う。「今日はヨシエがいいな」先日購入したきれいな青い鳥は完璧だ。嘴を開け、喉から昨日殺した女の顔がせり出して、良い声で鳴く。




