表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

間違っても勇者には見えない。 2

 「こ、こんなこと……」

 「うるさい」

 エステルに向かってとびかかった盗賊たちの内、残り一人の声は途中で遮られた。エステルの不機嫌そうな声と共に、その命を散らされた。

 エステルは返り血一つ浴びていない。ただその手に持つ魔剣のレイヤにはおぞましいほどの血液がこびりついている。じゅるじゅるとそれを啜る音まで聞こえてくる。そして、足元には無残にも命を散らされた盗賊たちが、死体としてそこにある。

 エステルが命を奪った数は、実に十二人。

 『赤い鷹』の四分の一ほどの人数である。これ以上、アジトから盗賊が出てこないのは外に強奪にいっているか、それとも十二人いればエステルを殺すことが出来ると自分たちの力を驕ってしまった愚かものたちであったかである。

 『黒剣のエステル』―――そう呼ばれるギルドの二つ名もちのエステルが、十二人ごときにやられるはずがないという当たり前の事を彼らは知らない。もし、エステルが、『黒剣のエステル』だと知っていれば別だろうが、一見してエステルはそんな噂される存在には見えない。

 まだ16歳の少年。恐れるに足らない少年。

 盗賊たちはそう思っただろう。

 だが、事実、エステルは無傷だ。

 彼は力を持っている。そして、その力を使う事を一切躊躇わない。

 「エステル様ぁ、流石!」

 「エステルもレイヤも楽しそうね。ふふ、大きな盗賊団だから沢山の財宝を持ってそうで楽しみだわ」

 エステルはフローラとヴェネーノの声を聞きながらも、アジトへと足を踏み入れる。

 これだけ大きな盗賊団だと良いものを持ってそうだとエステルは口元を緩める。盗賊たちの持っている財宝を奪い取る気満々である。

 尤も盗賊たちの奪ったものは、基本的に退治したものたちのものになるとなっている。まぁ、中には奪い返してほしいという依頼もあったりするし、善意のあるものたちは奪われたものを返そうとするだろう。が、エステルは自分のものにしかする気はない。

 エステルがアジトの中へと足を踏み入れると、「なっ、まだ生きていたのか」と盗賊がエステルに気づく。そこからはアジトはあわただしくなっていく。

 たった一人の侵入者。

 たった一人の少年。

 それだけを考えれば悪名高い『赤い鷹』のメンバーたちにとって脅威にはならない。

 だが、それは普通の少年ではない。また、彼らにとって侵入者が普通ではないと気付くまでが遅すぎた。

 エステルが普通ではないと気付いた時には、アジトの中にいた半数以上の命が既になかった。

 「お前か、俺たちの所に乗り込んできた侵入者ってのは!」

 エステルがアジトの中で暴れる中で、奥からガタイの良い男が現れる。エステルはそいつを見ながら、ギルドの賞金首一覧にその男の名がのっていた事を思いだし、金が手に入ると笑う。

 その男は元ギルドのメンバーで、名をはせていた。しかし、いつの日か悪行に手を染め、誰もが討伐に向かったが返り討ちにあってきたという事実がある。

 「良い度胸だな、一人で来るなんて。お前、俺たちの仲間にならないか?」

 盗賊たちの中での信頼関係など、皆無なのかもしれない。盗賊のボスである男は、切り捨てられた者たちよりも、圧倒的に強いエステルを仲間にすることを取った。

 「あぁ? なんで俺がてめーみたいなのの下につかないといけないんだよ」

 エステルは不機嫌そうに言い放つ。

 「エステル様をぉ、配下にしようなんて馬鹿なのですぅ」

 「ただでさえエステルからお金を奪おうとしといて、誘うなんてお馬鹿ね」

 なんていう、フローラとヴェネーノのつぶやきは、ボスには聞こえてはいない。

 そう、エステル・ユーファミアを知る者たちからしてみれば、ボスの行動は馬鹿に尽きる。ただでさえお金が大好きでたまらないエステルからその大事なものを奪おうとした。それだけでエステルに殺されるに十分な理由である。

 加えて唯我独尊で、誰かの配下につくなどいったことが大嫌いなエステルに向かって、配下になれと告げる。そんなもの、逆鱗に二回も触れているようなものである。

 そもそも、仲間にならないかと勧誘してくるという事はエステルが己よりも弱いと思っているからこその言葉であり、エステルが怒るのも無理はない。

 「はっ、交渉決裂か。なら、死ね」

 ボスが襲い掛かってくる。ボスの武器は大剣である。力任せに振るわれたそれを、エステルは軽く受け止める。その事実にボスも周りも驚く。

 しかも片手で受け止めているのだ。ボスが両手で振るっているそれを、片手で受け止めるといっただけでも何が起こっているかわからないというのが彼らの正直な感想である。

 「なっ」

 驚くボスを面倒そうに見たエステルは、レイヤを振るう。ボスと対峙する後ろから切りかかってくる盗賊たちもいたが、それは無詠唱で放たれた暗黒属性の魔法によって意味をなさない。

 後ろから切りかかったその者は、闇にのまれていった。

 まるで背中に目があるのではないかと思うほどに的確に、襲い掛かってくる者たちを仕留めている。

 そして、ボスに対しても余裕である。

 ボスの大剣がカッキーンという音と共に、宙を舞う。得物をなくしたボスは流石に顔を青ざめさせる。が、エステルの後方を見てその顔に余裕が戻る。

 「お、お前、これ以上好き勝手するなら、こいつを殺すぞ!!」

 エステルの後ろでは戦利品として捉えられていた女性が、人質として捕まっていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ