あ? ふざけてんのか。
「…と、とりあえず、幾ら欲しいのだ。エステル・ユーファミアよ」
場所は変わって、王宮内に存在している会議室。大きな机を囲むようにして、エステルや国王、初代勇者、神官――それらが会話を交わしていた。
ちなみに言うと聖者の剣を此処まで運んできたのはもちろん、エステルではない。慈愛の女神という幻想を打ち砕かれながらも、メア・ルーファトの美しさを前に拝む事をやめない神官たちが運んだのだ。
『私を運んでくださらない? 今代の勇者様は私をお気に召さなかったの。神官さん、お願いしますわ』と涙目で懇願し、それに我先にと聖者の剣を手に取ろうと争奪戦を始める若い神官共にはエステルは呆れたものである。
本性見た癖に、外見がよければそれでいいのかと。というより、明らかにこいつ嘘泣きだろなんて思ってバカばっかと思ったのはエステルだけではなかったようで、年配の神官や国王何かは幻想を打ち砕かれたショックで固まってたり、苦笑を零していた。
「とりあえず、国王様は幾らぐらいが妥当だと考えてるわけ?」
「え、あーっと、一千万ギルぐらいかの?」
「あ? ふざけてんのか」
国王がエステルの鋭い眼光に睨めながらも、戸惑いながら言った台詞に堂々といちゃもんをつけるエステルであった。
メア・ルーファトに関しては普段は聖者の剣の中から出てこないため(時々慈愛の女神と自称して出てきてたらしいが)、エステルの噂などはそこまで詳しくは知らない。王族に向かってなんて無礼なというような視線に、エステルはやっぱりこいついらねぇよなと思考を巡らせながら言葉を放つ。
「一千万ギル? この、大国アスロンならもっと出せるだろ? そもそも勇者ってのは、世界の危機を救う存在何だろ? 世界を救うのに一千万ギルってのは少なすぎるだろ。たった一千万ギルぽっちでこの俺に勇者なんて、クソ面倒なことやれとかふざけすぎだっつーの」
『なっ、あなた! 勇者の癖にそのような口のきき方をするなど。ああ、ああ、もうどうしてこの聖者の剣がこんな男を――!!』
「あ? 知るかアバズレは黙っとけ。俺は今大事な金の話してんだよ。アバズレに出せる金ねぇんだろ。だったら黙っとけ」
椅子の上に置かれた聖者の剣の上に半透明な姿で現れて、嘆いているメア・ルーファトにエステルはめんどくさそうに言葉を返す。
『金金金って、あなたそんなに金が大事なんですの!?』
「で、国王様よ、幾ら出してくれんの? もっと出せんだろ? 南の大国エバンナとの貿易でこの国が大儲けしてんのも知ってんだぜ? 辺境の村で新しく見つかった新種の薬草も高く売れてんだろ? 後宮内だって無駄遣いしてんだろ? 側妃のアラナスが国費を食いつぶしてんのも知ってるぜ?」
『わ、私を無視するなんて。あなたはどうしてそんな!! 私は聖者の剣ですのに。私は――』
「で、幾ら出せるわけ? 最低でも10億ギルは出せよな? 俺を勇者なんてクソめんどくせぇし、どんだけ時間がかかるかもわからねぇ旅に出すっていうならよ」
「い、10億ギル!? そ、それはちょっと無理かの。それに、エステル・ユーファミアよ、何故極秘の薬草の情報を知っておるのだ!!」
「そ、そうである。エステル・ユーファミアよ! 一人の人間にそんな大金を渡すなど……」
国王と宰相はエステルの言葉に驚愕したように言い放った。
そんな彼らに向かって、エステルはニヤリッと笑って、あくどい表情を作って言い放つ。
「あ? それを俺に聞くか? だって、俺だぜ? 極秘の情報だろうが全部筒抜けだっつーの。大金を渡せねぇ? なら勇者なんてしねぇよ。金が出せないならてめぇらには用はねぇ」
バッサリとそんな事を言い放ったエステルは目の前で表情を崩している面々の顔を一人一人見て、何かをひらめいたように笑う。
「そうだな。図書館の禁書見る許可でもくれたら半額にまけてやってもいいぜ?」
アスロン王国の王都の図書館には、禁書コーナーと呼ばれる場所がある。その名の表す通り禁書と呼ばれる本が並べられている場所だ。禁書とは、禁術とされている魔法や、魔剣の生成方法などが書かれている書物の事である。
それらは一般市民の目に映すべきではないと国で判断され、王族の許可なしに読む事はできない。
禁書に前々から興味を持っていたエステルはこの機会に禁書を読むことが可能なのではないか、と判断し話を持ちかけたのだ。
とはいっても勇者の件がなくても、禁書閲覧許可を手に入れてやろうと画策していたため、今回の件はいい機会だったともいえる。
「禁書だと…? そんなものを見てどうする気だ?」
「どうもしないけど? ただの興味本位で見たいだけだし。禁書とか、面白そうだしな」
『なっ――、禁書はそんな興味本位なんてもので読んでいいものなどではありませんわ!! 禁書というものは危険なものなのです。それをたかが興味本位で見ようなどと……!!』
「で、国王様は条件飲んでくれるわけ? 飲まないなら勇者やれ言われるのもめんどくせぇし、さっさと他国渡るけど」
その言葉は一種の脅しである。
条件をのめば、エステルは5億ギルと禁書閲覧権を手にすることができる。
条件をのまなければ、エステルはさっさと他国に渡るだろう。エステルが他国に渡った場合、色々とこの国にとっては不都合なことが多い。
どっちにしろ、エステルにはどっちでも損はない。
口元を緩めて、その場にいる面々を見るエステルに周りは顔をひきつらせていた。
5億ギルと禁書閲覧権を渡す事は、躊躇いがある。自分の利益のためにエステルが禁術を使わないとは限らないとエステルの性格を知っている面々は懸念する。
禁書に載っているという時点で危険であるというのに、エステルが使う場面を想像すれば益々危険に感じてしまうのだ。
だが、しかし条件をのまなければエステルは国を出るといっている。そうなれば、他国との戦争を避けられないだろうし、エステルは利益のために国家機密だってさらっと暴露してしまいそうな危険性を持っている。何より、敵に回ったら恐ろしく厄介なことぐらいその場にいる人間――要するに聖剣など以外―――は十二分に知っていた。
「で、どうするわけ? 速くしないと俺面倒だし、さっさと帰るけど」
そして、エステルが本気でそこで帰ってしまう事ぐらい彼らは知っていた。
「くっ、は、払う! だから、待ってくれ」
『な、お金なんぞ―――』
「黙れ、アバズレ。とりあえず、交渉成立か。勇者やってやるよ。金はギルドの俺の口座に振り込んどけ。禁書閲覧許可書は出来うる限り速く作れよ? さっさと禁書読みたいんだよ、俺は」
メア・ルーファトを人睨みすると、エステルはそういって笑った。
その笑顔は何処までもあくどく、周りが何でこいつが勇者なんだと思ったのは無理もない事だろう。
お金はもう円と一緒です。呼び方違うだけ。
勇者をやるとして、報酬って幾らぐらいなのでしょうかね。とちょっと迷いながら書きました。
ぼったくりぐらいにしたいのですが、この金額って異和感ありますか?
そして書くのが楽しくて結局一気に書いてしまったという。