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間違っても勇者には見えない。 3

 人質がいるというのは厄介なことである。

 人の命とはそれほど重いものだ。人の命には代えがない。一度失われてしまえば二度とは戻らない。それが人の命。だから善人はそれをもっとも尊く、重いものとし、何よりも大切にする。

 何を変えても守ろうとする。自分の命を投げ出してさえ、他人の命を守ろうとするようなそういうものだっている。

 本来、勇者とは善人である。

 清い魂を持つもの。

 誰よりも善人であろうとするもの。

 誰よりも人の命を大切にするもの。

 勇者とは、本来そうである。

 そして、盗賊退治を進んでするものは、善人が多い。

 勇者でなかったとしても、近隣の村人たちに頼まれたから盗賊退治をするとか。盗賊たちの行いが許せないから退治をするとか。そういう理由を持って盗賊を退治するものが世の中には沢山いる。寧ろそういう者たち以外はほとんどいない。

 だからこそ、盗賊は人質を取る。

 そうすれば、目の前の存在は躊躇するだろうとそんな思いを胸に。

 だが、エステル・ユーファミアは勇者であろうとも、盗賊退治をしていようとも決してその内は善人とは言い難い。

 盗賊にとらわれている若い女性。その者は美しい。美しいが故に盗賊たちの戦利品となり得た女性。年頃の男ならばその美しさに惑わされ、救わなければと思うのが大多数であろう。

 その女性の首元には刃物があてられ、いつでもその命は盗賊によって刈り取ることができる状況である。女性の顔色は青ざめていて、見ている者に庇護欲を与える。

 が、そんなものエステル・ユーファミアには関係がない。

 エステルは一度だけそちらに視線を向けた後、武器を失ってなお、人質がいるからと余裕な顔を見せるボスに溜息混じりに言い放った。

 「やれば?」

 「は?」

 冷たい声で言い放たれたその台詞に言葉を失ったのは、周りのすべてだ。

 人質を殺してもいいと、そんな風に言い放つものがいるとはまさかボスも、人質をとらえている盗賊も、人質も思わなかったのだ。

 ボスからしてみればエステルは正義を片手にここを攻めてきた存在という認識であったため、人質をとってなお余裕で何も気にしていない様子がわからない。

 盗賊からしてみればボスを助けるための最大の武器として人質を取ったという認識なのに、全く気にしないでやれば? などと口にするエステルが意味がわからない。

 人質からしてみればエステルは自分たちを助けてくれる神様のような存在という認識であったのだが、自分が人質になっていようと気にしない様子に何がなんだかわからない。

 「お、お前俺が本気でやらないと――」

 「どうでもいい。やれば?」

 エステルはそう言い放つと、ボスへと近づいていく。ボスは「ほ、本当にやるんだぞ?」とエステルを信じられないものを見るように見ている。

 「どうぞ」

 エステルはそれだけいって、ボスにためらいなく近づくとその首を掻っ切った。

 武器を失ったボスなど、エステルの敵ではない。そしてボスを殺した後に人質と盗賊を見る。人質は震えている。盗賊も、震えている。

 ボスがやられたという事実に、盗賊は頭が働いていない。

 そんな盗賊に近づき、エステルが何をしたかといえば―――盗賊の抱えている人質ごと切り裂いた。

 二人とも重なるように倒れる。

 盗賊も人質も信じられないものを見る目でエステルを見ているが、エステルはわざわざ人質の安全を確保するというのも面倒で、二人まとめて切った方が楽という理由で殺した。中々酷い。

 そしてエステルは倒れて命をじわじわ失っていく存在に一瞥もむけずに、奥へと進んでいく。



 砦内にいた盗賊たちは全滅した。



 エステルの目的は盗賊たちの財宝である。何よりもお金が大好きなエステルにとって盗賊たちの蓄えた財宝は魅力的だ。

 そして盗賊たちの戦利品の蓄えられている場所へといけば、女性や子供が十数人ほどとらえられていた。

 盗賊にとらえられていた彼らは、エステルを見て助けてくれるのではと期待した目を向けているが財宝にしか興味がないエステルはその牢屋の鍵を開けようともせず財宝の方へと向かう。そしてそれを詰めていく。

 それが終わると盗賊たちの砦を後にしようとする。

 「ま、待て!」

 「あ? なんだよ」

 そんなエステルに向かって牢屋の中から一つの声が響く。エステルがそちらに視線を向ければ、こんな場所にいるのがおかしいとさえ思えるような高貴なオーラをまとった少女がそこにいた。

 銀色の髪を腰まで伸ばし、身なりの良い少女。

 服は破れかかっているが、穢された様子はない。エステルが乗り込む直前に穢されそうになっていたのだろう。そしてエステルが来たから穢そうとした男はエステルに向かっていき、殺されたのであろう。

 それを見てエステルの気は変わった。

 「あんた、どっかの良い所の出か? 報酬弾むなら助けてやってもいーぜ?」

 結局エステルが動く要因は金である。もし少女が貴族ならば助ければ金がもらえるだろうというそんな理由しかない。

 「………わかりました。では報酬を与えるのでわたくしたちを助けなさい」

 少女はエステルの言動を見てそれが一番良い道だと思ったのだろう。そう告げた。

 「わたくしたち? なんだ、ほかの奴も助けろってか?」

 「当たり前でしょう!! この者たちは大事な民ですわよ!!」

 「その分報酬は増えるんだろうな?」

 「……お父様にきちんと言いますので、全員助けてくださいませ」

 エステル、他の女性と子供たちを助ける気は一切なかったが、少女にそういわれて結局全員助けることになった。すべては金のためである。





 

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