171.~180.
171.
大いなる種族から、同族の大いなる種族を説得するよう頼まれた。彼(?)は今ある人間の青年の中の人になっているのだが、もう戻るべきなのに一向に離れようとしない。彼のもとを訪ねると、ゲームのコントローラーを手に狩りを楽しんでいた。そっか、あの手じゃ操作できないもんなぁ。
172.
海が青い。言葉通り本当に真っ青なのだ。誰かが絵具をしこたま溶かしたように青い。空はピンクで雲は黄色。不思議と目に痛くないが、派手だ。砂や草木は金属的な黒や紫、赤もある。「お、珍しいのがいる」振り向くとでかい昆虫が大きな網を振りかぶる。「黒髪黒目ってレアなんだよね」
173.
以前ホラー映画を見て怯えきった彼は背中とかから頭足類的な触手をうねうねふるふるさせていた。見なかったことにしてあげたのだが、テレビにマッコウクジラが映った途端女子のような悲鳴を上げてやっぱり触手をわさわさ出して威嚇っぽいポーズをとりだした。いい人なんだけどなあ。
174.
てのひらサイズのゲロが蠢いている。二日酔いがみせる幻覚かと思ったが、24時間以内に飲酒していない。机の上でぎーぎー鳴いてるゲロっぽい生き物の口(?)からは猫の尾が飛び出ている。部屋を見回すが愛猫はいない。そのうちゲロから猫耳が生えてきたが、トイレから下水に捨てた。
175.
手首がちょっと痛い。何かに集中していると忘れる程度で家事もできるしと放っておいた。それがよくなかったのか、元々手遅れだったのか。朝起き上がろうと手をつくと、手首から先がない。ぎょっとして探すと、蜘蛛のように指を蠢かせた手首がベッドの向こうに落ちるところだった。
176.
歯が落ちていた。風呂上がりの足ふきマットの上にあって、踏んづけてしまったのだ。拾ってしげしげ見たが、立派な白い歯だ。根がないから乳歯かな?俺の歯はとっくに全部永久歯で、親知らずもない。なんでこんなものが。首筋にぽたりと滴。最近寒いから風呂場の結露が凄い。ぼたぼた。
177.
よく祖父は夭逝した祖母に似てると私の頬をつっついた。亡くなった祖父が入った暖かい骨壷を抱いて、独り手続きが終わるのを待っていると、鏡像のように瓜二つの女性が目の前に現れ、肩に触れた。「捕まえた。次の鬼はあなた」以来若い頃の祖父に似た男性ばかり目で追ってしまう。
178.
父は釣り好きだった。私は好きにはならなかったが、捌くのは気に入った。夕食に自分の成果が並ぶのは楽しかった。けれど一番楽しかったのは、まだ生きている心臓が動き続け、やがて動かなくなるのをじっと眺めること。私の胸を裂いてじっとしているこの生き物も、そうなのだろう。
179.
家の前が川になっていた。近所に川はないし、雨でもないのに玄関前の道路は濁流と化していた。いやよく見れば濁流の正体は無数の鰻だ。アスファルトが見えないほどの膨大な鰻が右から左へドバドバ泳いでいく。一度ドアを閉め、2秒考えて開けた。鰻の群れが玄関に雪崩れ込んできた。
180.
最近恋人と会うたびに些細なことで喧嘩をする。親友に相談すると別れた方が良いと言われた。それからだ。鏡面に、映るのだ。全裸の恋人と親友が恍惚とした顔で愛し合う姿が。ふと思い立ち、二人が映る鏡を釘で引っ掻いた。暫くして、恋人の部屋で引き裂かれた二人の死体が見つかった。




