201.~210.
201.
静かになっていく鼓動に合せ寒さが沁みるようだ。サラサラの雪に倒れ込み、流れる血と一緒に僕の魂が薄れていく。僕を殺そうとした親友がバラバラになって周りに降る。僕の番かと思いきや、驚くほど優しく抱えられて空へ攫われる。ああきっと、死んだ方がマシだったに違いない。
202.
落としたのは私の赤ちゃんです。バスタオルに包んで湖に放り込んだのは、月満ちずに生まれた我が子。流れたのは、誰にも祝福されないと分かってたからかもしれません。だから貴方が両腕に抱えるそれらは私の子どもじゃありません。育てたっていうけど、人のかたちをしてないじゃない。
203.
弟はいわゆるシスコンというやつで、既にわたしよりもデカい図体にも関わらず姉ちゃん姉ちゃんと甘えてくる。手加減はしてくれるのだが、なにしろ弟は目立つ。今日もコンビニに行くというと大量ののたくる触手で絡みつき、十個ぐらいある口で一斉にハーゲンダッツと騒いでいる。
204.
街はイルミネーションで輝いているが、わたしは普通に仕事だった。まあ恋人もいないし、両親は借金残して逃げて十年経つから関係ない。ドアを開けると血塗れの箱。蓋の隙間からは見覚えのある死に顔が見える。リボンがわりに自らの触手を巻きつけた友人はサンタのように真っ赤だった。
205.
わたくし、イタクァを信奉する一族の生き残りです。昔はバリバリ地球をどうにかしようとしてましたが、今はまあ細々と崇めてるぐらいです。ですが由緒正しい邪神の巫女ということもあって、時々イタクァから毒電波貰うんです。特に毎年クリスマス前後「俺より速い赤い奴がきた」って。
206.
母はオイル漬けを作るのが趣味だった。魚に茸、ニンニク、色々だ。真似したわけじゃないがわたしはジャム作りが趣味になった。急逝した母の遺品を整理しているとキッチンの床下収納には子どもの頃食べた多彩なオイル漬けが並んでいた。やった、一番好きな父のオイル漬けまだ残ってた。
207.
夢を見た。植物になる夢。今の自分より土から水を吸い、指先に花咲かせ、髪に実る果実を鳥に啄まれる姿こそ正しいように感じる。けれど朝の目覚めは訪れる。ぐったり身支度を整え、日常を再開した。駅に向かう途中、髪を引かれる。痛みとともに鳥が飛び立つ。嘴には馨しい小さな果実。
208.
時間旅行なんかするもんじゃない。確かに恐竜の生きていた時代や歴史上の大事件の現場を生で見れたのは楽しかった。ああ、あの有名な猟犬は関係ないよ。追われてるけど。それよりもね、この前子どもの頃の自分の前に出てしまったんだ。残念そうな目で見られたよ。あれから徐々に、k
209.
ゆらりと蒼い圧力の中を舞う、まるで喪に服す女のヴェールのような黒い膜。躊躇うように一度離れてから、すべてのぬめる腕が僕に絡みつく。殺されるのは分かっていたが、一秒でも長くその美しい姿を見ていたくて、喉から入った触手に内臓を引き出されるまで身じろぎひとつしなかった。
210.
霧雨が冷たく纏わりつく。ダウンはしっかり冷気を防いでいるが、それでも寒い。アスファルトが街灯を反射してしっとりと光る中に男が一人が立っていた。歩くペースを落とさず通り過ぎる。背後でボタボタと重い音。首だけ振り向くと霧雨に纏わりつかれた男がばらばらになっていた。




