251.~260.
251.
ちょっと…いや、だいぶ気合いを入れてやりすぎたっぽい。人生で初めてのすっごい雪だったからハシャいでしまったのだ。庭の隅に雪を盛り上げて毎夜夢に見る変な生き物の雪像を作ってみたのですよ。したらね、月明かりの中、変な生き物が集まってきて、なんか儀式っぽいの始めたなう。
252.
呪術に必要な『瀕死の雪の悲鳴』を集めるチャンスだ。旬ものなのでいつも雪国の魔術師から高額で買い取っていたが、これでストックが作れる。『無実の虜囚の鮮血』に浸した網を仕掛けて、悲鳴を集めていく。大猟だ。問題は一緒に獲れた『子どもの笑い声』をどうやって濾過するか。
253.
窓の向こうで誰かが手を振っているのが見えた。反射的に手をあげかけて、ふと気付き目を凝らした。無表情で手を振っているのは、私だった。窓ガラスに映った自分ではない。あちこちから悲鳴が上がり始めた。皆口々に「私が手を振ってる」と叫ぶ。独りしか立っていないけれど。
254.
事故で足を失った友人の機嫌が、最近とてもいい。スポーツを愛していた友人は塞ぎ込んでいたから僕も嬉しい。彼は車椅子を操って僕に近付き、嬉しそうに言う。「最近ね、急に順調に伸び始めたんだよ」にこにこ笑う彼の足は、足首まであったはずなのに、今は太股の半ばまでしか、ない。
255.
大量に残る雪がじわじわと溶けて、道路にはいつまでも水たまりが点在している。それにしても寒い。前から歩いてくる人もマフラーに顔を半分隠している。大きな水たまりを挟んですれ違う。ふと見た水面には青黒い鱗と萎びた嘴のある生き物が寒そうにマフラーに顔を半分隠していた。
256.毎月14日はツイノベの日お題:SUN
震えながら、チョコを買いに来たとそれは言った。冷たく輝く小さなあの子に贈りたくて、でも普通に降臨すると地球がえらいことになるので、友達の風に乗って歩む神様に大雪にして貰ったと。ギラギラ熱を放ちながら、チョコを選ぶ光の球。先週は予行練習だったそうだ。
257.
炬燵に入って蜜柑を食べていたら、何者かが足首を痛いほど掴んできた。炬燵に引きずり込まれる!必死で座卓の足を掴んで炬燵の中を見る。怯えきった顔の男が足首を握っていたが、絶叫と共に炬燵の外へ消えた。顔を上げて見回すが、いつもの部屋だった。
258.
亡父の蒐集した絵画を売ろうと呼んだ鑑定士の手が止まった。「これを譲って頂けませんか」普通の風景画だ。彼によれば有名ではないが個人的に集めているらしい。元々処分するつもりなので快く進呈した。後日、鑑定士が家族を皆殺しにし、絵を喉に突っ込んで自殺したとニュースで見た。
259.
僕は方向音痴だ。よくとんでもないところへ迷い込む。待ち合わせは物凄く分かりやすい所か、居所を説明して迎えに来て貰う。携帯電話のある時代に生まれて良かった。だがここへは誰も迎えに来られないだろう。人ぐらいの大きさの甲虫が闊歩し紫色の入道雲が湧きたつような大通りには。
260.
重いスコップを振るって雪をかく。屋根から落ちた雪や半ば溶け崩れた硬い雪だ。ほっておくと凍りついて明日車を出せなくなる。ざくり。突如、純白の中から湧きでる深紅。血だ。臭い。湯気が立つ。雪中で死んだ動物でも刺したのかと慌てたが、血は滾々と湧き続け、雪を溶かし始めた。




