321.~330.
321.
ドアを開けたら、トイレが砂漠になっていた。金色の砂が山と谷を織り成して、目眩がするほどの陽光が降り注ぐ、そのど真ん中にドアと白い洋式便器。水は流れた。ウォシュレットも。ペーパーは砂の上にあった。立つと、ぎゅぼんっと便器が砂の中に引き込まれた。慌ててドアから逃げた。
322.
父方の先祖がイタクァを信仰しているんですが、そのせいかたまにイタクァがうちに来ます。私は生まれつき耐性が強くて、ちょっと興味を持たれたようです。今一応人ぐらいの大きさに化身して膝抱えてTV観てます。鋼鉄のヒゲ社長が戦う映画。「こんど戦闘機と遊ぶか」国外で頼む…。
323.
ライン引きだ。ぽつねん、と校庭の真ん中にある。片づけ忘れだろうか。大分陽が伸びたが、空は夜が支配し始めている。仄暗く、物が見えにくい時間帯。とりあえず倉庫へ持っていこうとライン引きを持ちあげる。その途端、底部の蓋が開いて、どばっと子どもの足が溢れ出た。全部左足だ。
324.
痛いと思った途端、右目がぽんっと飛び出した。まだ顔に残っている左目で、空中で右の目玉から人の足がぴょこっと生えたのを見た。着地した目玉は、そのまま走り、革靴にぶつかる。黒い指が目玉を拾い上げ、目玉は黒い掌の上で嬉しげに跳ねている。「良い目だ」そういう彼に顔はない。
325.
雨だ雨だと彼女の大騒ぎが始まった。イメージだけど、梅雨ってのはしとしとといつまでも雨が降るものじゃないかなあ。どうでもいいから庭に出してよ!と棘の生えた蔓でぶたれた。俺ははいはいと彼女が植わった鉢を持ち出す。花になったら少しは静かになるかと思ったのになあ。
326.
真夜中のしつこいチャイムに負けてドアを開けると、ゾンビっぽい兎が立っていた。片目は蛆と一緒に飛び出してるし肋骨見えるし腸出てるし。殺されるのかなと寝惚けた頭で思っていると時計を直してと言う。奇怪な時計だったが一晩で直した。兎は嬉しそうに帰り、いつもどおり朝が来た。
327.
私の友達は怪物である。瘴気的なものを放っているし、見た目も明らかに人外だ。でもいいやつだ。人喰いじゃないから友達になれたのかも。その友人が84個の目で真剣に見ているのは私の瘡蓋。一番細い触手でそっと剥こうとしている。傷は一瞬で治るから、剥いたことがないというので。
328.「勝手に13日の金曜日企画、ジェイソンVS神話生物」
だいぶ両生類面になってきた拝戸姐さんは首を左右に振りながら、若かりし日のアメリカの湖での恐怖体験を締めくくった。「深きものじゃなかったら死んでたわね、鉈が首に直だもの。あれ以来淡水恐怖症よ。人間けっこう怖いわ。クトゥルフ様や他の神々が地球支配できないの分かるわあ」
329.
蔵書の陰干しと整理をすることにした。たまにはやらないと、間違いなく私の死因は「崩れた本で圧死」になってしまう。せっせと本を並べ、不要と判断したものを段ボール箱につめていると、テレパシーで悲鳴が聞こえた。駆け付けると、人皮表紙の魔導書の上で蜥蜴がのんびり涼んでいた。
330.
しばらく床に置いてあった雑誌を持ち上げたら、綿埃がもさっと動いた。うわーと思いながら、ひとまず片付けて戻ると、綿埃がない。けっこうあったんだけど…。首を傾げつつ、布団を干すとやたら薄い。どこか破けて綿が抜けたのか。昼寝している夫が動かない。お腹がべこっと凹んでる。




