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231.~240.

231.

窓から差し込む光の色が違う。カーテンを開ける。窓一面が緑だった。近年の酷暑でブームになったグリーンカーテンのように蔦植物に覆われている。上着を羽織って蔦を引き千切りながら窓を開けた。見渡す限り全ての建物に繁茂する緑。ひと呼吸した瞬間、私の口から綿毛が吐き出された。


232.

兄さんは足が速かった。本当に誰も追いつけないくらい速くて、一瞬にして遠くなる背中が美しかった。けれど事故で腿から下を失ってしまった。厳しいリハビリをこなし、驚異的な速度で回復していく兄を人は奇跡だと称えた。やっぱり足をすげ替えただけじゃ人の賞賛は得られないみたい。


233.

十年前の霧深い夜に、親友は消えた。当時は必死の捜索が行われたが、未だ諦めていないのは両親と僕ぐらいのものだろう。今日も霧が深い。僕は最後に彼女を見た場所に立つ。いつのまにか隣には十年前と変わらぬ彼女。「まだ彷徨ってるの、あなた」彷徨っているのは君のほうだろ。


234.

大きな樹が庭にある。我が家の守り神だと神木のように大事にされている。なぜか私は苦手だった。数年に一度生る紫の木の実を食べた鳥が目の前で死んだのを見てからだ。祖母特性のクッキーを食べながらそのことを打ち明けると「貴方は死なないから心配いらないのよ」


235.

血の味が、甘い。子どものころから血を美味に感じるのだ。成長するにつれて自然と異様だと知ったが、血を飲みたいと渇望することはなかった。けれどTVでコモドドラゴンの捕食シーンを見てから口の中が苦くて堪らない。口づけした恋人は数分前に息絶えた。お腹がぐるぐる鳴っている。


236.

こんばんは、ご注文の品をお届けに参りましたよ。はいはいこちらでございます。おお、ぴったりじゃありませんか。お客様のご注文はいつも難しいですが、やりがいがあるというものですよ。お代は五人以上殺害した出刃包丁、確かに。それじゃこれで失礼させていただきますよ。


237.

貴方、雨が好きよね。同じくらい雨具も好き。だから作って貰ったの。貴方と一緒にいられるように。親切な小父さまに届けて貰うから受け取ってね―カードに記されていたのはそんな一文と見知らぬ名前。私の手には皮を何枚も重ねて作った赤い傘。冷えた空気の中、人肌ぐらいに暖かい。


238.

本棚を整理することにした。本好きの人は分かってくれると思うが、本の整理には強い精神力が要る。例の、読み始めちゃうというあれだ。心を鬼にして不要と見做した本を箱に詰めていく。それでも遅々として進まない。ああこらこら、貴重なんだから生きた人皮装丁の本に噛みつかないの。


239.

昔から庭にアナグマが来る。タヌキでもハクビシンでもアライグマでもない。詳しくはぐぐって。アナグマの狙いは庭の犬の餌と水。和犬の雑種の我が家の愛犬は温厚な老犬で、アナグマをまったり眺めている。のんきだ。のんき過ぎて昨夜から来てる器用に髪の毛で歩く生首にも無頓着だ。


240.

波打ち際を走っていた先輩が、盛大に転んだ。皆も先輩本人もゲラゲラ笑っていた。僕も笑って見ていた。びしょ濡れの先輩が立とうとして、何度も水に倒れ込む。先輩の顔が歪み始める。海中から伸びた鱗だらけの手が引き潮の如く先輩を引き込んだ。去年波に攫われた幼なじみに似ていた。

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