141.~150.
141.
久し振りに甘いものが食べたくなって、あの店に行くことにした。お天気雨の中、虹か彩雲が出た時に天然水晶の球を転がしてついていくと、いつのまにか地階に続く階段に着く。真夏でもひんやり涼しいその店では甘くて美味しい魂を供している。近年極上に甘い魂が多くて甘党には最高だ。
142.
胎内めぐりといえば京都が有名だ。うちの近くにも小さな胎内めぐりがある。なんとなく生臭くて、壁は苔が生えているのかどろりとしている。人は殆どいない。今日も手探りで歩いていると、初めて出っ張りに触った。驚いて思わず強く掴んだ途端、水と突風と共に外へ弾き飛ばされた。
143.
わたしはコインロッカーベイビーだった。生まれて間もなく、駅のコインロッカーの中に置き去りにされたのだ。幸い泣き声を聞きつけた駅員によって保護され、無事に大人になった。だが違ったようだ。荷物を預けようとコインロッカーを開けると声がした。「大きくなったね」と。
144.
ファストフード店の古典的な噂話に、ハンバーガーの材料が猫や犬、はては人間の肉を使っているというものがある。勿論そんなのはただの噂で、犬猫や人間をを捕まえる方が労力が要る。ほんと、牛や豚喰ってくれりゃ楽なのに。あ、逃げるなよ、このサラリーマン、意外と足はえーな。
145.
初めて街が霧でけぶるのを見た。本当に数メートル先も真っ白で見えない。運転は危険と感じ、私はハザードをつけて車を道の脇に停めた。灰青の霧が軽自動車を取り囲む中、スマホを開くが電波がない。すると霧の奥から犀か何かに似た生物が走ってきて、フロントガラスを突き破った。
146.
怖い夢を見た。帰り道、見知らぬ男に菜切り包丁でめちゃくちゃに刺される夢。目覚めて一日経っても記憶から消えず、何も手につかなかった。帰り道、夢と同じ色の車が通って、夢と同じになっていると気付く。振り向くと夢の中と同じ男。手に菜切り包丁。私は鞄から鱧切り包丁を出した。
147.
街のあちこちがカボチャ色をしている。ハロウィンが定着し始めて何年経ったのか。元々妖怪とかが好きな民族だからか、クリスマスと違って恋愛色がないからなのか、ひと月近く盛り上がる。「凄い、ジャックオーランタンだ!」だからって、この格好でうろついても驚かないとは、恐ろしい。
148.
姉さんはとても美しい人だ。天使のようなんて言われるけど、実際姉は人間じゃないんだと思う。この前も、路地で待ち伏せしていたストーカーまがいの男が飛び出してきたけど、姉が黙って見つめてるうちに蒼白になって倒れてそのまま死んだ。私を振り向いた姉さんは、とても美しかった。
149.
友人と宅飲みをしていた。用意したつまみが切れてきたところで、友人がコンビニに行こうと言いだした。酔いが回った私は渋ったが友人に半ば強引に引きずりだされた。普段と違う友人の態度をいぶかしんでいると、友人は歩みを止めぬまま「ベッドの下の男、あまり美味そうじゃないもの」
150.
さっき凄いコスプレ集団を見た。半魚人だ。磯臭い粘液滴らせ、猫背でぴょんぴょん跳ねてた。直立二足歩行の爬虫類やどうやってるのかデカイ蠢くもんじゃみたいのもいる。あの巨大な蝙蝠の羽が生えたタコ、ハリボテには見えない迫力だ。てか駅へ行きたいんだけどドライアイス焚きすぎだよ。




