表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/100

161.~170.

161.

弟はぐすぐすと蹲ってしまった。私と弟は母にお使いを頼まれ、いつもどおりに川沿いの道を通り、変らぬ夕暮れの中どこにも辿り着けないでいる。川の中から白鷺が飛び立つのをぼんやり目で追う。途端ぽんっと夜になった。あれから弟は行方不明だが、弟にとってもそうなのかもしれない。


162.

急に寒くなったからか青大将がよろよろ這っていく。蛇が苦手な私は思わず飛びのき、彼にぶつかった。成績優秀スポーツ万能な副生徒会長。漫画の登場人物のような、男女ともに人気のある彼が、なぜか物凄く、苦手だ。見上げると、にこにこ笑う彼の唇の間に二股に裂けた舌が引っ込んだ。


163.

部屋がザラついている。運動会が終わったあとの教室は、グラウンドの砂が生徒の体にくっついて入り込み、床も机もイスもザラザラになる。あの感じに良く似ていた。テーブルに触れた指を見る。砂より細かな粒子がついている。払い落そうと撫でるうちに、僕の指から白い骨が見え始めた。


164.「毎月14日はツイノベの日お題:こたつ」

「相棒、これはなんなんだ?」私は四匹ものウェンディゴを一瞬にして大人しくさせたブランケットをかぶせたヒーター付テーブルを指差した。相棒は眼鏡を押し上げ「これで完璧」とオレンジ山盛りの籠を置く。ウェンディゴは和やかにオレンジを引き裂いて食べ始めた


165.

鱗。そうとしか言いようのないものが、俺の腕を覆いつつある。最初はペンチで引き抜いていたが物凄く痛いし、翌日には元に戻っているから諦めた。そしてついに包帯を治していたところを見られた。しかも好きな女子に。彼女はじっくり腕を見つめて言った。「魚?それとも爬虫類?」


166.

仕事帰りに行きつけのコーヒーバーに入った。ドアを開けた瞬間に良い馨り。ロマンスグレーのマスターがにっこり笑う。「いいところへ。今日は良い豆が入ってね」ラッキー!カウンター越しにマスターの手元のコーヒーミルを覗くと、大嫌いな上司そっくりの豆が叫びながら挽かれていた。


167.

父が海で助けたその生き物は、父以外では私にしか見えなかった。見えなくても食べ物が減るので、他の家族も可愛がっていた。父が息を引き取る時、海へ帰すように言われて、今私は海岸にいる。沖から伸びてきた巨大な触手に渡そうとしたが、私にしっかり巻き付いて離れようとしない。


168.

一体どこで育て方を間違えてしまったのかしら。この子の為だけにすべて投げ打ち、大切に大切に守り育ててきたのに…この子もわたしを置いて去っていくというのね。そんなこと許せない。今度こそ良い子に育つよう産み直さないと。この子は大きく育ったから丸飲みはけっこう大変そうね。


169.

物置を片づけていると、上から落ちてきた何かが頭を痛打した。それは掛け軸で、膝の上にばさっと勝手に広がった。墨の濃淡で描かれた着物姿の青年の絵で、塩顔の美形だ。巻き直して元の場所に片づけた。あれから物置に入るたび掛け軸が頭に落ちては広がって、墨の青年がはにかむ。


170.

人魚姫という御伽噺を聞いた。王子様を助けた人魚は声と引き換えに足を得たが、彼の愛を得られず海の泡となり果てた、悲恋の物語。愛ゆえに人魚は王子の胸を刺すことはできなかった。私には真似できない、美しい話だ。海の底の洞穴で、死にたくないと繰り返す青年の目玉を啜りあげる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ