221.~230.
221.
暫く前から気付いてたけど、私の恋人は人間じゃない。普段は人間の形だし、とても優しい素敵なヒトなので人間じゃなくても好きなんだけど、感情が昂るとタコとかイカっぽい触手が出る。今日も背や髪が変異してびたんびたんしてる。そんなにメンダコのストラップがお気に召さないか。
222.
弟は自殺したんじゃない。虐められ、両親にも見放されてた。でも逃げ場があった。自殺じゃない。自分の意思で行ったんだ。そこはとても良い所なんだろう。「姉チャん、迎えニ来タヨぉ」足元にはバラバラになった両親の死体。手首を掴む、ぬめつく手。死んでくれた方がマシだった。
223.
鈴虫の声がする。去年の秋に虫の音をあまり聴かなかったな、なんて思いながら声の出所を探す。声は母のオルゴールからだった。母が消えてから触れていない綺麗な箱を開く。中には爪の羽根を震わせた母の顔の虫けら。「オナカスイタ」「私が同じこと言った時、なんて言ったっけ?」
224.
最近眠くて仕方がない。特に生活サイクルは変えてないし、夜眠れているのに昼間すやすや眠れてしまう。当然夜もしっかり眠れる。食事中も遊んでいても眠い。休日はずっと寝ている始末。日が暮れ始め、必死で身を起こす。全身が固まってる。もがくうちに、背中がざくざくと裂け始めた。
225.「14日はツイノベの日お題:鏡」
真夜中しかるべき手順の後、鏡の中の自分がニヤリと笑う。私は笑っていないのに。右手を上げて鏡面にペタリと手をつくが、鏡の中の自分は両手を後ろ手に組んだまま、肩を竦めて首を振る。「嫌だよ、そんな夢も希望もない世界。こっちから願い下げ」ちっ。
226.
最近へんな植物が増えた。いくら温暖化とはいえ、冬の日本で元気に増えるこれらは本当に植物なのだろうか。けれどDNAかなんかを調べた学者がそういうのだから、植物なのだろう。その植物が主に生えるのが、俺のようなひきこもりニートの部屋で、花が咲く頃俺は骨も残ってないけど。
227.
私は天動説を信じる。だって太陽は私を尾けてくるからだ。雨季の真っただ中の熱帯でも、台風の暴風域に突入した地域でも、私が行けばカラリと晴れる。外洋でヨットが壊れて三日目。近付いてきたスコールが私の真上でふっと消える。長年の友が充血した眼で私を見ている。
228.
二層式洗濯機ときいてすぐに分かった人は同い年以上だろう。子どもの頃、脱水機に移す作業を手伝った。そんな懐かしの家電がアスファルトの道路にどんと置いてある。豪快な不法投棄か、運搬中に落ちたのか。するとぱかりと蓋が開き、洋服が脱水機へ、真っ白な骨が道路へ放りだされた。
229.
不思議な音に足を止めた。氷を踏むのに似た音だ。視線を足元に向けると、夏場は子どもがザリガニをとる池に氷が張っている。氷は一瞬なら体重を支えられそうなくらい厚い。音は凍てつく水底から氷を叩く拳。叩いているのは一糸まとわぬ女だ。昨日浴槽に沈めて殺した女にそっくりな。
230.
愛犬は必死にわたしを守ってくれた。普通のチワワとマルチーズが大の大人の男に歯向かったら…しかも狂っていたら、殺されるに決まっている。それでもあの子たちは足に手に噛みついて、時間を稼いでくれたのだ。攣りそうになる舌で描いた血の魔法陣からわたしの最後の愛犬が躍り出る。




