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間違っても勇者には見えない。

 勇者とは強者である。

 勇者とは英雄である。

 勇者とは正義を持つものである。

 勇者とはやさしき心を持つものである。

 と、そんな風に一般的には言われている。間違いではない。

 勇者になれるのは、清い魂を持っているもの。きれいな魂を持つ者を伝説の剣は選ぶ。

 清い魂を持つ者は、基本的に人を見捨てられない、正義の、美しい心を持つ者である。

 故に、勇者とはそういう存在である。

 ---最も、この度、エステル・ユーファミアという例外が生まれてしまったが。

 さて、そんなエステル・ユーファミアはといえば、

 「はっ、この俺から金を奪おうとするなんて馬鹿だろ」

 アサロンの城下町から次の街へと向かう道中に遭遇した盗賊を追い詰めていた。

 盗賊たちは不幸だった。エステルのことを知らなかった。一人旅をしている少年だと狙ってしまった。それが過ちだったのだと、盗賊たちは襲い掛かるまで気づけなかった。

 よりにもよってだ。お金を愛してやまないエステルに金をよこせといったのだ。それは許されない。

 「ひっ、ゆ、許し--」

 命乞いをした盗賊の男が、口を開いている最中に切断された。血をすったエステルの武器--魔剣のレイヤは禍々しいオーラを放ったままだ。

 エステルの頭には、レイヤの楽しそうな声が響いている。

 『もっと、もっと血がほしい。もっと、キりたい』

 レイヤはまさしく魔剣である。血を求めて、本能のままに、人を切ることを望んでいる。

 「ふぅ。しかし盗賊ねぇ、金もってそうだな」

 襲い掛かってきた盗賊、十数人を切り捨てたエステルのいった言葉はそれである。死体の海の中、赤い血液の散らばる中、獲物を見つけた子供のように笑っている。

 「エステル様ぁ、盗賊つぶすのー? 私も暴れていいー?」

 「盗賊はつぶすっていうか、財産全部ぶんどる。あとレイヤが暴れたがっているから、フローラが暴れるのは今度な」

 「えー。仕方ないなぁ。レイ君に譲るよぉー」

 魔人はレイヤのように血を求めるといったことはない。が、フローラも、そして二人の会話を黙って聞いているヴェネーノも、魔人であるが故に人をどうとも思っていない。

 彼ら一同は、決して盗賊を悪だから倒そうなどとは考えていない。

 つかまっている人がいるかもしれないとも思ってもいない。

 ただ単にエステルは盗賊の財宝がほしいだけである。レイヤは暴れたいだけ。フローラとヴェネーノはエステルがそう決めたから。

 そんなわけで、エステルは盗賊のアジトへと向かうのである。




 さて、盗賊のアジトには数十人もの盗賊たちが存在していた。その大規模な盗賊の組織であるその盗賊団の名は『赤い鷹』という。大盗賊と呼ばれるほどの人物が、頭領におり、彼らは好き勝手に略奪を繰り返していた。

 盗むものは、財宝、そして女子供である。

 盗賊たちに捕まってしまった哀れな女子供たちは身を震わせている。

 特に、盗賊に捕まった女性は悲惨な目にあっている。見目の美しいものたちは、盗賊たちの慰み者である。

 泣き叫ぶ声も聞こえる。

 絶望する叫びも聞こえる。

 そんな残酷な場所が、ここである。

 派手に暴れまわっている盗賊たちは、もちろん指名手配されていた。冒険者や兵士たちに狙われているのは十分承知である。そんなわけでアジトの入り口には見張りが立っていた。

 「ふぁ、ねみぃ」

 「おい、もう少ししっかりしろよ」

 「だってよ、そんな人なんてこねぇじゃねぇか」

 派手に暴れている『赤い鷹』であるが、アジトの場所を回りに悟られるような真似はしていない慎重な組織であった。

 もしばれることがあれば拠点を変え、そうして大きくなってきた。

 どうせ誰も来ない。来たとしても自分たちの敵ではない。

 油断しきっている彼らは、その場に絶望が近づいてくることに一切気づいていない。

 「ん? なんか、音が--」

 一人の耳に、何かが動く音がした。

 そしてそちらを向いた男は、次の瞬間に首が飛んでいた。両断された頭と胴体。無残にも驚いた顔のまま固まった男の首が宙を舞う。

 ほかの盗賊たちが、固まる。

 その視線の先には、一人の少年がいる。

 金色の髪を持つ美しい少年--エステルは、盗賊たちを前に、それはもう愉しそうに笑った。

 「さぁて、虐殺しようか」

 盗賊たちが「襲撃だ」と叫んだときにはもう遅い。

 そのときにはもう見張りの兵は死んでいる。一瞬が、命取り。それが殺し合いの場。エステルにとって、盗賊が驚いているその一瞬で、彼を殺せたというそれだけの話。

 しかし、叫んだ声はもちろんアジトにも響いていた。

 盗賊たちが、アジトから現れる。

 一体多数。

 そんな状況でも、エステルは笑っている。

 エステルにとって、相手が何人いようが、真正面から切りかかってこようが。何も問題はなかった。

 「そっちからきてくれるなんて、楽でいいな」

 なんて余裕そうな言葉をつぶやいて、エステルの虐殺は始まった。






 

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