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エステルの仲間。

※二話連続更新です。前々から書きたかったシーンです。

 エステルの仲間に勝ったなら、仲間として連れていく。

 その言葉を実行するために、彼らは鍛錬所に来ていた。騎士団が鍛錬を行うこの場所には、鍛錬を行っていた騎士達も多く、中央に立っているエステル達をかこうようにして彼らは鍛錬をやめて興味深そうに見ていた。

 「それで、仲間とは何処にいるのです? 実はいないのではなくて?」

 「黙れよ、巫女。仲間なら居るさ」

 エステル以外影も形も見渡す限り存在しない場所で、バカにしたように大人しく連れていきなさいという態度でエステルを見る巫女。名前はジーナという。

 フードのついた巫女装束のすき間から艶のある黒髪が顔を出している。一般的にいえば美女と呼べる存在であるが、エステルは特に興味がないらしい。

 「フローラ、ヴェネーノ、出てこい」

 エステルがいったのは、ただその一言だ。

 その途端、エステルの抱えている袋の中から一羽のアゲハ蝶と、一匹の黒いサソリが飛びてきた。そして、その姿に誰もが目を見張った時、煙がアゲハ蝶と黒サソリを包み込む。

 次の瞬間、ぼんっと現れたのは二つの存在である。

 「わー、エステル様、お呼び出しぃ? わくわくするなぁ、大暴れ~」

 にこやかに笑っている少女は、金色に輝く髪を持っている。その目は黒い。ゆったりとした動きやすそうな白い服を身にまとっている少女には驚くべき点が一点あった。頭からは、触角が二本伸びていた。

 「フローラ、触角が出てるわよ。相変わらず未熟なんだから」

 呆れたように言葉を零す女性は、黒髪に黒眼で、妖艶な雰囲気を漂わせている。黒い胸元の開いたドレスに身を包むその姿に見ぼれているものもいるぐらいだ。

 「なっ――、何処から…」

 「あれは……」

 「それは何です!!」

 女性の言葉に、触角をしまいこむ少女。

 突然現れた二人を前に驚きに満ちた様子の周りの面々。

 「起きろ、レイヤ」

 エステルは周りの視線なんて気にしないとでもいうように腰に下げられた一つの剣を抜く。それと同時に周りを支配する、重圧感。まがまがしいオーラを放った黒い剣は、次の瞬間人の形を取った。

 「あー? 何だよ、寝てたのに」

 文句を言う、その青年は茶髪に赤メッシュの入った髪を持ち、目は赤い。不自然に口から見える歯は鋭く、何処か吸血鬼のようなものを思わせる。

 その存在に真っ先に反応したのは、あの聖剣である。

 『……魔剣、ですって!?』

 それは、驚愕に満ちた信じられないものを見るような目だった。

 そう、それは魔剣。聖剣と対をなす存在。人を乗っ取るとも言われているし、血を求めるとも言われている。そういう危ないものが、魔剣と呼ばれるものだ。

 聖剣を抜けるものが、魔剣と盟約を結んでいるなどあってはいけないことだ。それでも、確かにエステルは聖剣を抜けて、魔剣も所持していた。盟約の結ばれた魔剣や聖剣は人の姿をとることができる。

 「さて、フローラ、ヴェネーノ。自己紹介しろ」

 「はーい。はじめまして、人間の皆さん。魔人が一人、アゲハ蝶のフローラですぅ」

 「魔人が一人、毒サソリのヴェネーノよ」

 金髪の少女は自らをフローラと名乗って、屈託のな笑みを浮かべて笑った。

 黒髪の美女は自らをヴェネーノと名乗り、そっけなく答えた。

 そう、フローラとヴェネーノは魔人だ。魔人は世界に充満する魔力が生物に宿り、長い時間をかけて本当に時たま現れる存在。

 元々ただのアゲハ蝶と、ただの毒サソリだった二人は遥か昔に魔人となった。そして魔人は、人の姿と元々の姿双方に変化することができる。

 フローラとヴェネーノは今までもとの姿でエステルの下げている袋の中に入っていたという事である。

 彼女らは、リィナの母親である女性と同じ、魔人なのだ。リィナは半魔人なためか、もとの姿に変化することもできなければ、翼を完璧にしまう事もできない。でも生粋の魔人は先ほどフローラがつい出してしまっていた触角をしまったように完璧な人の姿をとる事が出来る。

 「魔人…、って何だ…?」

 『魔人、ですって?』

 「……魔人が仲間だと?」

 聞こえてくる声は様々だ。驚愕に満ちたような声や、魔人の存在を知らないからかよくわかっていないような声。

 国王はもちろん、リィナの母親を知っているため魔人の事をちゃんと理解している。聖剣に宿るメアも今まで経験から魔人の存在を知っていた。

 鍛練場の中は、ざわめく。

 「さて、こいつらが魔人のフローラとヴェネーノ、そして魔剣、正式名称は『血濡れの剣』なんて言われてるレイヤ。これが、俺の仲間」

 「なぁ、こいつら切っていい? 殺していいのか?」

 「殺すのはよしとけ。後が面倒だ。そんなに殺したいなら後で盗賊狩りにでもいってやるよ」

 『血濡れの剣』と呼ばれる、魔剣。その魔剣に宿るレイヤは、魔王と共に現れると言う魔族の一人である。遥か昔に、魔族として生まれたレイヤの血に飢えた魂は、魔剣に宿ったのだ。

 レイヤは殺すことを求めてる、その身が、血で染まる事を求めてる。魔王を絶対的支配者とする魔族の中では異端とされる、魔王に従わない魔族だった。

 「レイヤ、その目の前の奴ら殺さずぶちのめせ。殺さなければそれでいいから。そうしたら血を吸わせに行ってやるから」

 寝起きで状況が少しわかっていないレイヤに向かって、エステルは笑った。

 「エステル様ぁ、フローラにも応援欲しいですぅ」

 「そうか。頑張れ」

 「頑張るです!」

 ぴょんぴょん、と飛び跳ねて笑うその姿はただの、普通の子供にしか見えない。

 「じゃあ、そこの雑魚。この三人に勝ってみろよ。そうしたら連れてやってもいいぜ?」

 ニヤリッとエステルは、笑って仲間候補者四人を見る。

 もちろん、彼らは魔人なんて存在聞いたことがある程度であるし、得体のしれないものだからか一瞬戸惑ったような目を向ける。

 「あ、使いたいならその聖剣のババア使ってもかまわねぇよ。負ける気は一切しないんでね」

 『なんですの、その言い方は! 勇者の仲間として選ばれた神聖な方を侮辱しすぎなのではなくて? いいでしょう。そこの騎士、私を使いなさい。身の程をわからせてさしあげますわ!』

 ちらりっと、聖剣の方を見て投げかけられた言葉に、メアは心外だという風にいきり立っている。


 そうして仲間候補四人と聖剣に宿るメアVS魔人二人と魔剣の戦いが始まるのである。















 「皆ぁ、行くよぉ」

 フローラの声に突如として周りに現れるのは、何十匹ものアゲハ蝶。黄と黒で彩った羽を持つアゲハ蝶達が、その場を舞う。

 それがフローラのお得意の能力【従えし者】である。自分の元々の姿の生物を支配下に置き、従える。従えたアゲハ蝶達は、フローラの加護が与えられ強化されている。アゲハ蝶達の見ている者をフローラは見ることもでき、情報収集によく使われている能力である。とはいっても、戦闘で使えないわけではない。

 飛び交うアゲハ蝶達は集まる。そして、ボンッという音と煙と共に、アゲハ蝶達は一つの大きな個体と変化する。

 「さぁ、行くよぉ-」

 巨大なアゲハ蝶は、フローラの言葉に舞う。

 レイヤは無言で、手の中に剣を出現させる。それはレイヤ本人が宿っている『血染めの剣』だ。

 めんどくさそうに息を吐いて、殺せないとは残念だとでも言う風に喉を鳴らす。

 「三人もいるのかしら。たかが人間四人と聖剣相手に」

 特に何の準備もせずに、仲間候補と、聖剣を見据えながらそんな言葉をヴェネーノは言い放つ。

 勇者の仲間とは、誇りな事だ。勇者と旅をして魔王を撃ったとなるとそれだけで英雄扱いになる、光栄なことである。

 仲間候補である四人はその栄光が欲しかった。だからこそ、向かっていく。

 騎士の一人はあの聖剣を手に一番無防備なヴェネーノに向かっていく。

 もう一人の騎士と魔術師の一人の狙いの先はフローラだ。そして巫女はなるべく彼らから離れて援護をするために準備をしていた。

 向かってきた聖剣を手にした騎士を見ても、ヴェネーノは逃げようなどとしない。やった事はただ一つ、手を振りかざしただけだ。

 でもそれだけで十分だった。がくっと、聖剣を手にしていた騎士は態勢を崩す。いや、その騎士だけではない、他の騎士や魔術師も何処か体の動きが鈍る。離れた位置にいる巫女でさえも、頭がくらりっとする。

 「な、何を――…」

 「聞いてなかったかしら。私は毒サソリ。毒サソリのヴェネーノなのよ?」

 そうヴェネーノは毒サソリ。ヴェネーノがやった事はただ一つ。生み出した自らの毒をばらまいただけだ。

 魔人の強さは、その寿命が長ければ長いほど強い。その分魔力も増えるし経験も積めるからだ。そしてヴェネーノの持つ魔力は濃く、彼女の作る毒はあたれば即死するようなものまである。

 態勢を崩した騎士の男の体は、ヴェネーノが近づいてきた頃にはすっかり地面に伏していた。

 『な、毒なんて――』

 「煩いわね、聖剣は。黙りなさい」

 カランッという音と共に、男の手から落ちた聖剣に向かって不機嫌そうにヴェネーノは声を零すのであった。

 一方、フローラの方に向かってきた二人はというと、距離が置いていたにも関わらずにヴェネーノの毒にあたり体の動きは絶好調の時よりも鈍い。

 それに加え、巨大なアゲハ蝶から放たれる鱗粉りんぷんは彼らの思考をみだす。

 「夢をおみせしましょぉ」

 にっこりとほほ笑む姿は、残酷である。

 「う…」

 「あぁああああっ」

 魔人、アゲハ蝶のフローラの放つ鱗粉は甘い香りを持つ、人を狂わす作用を持つ。それは、人に幻覚を見せる。それに加えて、それは中毒性があった。人を狂わし、中毒にさせる。そんな鱗粉がフローラの放つ、鱗粉だ。

 一人の騎士と、一人の魔術師は悪夢でも見せられるのだろうか、口からは悲鳴が漏れる。目は空ろに歪んでいて、視点は定まっていない。

 そしてレイヤは少し離れた位置にいる仲間たちを見て唖然としている巫女に迷いもせず、その長剣を突き刺していた。

 「いやぁああああ」

 声を上げる。だけれども、レイヤは止まらない。

 レイヤの持つ長剣は、その巫女の血に染まり、煌く。その黒い剣は、浴びた血液を吸収し、輝きを増す。『血濡れの剣』と呼ばれるその剣は、血を吸収して強くなる。血を求める狂った魔剣。気にいらなければ使い手の血さえも吸い尽くしてしまう、呪われた逸話の多い魔剣である。

 死なない程度に痛めつけて、レイヤは長剣を抜く。周りも全てその躊躇いのない行為に唖然とする他なかった。

 「な、殺す気か!!」

 叫んだのは、神官の一人であった。巫女は神官に所属するメンバーである。それにこんな風な仕打ちを放った事に、怒っているらしい。それでもレイヤは興味がないとでも言う風に、その赤い瞳をちらりっと神官に向けてさらりといってのける。

 「殺してねぇよ。回復魔法使えばすぐなおる程度に痛めただけだろ。喚く暇があったら治せばどうだ?」

 それだけ言うと、レイヤはスタスタとちゃっかり毒をくらわないように結界を張っていたエステルに近づく。

 「俺、眠るから。誰か殺す時起こせ」

 それだけいって、レイヤの姿はそのまま失せる。残ったのは、輝きを増した魔剣だけである。

 勝負は、数分も経たないうちに決着がついた。

 倒れ伏す一人の騎士と、いまだに狂ったように声を上げる一人の騎士と一人の魔術師、そして回復魔法を受けている巫女。

 それらを見据えながら、エステルは言った。

 「ほら、負けたんだからお前らついてくんじゃねーぞ?」

 

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