焼き鳥と家族と射命丸
鉄生って射命丸を下の名前で呼んだ事あったっけ? と思い一時間で書いた
「なんでですか?」
そう問われたのは、雪が膝の高さまで積もる寒い冬の日だった。
文々。新聞の記者兼筆者兼編集兼配達員と言う何足わらじを持っているのか分からない鴉天狗、射命丸は、妹紅の屋台でネギマとモモの串をバラしながら咲夜の皿に分けてる最中の俺に突然こう言った。
何故、自分を下の名前で呼ばないのか、と。考えてみれば奥の深い問題である。
「名前を呼んでいないから呼ばないとか」
「そんなトートロジーを並べて悦に入る希薄な妖怪とは思ってないのでどうぞ」
時々コイツの思考回路を俺のと比較してみたいと思ってしまう。
「つってもなぁ……俺、他にも下で呼ばない奴はいるぞ?」
秋姉妹とか。アレらを呼ぶときは「秋(姉)」「秋(妹)」にしてる。
「長い付き合いの化生相手は殆ど名前で呼んでますよね。八雲紫然り西行寺幽々子然り伊吹萃香然り。あ、最近会った古明地さとり氏もそうだったとか」
俺はお前がどうしてそこまで情報収集力に優れているのか知りたい。その三割で良いからくれ。
「何か理由があるんですか?」
「いや、別に……」
「無いなら今から呼んで下さいよー。気軽にー、フレンドリーにー、友達とか恋人みたいにー」
「酒でも入ってんのか頬赤いぞデレてるつもりなら既に俺ルートに必要なフラグ回収してないから無理だと言っておく」
突き放すが無駄に絡んでくる。隣に座ってるのを良いことに腕を絡めるは髪を引っ張るはやりたい放題だ髪触んな。幽香のスキンシップで慣れてるがやはり当たるモノが当たってると意識してしまう髪触んな。
「お父さん?」
「咲夜は気にすんな。酔っ払いの戯言だから」
「はーい」
「酔っ払い扱いしないで下さーい! 戯言ですけどー!」
認めるのか。しかしやはり酔っ払ってただけらしい、次第に言葉が支離滅裂になってきている。ついでに矛先も滅茶苦茶だ。
「妹紅さんはどー思いますか? 鉄生さんの態度!」
「別に。コレがどうであれ私とは関係無いし」
バッサリだな、おい。即座に顔をこちらに向ける鴉。
「咲夜ちゃんだってー、お父さんが『私だけ』特別扱いされてたら嫌だよねー? 『私だけ』苗字で呼ばれててー、意識されてるのなんかヤだよねー?」
「そうなの? お父さん」
いやいやいやいや、懐柔されんなよそんな文句で。微妙に潤んでる様な咲夜の瞳を見ながらだとそんな文句も引っ込んだ。
「俺は『家族』しか特別扱いしねーよ。それ以外は路傍の石と切り捨てても構わないけど、『家族』だけは蔑ろにしたりしない」
「ほんと?」
「ああ、誓って」
どんな事があっても。たとえ触れ合えなくなっても語り合えなくなっても、その事だけは忘れない。それだけは魂に刻みつけている。
「故にこの天狗を特別扱いなんぞしねーよ」
「うるへー! 何が誓うだこの近親s「おっと肘が滑った」ぐべらッ」
首筋に肘打ちを落とし沈黙させる。咲夜の前でんな言葉使うんじゃねぇ。
それに、な。
「『家族』たって、血以上に尊いものはあるさ」
咲夜だってそうだ。血が繋がってなかろうが、この子は俺と幽香の愛娘だ。絶対曲げない。文句ある奴は細切れになってから聞いてやる。
だから、俺がお前らを『家族』と思っていたとしても、なんら問題は無い訳だ。そんで家族内で優劣なんぞそんな付けんしな。等しく想いを抱いていると言って差し支え無い。
つーか嫌いな奴は苗字すら呼ばないし、俺。
ま、だからって射命丸はまだ名前で呼ばねーけど。あっさり解決しちまったら、からかうネタにならないしな。
「実は名前を覚えてないとかじゃないのか」
「……ハハッ、何を馬鹿な」
動揺を隠す為に咲夜を撫でる。うん、家族は大事。