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271.~280.

271.

ベランダに立ってぼんやりしていると、階下からシャボン玉が舞い上がってきた。けっこうたくさん飛んでくる。シャボン玉の群れに囲まれて水中にいるような錯覚を味わう。でも二度ともぐりには行かない。たぶん次は抗えない。シャボン玉が一斉に割れた。帰っておいでと声がした。


272.

私の故郷には神隠しの伝説がある。昭和の中頃まで七歳迄の子どもは一人の外出を禁じられていた。宅地整備のために潰された沼の底から膨大な数の人骨―小さく細い子どもの骨が出た時は住人全員納得した。我が家は沼の跡地に建てられた。今も庭で近所の子どもがせっせと庭を掘っている。


273.

今日ブラックリストに載ってるクレーマーに当たられた。常識的ではないことでも「お客様」という立場になると違ってくるなんて…ヤな世の中。帰り道、通り魔だ、と叫ぶ声。腹から出血した男性が「助けて」と泣く傍らを皆通り過ぎていく。男性の声は、今日聴いたばかりの声に似ていた。


274.

ぼくは強くなった。もうぼくをいじめるやつはいない。笑っていたクラスのヤツらも、気の持ちようとかいった担任も、お兄ちゃんは出来るのにと嘆いたパパとママも皆、長く伸びた牙と爪でバラバラにしてやった。前の弱いぼくなら出来なかった。違うか。ぼくはただ、失っただけだ。


275.

もう十年以上飼っている金魚がいる。赤とも金ともつかぬ鱗を艶めかせ、悠然と水槽の中を泳ぐ。進学と同時に家を出ると決めた夜、夢に赤と金の薄衣を纏った艶めかしい美女が馬乗りになってきたので引っぱたいてベッドから蹴り落としたところで目覚めた。ごめんね、男性が好きだから。



276.

玄関開けたら、ぶよんとしたものに全身突っ込んだ。必死で暴れるとなんとか抜け出せた。全身が霧雨に遭ったようにしっとり濡れていた。なにも見えないが、手を伸ばすと、ぶよん。奥から愛犬が走ってきて、ぶよんに襲いかかった。ばちんっと大きな音がして、滝のような雨が降り始めた。


277.

子どもを見ませんでしたか。突然近所の主婦に尋ねられて驚いたが、正直に知らないと答えた。妻も怯えた顔で頷く。主婦はフラフラと隣家へ歩き始めた。「あの人子どもいないはずよ」主婦の背にはツギハギのクマのぬいぐるみが負われ、ビーズの目をだらりと垂らして、こちらを見ていた。


278.

いつも行儀のよい愛犬が、突如生垣に向かって猛然と吠えた。そこは私が子どもの頃からある古民家で、今はおじいさんが独り住んでいる筈。バサリという重い羽音に天を仰げば、大きな烏が蛙を咥えて飛び去った。十年前ぐらいから姿をみかけなくなったおばあさんの顔をしていた。


279.

彼女は、いつも窓から外を眺めていた。病的に白い肌にひとつに束ねた黒髪。たまに手を振ってくる。洋館に住む闘病中の令嬢。勝手にそんな設定をつけて洋館の前を行き来していた。その日、引っ越し業者のトラックが門前に停まっていた。見上げると窓辺の令嬢の絵を外したところだった。


280.

冷たいものが頬を撫でた。氷と思ったけれど、閉じた手の中にはピンク色の花弁が入っていた。冷たい水流に乗ってきた、桜の花びら。花びら独特のほんのりとした湿り気は、分厚い鱗越しでは感じられない。私は海に戻ったけれど、珊瑚の森に根差した桜の苗床になるのもまた風流だったのかもしれない。

この辺で追い付かれますかね

次回更新は10話溜まった頃、ということになると思います

お待ちの方は、のんべんだらりとお待ちくだされ

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