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襲撃には反撃しかない 2

 宿屋への襲撃。

 それは、宿の店主にも話を通して行われた事のようだ。現に、男たちがエステルの部屋を囲むように動いても、店主が騒ぎ立てていない。

 トア侯爵は、領民に慕われている男だ。エステル・ユーファミアの事を犯罪者か何かだと説明をしたのかもしれない。

 さて、エステルを勇者などと認めたくないトア侯爵の手のものは寝首をかこうと、その部屋の中へと突入した。眠っているエステルの事を殺すつもりだったのだろう。

 このトア侯爵の手のものは、トア侯爵に雇われている正規の兵というわけではない。『犯罪者である』少年が街にやってきたという事を言われて雇われた冒険者である。そう、エステルと同じギルドに所属している冒険者。

 室内に突入した瞬間、エステルの魔法によって彼らはとらえられた。身動きのできない状況に持ち込まれている。一瞬で、だ。

 「なっ」

 驚いたように、彼らは声を上げた。

 「さて、お前ら死ぬか生きるか選べ」

 「なっ」

 「死ぬなら殺すだけだ。一瞬で殺してやってもいいし、拷問の果てに殺してやってもいい。で、生きるなら俺に散々利用されろ」

 「おまっ」

 「うるさい。問いかけた事以外に言葉を発するな」

 エステルが睨みつけても、声を上げようとした男は次の瞬間死んだ。喋るなといったのに喋った。たったそれだけの事でもエステルにとって人を殺す理由になり得た。

 エステル・ユーファミアは、人を殺す事を躊躇わない。

 殺された冒険者たちを青ざめた顔で残った冒険者たちが見つめる。自分も、目の前の少年の気分次第ではすぐに殺されてしまうのだとそれを理解して顔色を悪くする。

 「で、死ぬ? 生きる?」

 「い、生きる! 利用でもなんでもされてやろう!」

 「お、俺も。だから、命だけは」

 と、命乞いをしてくる男たち。エステルはそんな彼ら、一人一人に呪印を施す。自分を裏切る事が出来ない呪印を。

 それから、エステルは彼らの拘束を解かないままに、質問をしていく。

 「依頼主は、トア侯爵か?」

 「あ、ああ」

 「お前たちは、俺がエステル・ユーファミアだと知って襲撃してきたか?」

 「はぁあ!? え、エステル・ユーファミア!? 今代の勇者で、黒剣のエステル!?」

 「そう。俺がそのエステル・ユーファミア」

 エステルは、周りが認めないと言おうが正式に国に認められた勇者である。加えて、二つ名もちである。そんな存在を襲撃してしまったと聞いた男たちは益々狼狽した。

 「さて、とりあえずトア侯爵がお前たちの襲撃にかかわっているという証拠をよこしてもらおうか」

 エステルはそういって笑った。



 さて、宿での襲撃をどうにかしたエステル。

 このまま命が狙われる可能性もあると、街から逃げ出すという選択肢ももちろんある。だけど、その選択肢はエステルの頭の中にはない。

 やられたら、やり返す。

 それがエステルであり、やられたまま逃げ帰るなどという真似を彼はしない。

 相手が侯爵家だろうとも関係がない。王侯貴族が相手だろうとも、エステル・ユーファミアはぶれない。彼が譲歩する必要は何もない。

 「エステル様ぁ、あの冒険者たち、街に出して良かったのですかぁ?」

 「ああ。寧ろ、勇者にトア侯爵が襲撃をしかけたという事実が広まればいい。そうなれば、幾ら忠臣と名高く、街のものたちにとって立派な領主であろうとも不信感は抱かされるだろ」

 エステルは性格がどうであれ、国に認められた勇者である。

 そんな存在に対して襲撃をしかけた忠臣。

 貴族というものは、外面は重要だ。

 評判次第で、大変なことになることも歴史の中でも多々ある。

 「金を払わなきゃ殺すって脅しつけてやったほうが手っ取り早いけど、それよりももっと屈辱を味あわせてとれるだけ金ぶんどる」

 この言葉を聞いているものがいたら引いてしまいそうなほどの言葉である。

 エステルはトア侯爵の事を金をぶんどれる存在という認識でしか見ていなかった。

 「噂広めたらそうなりますかぁ?」

 「フローラはお馬鹿ねぇ。エステルは一応勇者よ? こんなのでも勇者になってしまったのよ。そんな勇者に暗殺者を向けまでして、勇者と不仲となったら忠臣とされているここの貴族は必死にエステルと仲良くしようとするわ。実際に仲良くしなくても、仲良くしていますよというパフォーマンスはしようとするでしょうね」

 評判というのは、一気に崩れ去ってしまうものである。幾ら、トア侯爵が領民からも評判が良くても、悪いうわさが続き、勇者を暗殺しようとしたという事が広まれば少しずつ積み上げてきたものも壊れていく。

 勇者と不仲。国の認めた勇者を暗殺しようとした。

 その悪い噂をぬぐうためには、本人の心境がどうであれ勇者と仲良くしているというのを領民に見せる必要があるだろう。

 百聞は一見にしかずというように、聞いたものより見たものの方が確かだと人は信じるものだ。

 「だから、そうなった時に金をぶんどれるだろ?」

 エステルはそういって、幾らぶんどれるかと頬を緩ませた。





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