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フリーランス

第2話です。楽しんでいただけたら幸いです。


 貧民街。


 「風の国」は王族・貴族が平民を支配する絶対君主制度の国家だ。

 貴族と呼ばれる人々はより上へと上り詰め、平民たちはさらに下へと虐げられる。この国には光と影の如き差別が根付いていた。

 それは夕闇時のような不明瞭なものではなく、明らかな線引きをされていて、「貴族」と「平民」の間には深い溝ができて短くない。

 貴族を光としよう。

 ならば平民は闇であろう。

 光あれば影があるように。貴族の繁栄の裏には平民の犠牲がある。

 無論、国の主な労働力となっているのは平民で違いないだろうし、平民なくして国は成り立たない。単純かつ分かりきった事実である。

 しかし、貴族は興味を示さない。

 平民など、貴族からむしり取られるだけの存在と教え込まれて育ったからだった。

 だから貴族は眼を背け続けてきた。


 闇にだって、深い闇が存在することを。


 貧民街。

 そこに暮らす大半の者は国民権を認められず、故に定職にも就けず、その日の食事にも事欠く……そんな人たちが暮らす「風の国」の暗部。

 金を得る手段を得られない。

 だから悪事に手を染める者も多い。

 悪党の巣窟として、貴族が見て見ぬふりをしている場所が貧民街だった。

 義賊「フリーランス」のアジトは、そんな貧民街の一角に悠然と軒を構えている。


 

 豪華とは言えない、赤レンガを積み上げて作った建築物の中で。

「お、目を覚ましそうだぞ」

 フリーは1人の少女の顔を眺めていた。

 少女の名前はエリス。

 城の重鎮の娘らしいが子悪党どもに誘拐され、フリーたちが救出してきた少女だ。

 使い古された白い布を敷いた寝床に寝かされている。エリスは金色の可愛らしい眉毛をしかめていた。

 じきに目指そうだと、フリーが目を覚ましそうな少女の柔らかそうな頬をつつこうとする。

 しかし彼の手を掴む者がいた。

 青い髪の小柄な青年──ランスだった。

「おいフリー。抜け駆けは許さんぞ」

 小柄ながら鍛えこまれたランスの腕は太い。戦うための鍛錬で身に付いた鋼の筋肉だ。

 フリーが使う武器が剣なら、ランスの得物は槍である。百戦錬磨の槍の名手。だからランス。ランサーでも良かったのだが、どこか呼び辛いと感じたフリーが命名してやった。

 「フリーランス」の面々は本名ではなく、愛称で呼び合うのが通例なのだ。

 無論、彼の呼び名であるフリーも本名ではなく愛称だ。本名を知らずとも、彼ら「フリーランス」の絆は本物だとフリーは断言する自信があった。

 何をする気かランスが訊いてきた。

「もちろん、この子を起こすのさ」

 フリーの言葉にランスが返す。

「ちっちっち、だから言っただろう。抜け駆けは許さねえぞ。美少女を起こすのは俺の仕事だぜ」

「何を言う? この子を助けたのは俺だぞ。起こす権利が俺にあるのは至極当然のことだ」

「飼葉に頭から突っ込んでただけの分際で、よく言うぜ」

「くっ……」

 痛いところを突いてくれる。油断していなければ、あんな子悪党なぞものの数秒で始末できたのだ。俺の見せ場を奪ったのはお前らなんだぞ?

 心で愚痴を入れるフリーに、ランスは真剣な眼差しを向けていた。

 男には譲れないモノがある。

 それが今だ! 強い眼光がそう語っていた。

「だからこの子を起こすのは俺の権利だと言ってもいいはずだ。俺が精霊機で待機していなかったら、お前らは今頃墓石の下だぜ」

「精霊機に乗っていた位でいい気になるなよ?」

 精霊機は「精霊石」を利用した最強の武装だ。

 フリーの3倍はあろうかという背丈の巨大な鎧に乗っていれば、人間などクモの子を散らすように蹴散らせる。精霊機で出待ちしていた? 大人が子どもを倒しても自慢になんてならない。

 男なら生身で来るのだなと、精霊機に乗れないフリーは心中で毒づいていた。

「負け犬の遠吠えは聞こえないぜ。待っててね、エリスちゃ~ん。今、王子様があつ~いベーゼで目を覚まさせてあげるからね~」

「やめろ。汚れる」

「なんだと?」

「俺の指先がその子の柔らかな頬を求めているのだ。お前の乾燥してひび割れた上に、やや臭い口で汚されてたまるか」

「安心しろ。俺が奪うのは唇だけだ」

「その方が問題よッ!」

 背後からアーチャーの怒声が聞こえてきた。

 間髪居れずに頭上から拳骨が降ってきた。アーチャーが女だからって鍛えられた拳は痛い。痛いものは痛い。

 フリーは目から火花が飛び出そうな衝撃に。

『痛いじゃないか?』

 抗議する声がランスと重なっていた。互いの声に顔を見合わせてしまう。

「はぁ……アンタたち、どんだけ仲がいいのよ」

 アーチャーが呆れていた。

「失礼な。俺とランスが仲が良いだと? コイツは俺のぷにぷに頬っぺたを奪おうとした男だぞ?」

「そうだぜ、アーチャー。お前はまだ寝ぼけてるのか? 下で顔を洗ってきな」

「あーはいはい。じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうわね。ただし──」

 アーチャーがフリーたちの背後を指差した。

「──アンタたちがその子を食卓に連れてきてね」

 フリーが振り返ると、横になっていたはずのエリスが起き上がっていた。まだ眠たげな瞳でフリーたちを見つめている。

 あぁ、何ということだろう……フリーは天を仰がずにはいられない気分に苛まれていた。

「あの……ここは何処なのですか? 見知らぬ天井……私はまたユーカイされてしまったのです」

「それは良かったわね、お譲ちゃん。とりあえず、貞操の危機は脱したわよ」

「はぁ、それはとても大変でしたね」

 エリスが首を捻った。

 色々と理解できていなさそうに見えた。理解されない方がいいのだが、とフリーは胸をなでおろし、ランスはあからさまに舌打ちをしている。

 二人を尻目に足早に寝室を後にするアーチャーの背中に、二人のため息が合わさった。

「頬っぺた……」「唇……」

「ほぇ?」

 間の抜けた声を漏らすをエリスを、肩を落としたフリーたちは食卓へと案内する。




平行して執筆している2次小説の方が1話1話長いので、こちらは1話1話は短めにしようかと思います。

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