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幕間劇:完成した動かない懐中時計

幽香と続き、ちょっと悲しい話。にした筈

特殊な書き方だと一気にガーッと書いてしまいます




 長い針がお母さん。

 短い針が私。

 秒針がお父さん。

 どれか一つが欠けていたら、時計は動かない。

 どれか一つが欠けていたら、正しい時を示せない。


 だから、みんな一緒だって、言ってたのに。

 いなくならない、って、言ってたのに。

 なんで、なの?









 お家に帰らなくなって一週間が過ぎた。

 寺子屋に毎朝行って、お昼にみんなと遊んで、夕暮れに帰っていく。

 私だけが、残る。


 夜になると、森や山を歩いて色んな所に行く。

 お父さんと一緒に行った所を回って、一生懸命探す。

 けど、どこにもお父さんはいない。

 ――――――私だけが、いる。


 魔法の森の道具屋さんは、お家まで送ると言った。

 人形繰りの魔法使いさんは、暫く泊まる様にと言った。

 新聞記者の天狗さんは、お父さんの昔話を教えると言った。

 竹林の焼き鳥屋さんは、お土産に焼き鳥を沢山渡すと言った。

 みんな、お父さんの居場所を知らなかった。

 ――――――私だけが、訊く。


 みんな、探してない。

 みんな、もう、知っている。

 でも、私は、知らない。

 知りたくない。

 ――――――私だけが、信じてる。




 その内、あの場所に訪れた。

 真っ赤で大きなお屋敷。緑色の服を着たお姉さんに連れられて、その門をくぐった。


 そこで漸く、私は気付いた。





◆◇◆◇◆◇





 真紅の椅子に座りながら、目の前の少女を睨みつける。紅魔館独特のメイド服に身を包み、目はどことなく虚ろ。薄汚れた来客に言葉を投げ掛ける。


「……ノコノコとやって来たかと思えば、まだ理解出来ていないのか」


 ピクリともしない少女。まだ壊れていないその瞳の光を打ち砕くのは、余りにも簡単すぎる。


「『お父さんを何処にいるか知りませんか?』だと? ハッ、お前が良く知っている筈だぞ。何せその命その物なのだからな」


 少女の命とその父親の命は表裏一体。双方が生き長らえる運命は無く、どちらかが死なねばならない宿命にあった。

 その意を込めて、少女の心に仕掛ける。


「お前が生き延びたから、父親は死んだんだよ。嗚呼、もしお前が命を散らしていたなら父親は長らえていた筈だとも」


 ――――――何故、お前は生きる?

 無慈悲な声。いや、元から慈悲などありはしなかった。想い人を失った憎しみを持つ者に、人並みの情は存在しなかった。


「今、お前を殺せばお兄様が生き返ると言うなら、私は喜んで殺すだろう。その心臓を食らい時を操れるのなら、私は躊躇いなどしない」


 憎悪。それだけで少女は言葉により蹂躙され、心を崩されていく。

 それ程、吸血鬼の感情は激しかった。


「――――――自分と言う異端児を産んだ父親を殺し、育ての親を記憶から()し、情を掛けた飼い主を仇で返す。何とも素晴らしい狂犬振りだな、ええ?」


 三度の父親殺し。幼子によるその罪の重さは吸血鬼の視線だけでも十分だった。

 だが、彼女は止まらない。名無しの少女には無上の愛を与えられ、自らには喪失感が残される。許される筈は無い。


「紅執事の暗示が余程強力だったんだな? お前は三度も父親の温もりを味わいながら、それから離れる事すら出来ていない。愚かで哀れで――――――なんて、憎らしい」


 5歳で失った両親。その喪失感を埋めた男。

 二度目の喪失感を埋めるモノは無く、ただただ負の感情が溢れ出す。

 何故、この子供はこんなにも恵まれている。ただの生贄だったと言うのに。

 何故、彼はこの子供を大切にしたのか。自らの命と――――――私達より、この少女が重かったのか。


「狂犬。今日から貴様の首には輪を着けて置いてやる。お母様とお父様とお兄様の穴を埋めるのには役に立たないが、それならそれで別の使い方がある」


 悪魔の微笑み。満月から切り離された細い弧が、その顔には浮かんでいた。


「忠誠ではない、自我を寄越せ。貴様の血肉、骨の末から臓物の滓までも私の物だ。その邪魔な思考さえ無ければ良いんだよ」


 殺す事による復讐もある。だが紅魔の主は、その全てを手中に収める事による復讐を行う。

 狂った月が欠けた空には、十六夜月が残っていた。





◆◇◆◇◆◇





 私室として案内された部屋には、小さな木箱が置いてあった。装飾も何もない、簡素な桐の箱。

 中に入っていたのは、銀色の懐中時計だった。まるで月の様な模様が入っており、空にあれば間違えるんじゃないだろうか。

 蓋を開けてネジを廻してみると、ある事に気付いた。針が動かない――――――秒針が入っていないのだ。

 まるで自分達の様。自虐的にクスリと笑う。

 きっとこの時計は、彼が作ったモノだ。そう信じて、両の手で握り締める。金属の冷気が手首にまで伝わるけれど、何も感じない。

 嗚呼、きっと少し前になら、泣いて喜んだんだろう。

 嗚呼、きっと少し前になら、お父さん、と呼んだだろう。

 だけど、もう、遅い。もう私は、違うモノになってしまった。


 浮かぶ十六夜月を見る。何時の日にかあの欠落が消失に変わるのだと思うと、少し恐ろしくなる。だけど、それがどうしたと言うのだ。今まで欠けさせて来たのは自分なのだから、自分達が欠ける事位どうって事は無い。


 ――――――涙はもう、枯れていた。

 ――――――私だけが、枯れていた。


今回は名前を出さない様にして書いてみました。まぁだからどうしたって感じですが

こういう悲しげな話を上手く書くにはどうすればいいんだろうなぁ。まだまだ改良出来そうだけど手を加えると崩れそうだったので投稿しました

感想貰えると自信がつきます。ではまた

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