101.~110.
101.
私は旦那様が母に手をつけて出来た子でしたが、旦那様の奥方様がそれはもう嫉妬深い人で。私を産む為に逃げた母を追って拷問の末に殺したのです。母が不憫でしたので月満ちる前でしたが母の骸を裂いて生まれました。だから私は未だ海の生き物なのでしょうね。吸盤って便利ですよ。
102.
美大で彫刻を学んだが、才能はなかった。だが醜怪でおぞましい存在が夢に現れるようになり、夢中でその姿を彫った。完成するという夜、逆流した下水と共に野太い触手が部屋を満たし、わたしに巻きつく。二度と目覚めぬ夢に引き込まれつつ聞いたのは「似てねえ」という冷たい声だった。
103.
本ばかり読んでて気持ち悪い、とクラスの子たちに持ち物を隠されるようになった。先生に相談したら本ばかり読んでいないで友達を作りなさいと言われた。本を読むのは悪いことなのかな。試してみようか。本の通りにしたら現れたものにお願いすると「テケリ・リ!」と返事をしてくれた。
104.
今日はとても危険な日だから、特に単独行動は控えるようにと教えられてきた。だがどうしても出入口の真上でイチャついているカップルが煩かったので嬲り殺しにした。全く、墓場だぞ、ここは。死体を巣穴に引き込む若いグールの背後に、鉈を握った大きな人影がズシンと立った。
105.「毎月14日はツイノベの日:リトライ」
不撓不屈と言われたら、普通は正義の味方のことだろう。だが私は思う。何度失敗しても決して諦めず、リトライし続けるといったら―。急激に増水した川が血塗られた祭壇を洗い清める。相棒と私が睨む対岸では肌も衣服も黒い男が優雅に腰を降り、闇の中に溶けていった。
106.
空を飛ぶ夢は、良い夢だったか、良くない夢だったか。地面に叩きつけられる数秒間のうちに考えたのはそんな益体もないことだった。睫毛が凍るほどの高さから落ちたのに、なぜか死ななかった私は再び空へと舞い上がった。今度は落とすのでも落ちるのでもなく、自由に飛んで落とすのだ。
107.
我々は泣いた。声を上げて身も世もなく泣き喚いた。此の世には、神も仏もないのだ。もう何もする気になれない。なぜなら丹精込めて育てた黒い蓮(我々の資金源の一つで、麻薬を作れる)が、今年の酷暑ととどめの如く襲ってきた大型台風で全て涸れ根こそぎ流されてしまったからだ。
108.
魔力が足りなかったのか、呪文が不完全だったのか。理由はわからないが、大がかりな儀式のよって召喚できたのは掌サイズの邪神だった。具体的にいうとジャンガリアンハムスターぐらい。生贄の人間から人差し指を切り取って渡すと、両手で持ってポリポリ齧ってる。どうしようね、これ。
109.
先日手に入れた美少年の首酒をグラスにそそぎ、台風一過で晴れ渡る空に輝く宵待ち月にかざして見た。万色にさざめく不思議な酒は金色の光を透かして、更なる名状しがたい色合いを見せる。ふと瓶の中に目をやると、淡く色づく可憐な唇が笑みの形にほころんでいた。
110.
「月が綺麗だな」おもわず口にしてしまうほど、今夜の月は綺麗だ。邪教のアジトを見張りながら何を呑気なと苦笑しながら、相棒も空を見上げた。「そうね、死んでもいいぐらい」「えっ、そこまで?」「ニホンでは中秋の名月っていうんだって」相棒は妙にニヤニヤしながら教えてくれた。
110話は、十五夜お月さんが満月だったせいでしょう
クトゥルーでもなんでもないというね…




