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招待される。

 エステル・ユーファミアがトリィアで起こした出来事は、すぐさま王城へと伝えられた。

 トア侯爵はあの勇者は間違っても敵に回さない方がいいというのを身をもってしめしたのであった。

 勇者には全く見えない所業に聖剣や王城のものたちはそれはもう憤っていた。どうしてあんな奴が勇者なのかと。そして聖剣に選ばれた勇者がああ何てと嘆くのだ。

 特に聖剣に宿っているメア・ルーファトは「どうしてあのようなものが……」と憂いを帯びた表情を浮かべていた。姿を現しているメア・ルーファトは性格はともかくとして見た目は聖女のごとく美しいので、周りは女神様を置いていき、こんな表情をさせるなんてと怒るのだった。

 王城の中でただ一人、楽しそうにしているのはエステルの友人である魔人の血を引く王女、リィナだけである。

「あはははははっ、本当にエステルってば最高だわ。私に最高の娯楽をくれるなんてっ。それにしてもトア侯爵も馬鹿なこと。エステルは敵にさえ回さずに仲よくなればとても良い友人なのに。お父様たちももう少しエステルのことを理解すべきよね。まぁ、お父様には国の方針としてエステルの邪魔はしないように助言はしておかないと」

 リィナは一通り、笑ったあと、父親に助言をすることを決意する。エステル次第では友人の親だろうともリィナの父親を躊躇いなく殺すことだってあり得るのだ。そのことをリィナは友人として把握していた。

「お父様にもセィンにもエステルとは仲良く過ごしてもらわないとね。敵対したら大変だもの。あとはエステルが起こした騒動で王家に旨味が出るように調整もしないとね」

 ふふっとリィナは楽し気に微笑んだ。


 リィナ・アサロンは軟禁されている王女だが、その実、誰よりも外の情報を知り、誰よりも自由な少女である。

 千里眼によってあらゆるものを見通し、塔に閉じ込められておりながらも少しずつ増やしていった配下を使って外の世界に影響力を与えている。

 それもすべて可愛い弟と、自分の父親のためである。






 *



 さて、王城にエステルがトア侯爵に行った所業が伝えられ、国王はリィナから忠告まで受けた。規格外で前例のない勇者の被害者がこれ以上増えないように通達がなされている。

 魔法を使っての通達で、エステル・ユーファミアという勇者と敵対をしないようにと伝えられているのだ。

 さて、そんな状況の中でエステル・ユーファミアは魔王城を目指す中で一つの街に寄った。

 街の出入り口にいる兵士はエステル・ユーファミアという存在を見て震え、すぐに領主館に使いを飛ばした。

 この街の領主はその報せを聞いてそれはもう体を震わせていた。というのもこの街の領主は小心者であった。ちょっとしたことで怯え、不安を感じるような者なのだ。とはいえ、それは良い言い方をすれば、用心深いということになる。

 王都から魔王城への道のりの間に自分の治める領土があったということから、元々領主は恐怖していた。

 『黒剣のエステル』――エステル・ユーファミアという男の事は前々から知っていた。それだけエステルという存在は有名で、危険な男だったから。その男と関わらずに生きていきたいとエステルが勇者に選ばれるからずっと願っていたのだ。執事たちには「そういう機会はないと思いますよ」「安心してください」などと慰められながら領主としての責務をこなしていたのだ。

 だというのにこの度、領主にとってはめでたくないことにエステル・ユーファミアはこの国の勇者に選ばれてしまった。

 領主は勇者がエステル・ユーファミアだと知ってからもずっと願っていた。エステル・ユーファミアが街に訪れないことを。毎日のようにずっと願っていた……、しかしエステルはその街に足を踏み入れてしまった。

「無理無理無理。トア侯爵がひどい様になっているんだろう!? 私なんかがエステル・ユーファミアなどという恐ろしい男にあったら殺されてしまう。そして私が何かをやらかしてしまってエステル・ユーファミアの手によって領土が地獄へと化し、領民まで不幸に―――」

「何をネガティブな妄想ばかりしているのですか!! エステル・ユーファミアと敵対したくないのならば丁重にもてなすべきでしょう。恐ろしい男だというのは噂で聞いておりますが、話が通じないということはないそうですよ。なので、きちんとおもてなしをして話をすれば、事を荒げることはしないでしょう」

「ほ、本当か?」

「ええ。本当ですとも。この私があなたに嘘をついたことがございましたでしょうか?」

 といった領主と、領主を幼いころから知る執事長のやり取りがあり、エステル・ユーファミアの元へ領主館から招待したいという手紙が届けられることとなったのであった。



 そして突然の招待に訝しそうな表情をしたエステルだが、領主館でうまいものが食えるならいいかと領主館に足を運ぶことにしたのであった。



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