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王宮へ乗り込む 3

 ――目の前で何が起こっているのか、理解出来ない。

 エガ宰相の脳内は、混乱の気持ちでいっぱいである。強靭な体を持つ、ドッキ国の騎士たちが、簡単に命を散らしていく。

 エステル・ユーファミアという存在は、何処までもためらわない。ただ自分がやりたいように、自分の望むままに行動をし続ける。人の命を奪うことに対する躊躇いは欠片もない。彼の頭にあるのはエガ宰相をどうにかして、『勇者』を脅すことだけである。

 一人、二人と倒れ、エステルという存在に怯えた騎士たちは腰を抜かしていく。目の前の存在に、逆らってはいけないと本能で感じるものも多くいる。それだけ、エステル・ユーファミアの力というのは分かりやすい。何処までも圧倒的な力がそこにはある。

「なななななな……」

「はは、エガ宰相ぼけたか? 声になってねーじゃねぇか」

 エステルは楽しそうな声をあげる。その口元は獰猛な獣のように歪んでいる。――獲物を見つけた魔物。

 それを思わせるような表情である。

「エステル様が怖いのですよぉ」

「エステルにびびっているわね、こいつ」

 そんなフローラとヴェネーノの声を聞きながら、エステルはじっとエガ宰相の事を見据える。エガ宰相は、エステルの視線に、言葉に――怯えたような表情を浮かべている。

 エガ宰相は恐怖に染まっている。目の前の存在が恐ろしくて仕方がない。エステルが一歩一歩と近づく。――あえてゆっくり近づいているのは、エガ宰相の恐怖をもっと煽るためである。

 この位のことで恐怖で固まるならば、最初からエステル・ユーファミアに手を出すべきではなかったのだ。――その事実に、今更エガ宰相は気づいた。目の前の『勇者』には手を出してはいけなかったのだと。『勇者』と呼ぶにも烏滸がましい、そんな恐ろしい存在であることを。

「何が、望みだ」

 震える声で、震える足で、彼はなんとか口を開く。

 周りにいる騎士たちは既に事切れているか、この場から逃げ出しているか、戦意を喪失しているものしかいない。

「お前の命かな」

 このまま生かしておくことも考えた。脅しつけることも考えた。けど――、このドッキ王国がこれからエステルに手を出してこないためにも――エガ宰相を殺してしまうことにした。

「ひぃいいいいいい」

 悲鳴が上がる。

 エステルの殺気を感じ取り、エガ宰相は座り込んだ。情けなくへたりこんだエガ宰相は、そのまま失禁する。においがその場に漏れ、エステルは嫌そうに眉を顰める。

「くせぇ」

「ま、待て待て。私を生かしておけば――」

 エガ宰相の言葉は、それ以上続けられなかった。エステルが剣を一度ふりかざし、その首と胴体を切断したからだ。もう、エガ宰相は生きていない。生かす価値もないとさえ、エステルは思っていた。

「エステル様ぁ、臭いですぅ」

「エステル、この後はどうする?」

「――『勇者』の所に行く」

 エガ宰相を殺害したエステル・ユーファミアは、顔色一つ変えない。エガ宰相を殺した事の重要性も何も考えていない。ただ自分が思うままに、ただ殺しただけだ。

 エステルが『勇者』と口にすれば、へたり込んでいた騎士が反応する。

「ま、待て!!」

「あぁ?」

「……ひぃ。ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、『勇者』様のことも殺すつもりか!!」

「ころさねぇよ。脅しつけるけどな」

 今の所、エステルはドッキ王国の『勇者』の事を殺すつもりはなかった。それは事実であるが、エステルの気分次第では、ドッキ王国の『勇者』は死ぬことだろう。エステルという少年は、気まぐれな存在である。

 正直言って、目の前で沢山のものたちを殺していったエステルがドッキ王国の『勇者』を本当に殺さないとは思えなかったのだろう。その騎士はへたり込んだまま、なんとかエステルを止めようと手を伸ばす。

 ――そんな余計なことをしたからこそ、その騎士は運が悪かった。

 ヴェネーノの猛毒により、彼は口から紫色の何かを吐き出して、苦しみながら息絶えた。

「うるせぇな」

 邪魔をするのならば、殺す。

 それがエステルの行動からすぐわかる。他の者たちは、それ以上、エステルに何か言いつのることはなかった。騎士としての秩序があろうとも、やはり自分の命というのは大切なのだ。忠義なども当然大切なものだが、それ以上にいきているものたちは、命を選んだ。

 エステル・ユーファミアは、自分に言いつのってこない騎士たちのことは眼中にはない。どうでもいいと思っているので、一先ず放置しておくことにする。

 エステルは次に『勇者』の元へと向かうことにした。

 しかしエステルは『勇者』が何処にいるのかというのは分からない。もしかしたらエステルの事を恐れてもうすでに『勇者』は逃げているかもしれなかった。

 ――彼らからしてみれば、『勇者』を諦めてエステルが去ることを望んでいるのかもしれない。だけど、エステルはそれをしない。

「探すか」

 ドッキ王国の『勇者』の元へ、エステル・ユーファミアは向かう。




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