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和やかな会話。

「エステル様ぁ、とてもご機嫌そうですねぇ」

「エステルは、お金が手に入ってとても嬉しいのよ」

 エステル・ユーファミアの仲間であるフローラとヴェネーノの楽しそうな声が聞こえる。それは、エステルの持っている袋の中から聞こえている。二人は本来の姿であるアゲハ蝶と毒サソリの姿のままだ。

 エステル・ユーファミアは、二人の魔人のいうようにご機嫌であった。なぜなら、トア侯爵からぶんどるだけぶんどれたからだ。エステルは、笑みを零している。

 エステル・ユーファミアはお金を手にした時に一番良い笑顔を浮かべることをフローラとヴェネーノは知っている。

「ああ。金目のものが手に入ったからな」

「それでエステルはこれからどうするの?」

「魔王のもとに向かうに決まってんだろ」

 エステル、さっさと魔王のいるもとに向かう気満々である。エステルとしてみれば、魔王を倒すというのは長期戦ではない。短い時間でさっさと倒してお金を手に入れたいと思っていた。

 エステル・ユーファミアは欲望に素直な男である。

「エステル様、楽しそうぉ。他の勇者様にぃ、負けないようにしなきゃですねぇ」

「当然だろ? これで金が手に入らないとか、何のために勇者引き受けたか分からないだろ」

 すたすたと足を進めながら、エステルはそんなことをいう。

「魔王、というのは不思議な存在ですよねぇ」

「そうか?」

「はぃ。だって魔王城ってとこにわざわざ現れるんですよねぇ? それってわざわざ倒してくれっていっているようなものですよねぇ」

 フローラは、そんな言葉を発する。

 魔王とは、魔王城に存在している。

 魔王が存在する城だからこそ、魔王城。

 そう呼ばれている場所に、魔王という存在は出現する。

 魔王は周期的に存在するもので、ふとした時に現れる。

「まぁな。魔王って、そういうものなんだろ。現れて、倒されるのが宿命とされてる存在だな」

 エステルは、魔王という存在にさほど興味はない。魔王が現れると魔物が狂暴化したりといった被害はあるが、エステルにとって倒せばいいという考えしかない。

 他の連中が幾ら死のうが特に気にしないのがエステルだ。友人のリィナの危機ぐらいは助けるかもしれないが、どうでもいい人は本当にどうでもいいと思っているエステルである。

 エステル・ユーファミアは、情というものがないわけではない。微かにだが、友人に対する情ぐらいはある。ただし、自分の価値観を優先する傾向にあるので、友人を見捨てる場合ももちろんあるわけだ。

「一説に、魔王は魔人と似ているものだとも言われてるけど、その辺はどうなんだ、フローラ、ヴェネーノ」

「さぁ? 私にはわからないですぅ。魔王に会った事ないですし、そもそも魔王と魔人が一緒ならば、聖剣というのは何時でも抜けるものになってしまいますよねぇ。魔人は、ずっと存在してますし」

「似てはいるのではないかしら? 結局の所、魔王も私たち魔人も、発生するものだもの」

 フローラは分からないと無邪気に告げ、ヴェネーノは似ているのではないかと答える。

「ま、確かに似ているかもな。正直似ていようが倒すだけだけどな。即急に倒して、金を手にする」

「ふふ、エステル様らしいですぅ。エステル様が、さっさと魔王を倒せるように、私お手伝いがんばりますぅ」

「エステルと私とフローラと、そしてレイヤが揃っていて魔王を倒せないなんてことはないでしょうしね」

 魔王退治、というのは本来ここまで緊迫せずに挑むものでは決してないのだが、エステルたち一味はどこまでも和やかな会話を続ける。まるで少し出かける、といった雰囲気の会話だ。

 エステル・ユーファミアにとって魔王を倒すことは目標ではない。お金を稼ぐための一つの手段でしかない。

 和やかな会話をしている中で、魔物が目の前に現れる。

 唸り声をあげてとびかかってくる狼の魔物。エステルはそれを、一振りで殺害する。

「こういう魔物も、魔王城に近づけば近づくほど増えるって話なんだよな?」

「はぃ、そのはずですぅ」

「なら、その分貴重な部位も手に入るだろうし、金も手に入るな」

「ふふふ、エステル、楽しそう」

 魔王城、という魔王の存在する場所に近づけば近づくほど魔物という狂暴な存在たちの数が増え、その凶暴さがましていくとされている。それは、本来ならば勇者にとってつらい事象である。生きるか死ぬかの、そういう問題である。……本来ならば。

 でも、エステルにとっては嬉しいことでしかない。お金が手に入るという結果が伴うことでしかない。それに加えてエステルは戦うことが好きだ。魔物を葬ることに関して喜びを感じるような人間だ。愉快でお金が手に入る。それが魔王城に近づけば近づくほど増える。

 だからこそ、エステル・ユーファミアは笑っているし、その仲間たちもエステルの言葉に笑いながら言葉を返すのだった。




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