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111.~120.

111.

静かな音楽と穏やかに光り輝く青い海―耳鳴りと不眠に悩む私に友人がプレゼントしてくれたDVDは想像以上に良かった。毎夜荒れ狂う海の潮騒のような耳鳴りが治まり、眠れるようになったのだ。けれど夜だけだった吠えるような遠くから私を呼ぶ声が、昼間にも聞こえるようになった。


112.

金魚鉢の中にいたのは優雅に尾ヒレをくねらせる和金だったはずだ。けれど今、丸いガラスの内側で悠々と泳いでいるのは名状しがたい何かだ。あえていうと…頭足類的な…?何を食べるのかわからないがとりあえず金魚の餌をサラサラ撒くと、細い触手をざわつかせて一心に食べている。


113.

コーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れて最後に一つまみ…あれ?ああ、使いきったんだ。やっぱりないと味気ない。調達してこよう。黒いフード付きパーカーとズボン、スニーカーを履く。鱗剥ぎ用のスプーンと首を落とす為の鉈、餌の人の子の生肉をビニール袋に詰めると、僕は家を出た。


114.

ダンシングフラワーが生えている、と小学校から帰ってきた息子が興奮した様子で告げる。ダンシングフラワーといえば音に合わせて踊るおもちゃだったはず。しかもだいぶ昔の。ほらと指差された窓の外を見れば、大きな黄色い花がぐいんぐいんと揺れながら大挙して押し寄せてきていた。


115.

変り者の祖父が死んで、僕は祖父の家の片づけを志願した。交通の便が悪い郊外の家には誰も行きたがらないので、すぐにOKを貰えた。祖母の写真が置かれた仏壇の隠し戸棚から鍵を取り出し、台所から地下室に降りる。そこでは写真の中の若々しい祖母そっくりの女性が僕を待っていた。


116.

庭の井戸から水が出なくなって数日。おそらくポンプの故障だが、一度開けて調べてみてもいいと思って、コンクリートの頑丈な蓋を外した。凪いだ水面に映った自分の顔に一瞬驚いた。安堵した私の顔が、突如オーロラ色に湧きたつ水にかき消され、見たこともない色が跳ねあがってきた。


117.

秋の草花を植えよう。最近急に涼しくなって、秋めいてきたし、赤とんぼも増え始めた。種を集めて、枯れた草は片づけよう。まだ活きのいいやつらを刈るのは一苦労だけど。私はフルフェイスのヘルメット、丈夫な皮手袋、防護服、安全靴を身につけ、チェーンソーを持って庭に出た。


118.

気付いた時には降りる駅を通り過ぎていた。慌てて電車を降りてから、終電だったと溜息をつく。反対側のホームを見ると、女性がしゃがんでえずいていた。尋常ではない声を上げ始めたので駅員を呼ぼうかとおろおろしていると、蟲のものに似た肢が私の喉いっぱいにわきわきと飛び出した。


119.

日差しが柔らかい季節になると、歩いている人の影が人の形に見えないことがある。単に影が淡いだけという普通の人もいるが、隣の人の影と同じ濃さなのにはっきり違う人がいるのだ。三角の耳、長い角、尻尾、翼……今、僕の前で信号待ちをしている人は、磯巾着に似ている。


120.

最近通り魔が出たらしい。夜出歩くのは物騒だが、愛犬の散歩のためにはしょうがない。ひとりと一匹、のんびりと夜の街を歩く。突然、愛犬が猛然と吠えてリードを振り切った。慌てて追うと、包丁を持った男が愛犬の背から伸びた触手に巻きつかれ、じるじると血を吸われて悶えていた。

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