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出会い 2

今回は主人公視点です。

 城下町から離れた場所にある、何の変哲も無く人気の無い納屋。


 「風の国」は絶対君主制度で運営される国家である。

 王族・貴族の暮らす城砦と貴族街、そして城下に広がる街に平民は暮らしていた。

「風の国」の国土は大まかに言ってしまえばこの3つの区画で構成されているのだが、街から離れた場所には田園地帯や酪農地帯なども当然存在する。さらに行き場の無い平民の集う貧民街なども存在しているが、それらは貴族たちから完全に黙認(存在しないもの)とされているのが現状だ。

 

 フリーは田園地帯の納屋の中に居た。

 彼の眼前には剣を抜いた男たちがおり、おびえた様な表情で切っ先を彼に向けている。

 男たちの近くには、金髪緑眼の美少女が柱にくくり付けられ、さるぐつわを口に噛まされていた。

 フリーの目当ての少女が、だ。

「お、お前がフリーマンか?」

 少女を誘拐した子悪党ども。その大将格らしき鉢巻男が叫んでいた。

漆黒の騎士(ダークナイト)、フリー……お前がそうか?」

「ふっ……そうだ。俺はフリーマン。人呼んで漆黒の騎士(ダークナイト)とは俺のことさ」

 フリーは自慢のポニーテールを揺らして答えた。

 漆黒の騎士(ダークナイト)。フリーは光さえ吸い込みそうな黒髪と黒い瞳をしている。彼のような風貌は実は「風の国」では珍しく、しかも好んで黒い服を着込んでいるため付けられた異名だった。

 本当に騎士という訳ではない。彼の剣技は騎士にも匹敵するという意味で付けられたのだとフリーは思っていた。

 納屋の扉を打ち抜いた鉄剣を子悪党たちにかざす。

「観念してその子をこっちに渡せ。面倒だから抵抗するなよ? どのみち、お前たちはもう指名手配されてみたいだからな」

「な、なんだと?」

 鉢巻男が唸る。

「俺たちの足がつくはずがない。アイツが城から離れた時を狙ったんだ。そうそう、発覚するはずが……」

 額に汗を滲ませる鉢巻男に弟分が話しかけた。

「あ、兄貴……」

「なんだ?」

「そう言えば、さらう時に城下町を巡回する兵士がいたような……」

「なんだと? なんでそれを早く言わねえ!」

「す、すいやせん!」

 鉢巻男は弟分の胸倉を掴んで怒鳴りつけるがすぐに手を離した。

「言い争っていても仕方ねえ。逃げるぞ」

「おいおい、逃げられると思ってんのか?」

 フリーは剣を構えて不適な笑みを浮かべていた。

 子悪党たちは鉢巻男と弟分を合わせて4人だ。

 腕っ節にも剣の腕に覚えのあるフリーが取り逃がすはずもない人数だった。

 彼も伊達や酔狂で漆黒の騎士(ダークナイト)と呼ばれているのではないのだ。

 しかし鉢巻男は唾を吐き出し、顔を歪めて声を捻り出していた。

「うるせえ、無能!」

「なっ?」

 何故それを知っている!

 それがフリーの率直な感想だった。

 彼が「フリーランス」の仲間にそう呼ばれていることは事実。

 だが誰も知らないはずなのに……鉢巻男は何故それを知っているのだろうか。

「知らないのはお前だけだぜ」

「なんだと?」

「有名な話だぞ。漆黒の騎士(ダークナイト)は実に無能だってな!」

「ぷすすっ」

 鉢巻男の言葉に張り付けにされた美少女が笑っていた。弟分たちも声を上げて笑う。

 なんということだ。美少女に笑われてしまった……いや、それよりも。

 フリーは頭を抱え込んでしまった。

 せっかく漆黒の騎士(ダークナイト)というカッコいい異名が広まっていい気分だったのに……どこから情報が漏れたのだろうか? 

 しかも鉢巻男の弁では既に相当噂として広まっているようだ。

 漆黒の騎士(ダークナイト)=無能という図式は定着してしまっていると言うのか?

 だとすれば由々しき問題だ!

「隙あり! (はらわた)ブチ撒けて死ねぇ!」

 気がつくと鉢巻男が戦闘魔道具(バトルギア)を振り上げていた。

 薄緑色の真空波が剣から迸った。フリーは頭をもたげていたので反応が遅れる。

 無害なはずの「風」の魔力が、命を刈り取る死神の鎌と化してフリーに襲い掛かった。

 つい、持っていた鋼鉄の剣で真空波を受け止めてしまう。

「あっ」

 両刃の安っぽいそれは、刃の中ほどで気持ちよく両断された。

 真空波がフリーを直撃し、巻き上がった突風で彼は弾き飛ばされる。

 納屋の中に納められていた飼葉の中に頭から突っ込み、葉と埃が舞い上がった。

「殺ったぜ!」

 鉢巻男が剣をかち上げていた。まるで勝利者のように。

「なぁぁぁにが漆黒の騎士(ダークナイト)だ。敵のまん前で悩んでじゃねえよ、ばーかばーか」

「汚い。流石兄貴、汚いです!」

「ふふっ、そんなに褒めるな。照れるじゃねえか」

 剣を納める鉢巻男に弟分と仲間たちが賛辞を送る。

 勝ち誇っている。彼らの様子を表す表現はそれが適切だろう。

 鉢巻男は捕らえている少女の方に歩を進めた。

「隠れ家が割れた以上ここに居るわけにはいかねえ。おい、弟分」

「へい」

「お前はアレを移動させる準備をしてくるんだ」

「合点承知でさぁ!」

 弟分は納屋の奥に駆け込んでいく。

「お譲ちゃん。お前は大事な人質だ。結婚資金のために一緒に来てもらうぜ」

「むーむー」

 手を伸ばす鉢巻男に美少女は声にならない叫び声を上げていた。猿ぐつわをかみ締めて表情が険しくなっている。

 フリーを切り捨てた鉢巻男に嫌悪感を感じているのかもしれない。

 いくら理解が遅いとはいえ、自身が誘拐されたという異常な状況を認識するには十分な出来事だったのだろう。

 鉢巻男の死角──柱の裏、美少女の手の上で再び小さな炎が上がった。

 自分を縛る縄を美少女は静かに焼き切りにかかる。ちりちり煙を上げて縄が細くなっていくが、煙は小さく美少女の体に遮られているため鉢巻男たちには見えないようだ。

 彼女が柱から開放されるのにそれほど時間はかからないだろう。

 美少女は空いているもう一方の手に小さな雷撃を奔らせていた。

「ん? お前、何をしている?」

 美少女の行動に鉢巻男が感づいたようだ。

「そうよ。フリー、アンタいつまで寝ているつもり?」

「!」

 しかし納屋の入り口から聞こえた声に鉢巻男たちが振り返った。

 扉の破壊された入り口には、背中に大きな弓と矢筒を背負った赤髪の女性が立っており、フリーが倒れている飼葉に向かって話しかけていた。軽装だが右手には小型のボウガンを身に付けており、偶然納屋に迷い込んだのではなく鉢巻男たちを追って来たという事が見て取れる。

「ふん。どうやら、あの無能の仲間みたいだな」

 鉢巻男が鼻を鳴らしていた。

 赤髪の女性は鉢巻男を一瞥する。

「あら? フリーを無能と呼んでいいのはアタシたちだけよ、子悪党さん?」

「残念だったな。そのフリーマンはもう死んでしまったぞ。俺の魔法で切り刻まれて、その飼葉の中に──」

 その時、飼葉が動いた。

「おー、いてて」

「なぁぁぁぁにぃぃっ!」

 フリーが飼葉の中から姿を現し、鉢巻男たちは絶叫を上げて固まった。

 服と髪に纏わりつく飼葉を払いのけながら足を運び出す。

 飼葉が鼻をくすぐりせきごんではいたが、体に血痕や傷跡は見受けられない。

 無傷だ……ただ、上着はズタズタに切り裂かれ、手持ちの剣は中ほどから切っ先にかけて無くなってしまっていたが。

「くそ、俺のお気に入りを滅茶苦茶にしやがって。剣まで真っ二つだ……面倒だ。また、買いなおさないといけないじゃないか」

「アンタが油断しているから悪いのよ、フリー」

「アーチャー」

 アーチャーと呼ばれた赤髪の女性は呆れたようにため息をついていた。バツが悪そうにフリーの割れた腹筋から目を背ける。

「目の毒なのよ。……言っとくけど、アタシはアンタの代えの服なんて持ってないからね」

「おっとすまない。純情な子猫ちゃんには少し刺激が強すぎたかな? ハハ」

 フリーがアーチャーの方を振り返る。

 アーチャーが眉を上げてフリーを蹴った。小さな悲鳴を上げて、フリーはまた彼女に背を見せる。

「アンタねぇ、心にも無い事言うの止めなさいよね。それにアタシはガタイの良い男が好みなの。アンタみたいな体の細い男は眼中になしよ」

「そいつは残念」

 失笑するフリーに、アーチャーは頬を薄紅色にして顔を背けて呟いていた。

「……ったく、このやり取り何回目だと思ってんのよ……?」

「なんだってー?」

「う、うっさいわね。こっち向くなって!」

「つれないなぁ、アーちゃんは」

「その名前で呼ぶな! この無能!」

「…………」

「一々しょげるな! 面倒くさい!」

「あぁ、面倒だ」

「こっちの台詞よ! 大体、アンタは──」

「お前らぁ! 俺たちを無視してんじゃねえぞ!」

 鉢巻男たちが激昂していた。

「なんんんだおままはッ? 化け物きゃ!」

「あ、兄貴兄貴、噛んでます! 動揺しているのが見え見えです!」

「ダァァァァッ!」

 鉢巻男に弟分その2が殴り飛ばされていた。

 息を落ち着けようと深呼吸して鉢巻男はフリーを睨んできた。

戦闘魔道具(バトルギア)だぞ。普通はくたばらないないまでも怪我の一つぐらいするだろう! なのに、何故お前は無傷なんだ!」

「説明するのが面倒だ」

「野郎!」

 鉢巻男は殺気立って剣を振るってきた。

 3度目の真空波がフリーを襲う。

 体を切り裂く瞬間、フリーは片手で真空波を軽く薙いだ。

 それだけで真空波は霧のように霧散する。

「なっ?」

「万事休すって奴さ」

 フリーが手を下ろした時には、

「風よ、我が敵を穿て!」

 アーチャーが背負っていた大きな弓を構えていた。

 彼女の握る矢じりには緑色の宝石が埋め込まれている。それは「風」の精霊石だった。彼女の意思に呼応して精霊石から「風」の魔力が弓矢全体を包んでいった。

 弓形の戦闘魔道具(バトルギア)から放たれたその矢は、突風による螺旋の渦を巻き起し、一瞬で鉢巻男たちを飲み込んでいく。

「うげえぇぇぇぇっ!」

 鉢巻男と弟分2人は暴風に飛ばされて納屋の壁に叩きつけられる。

 弟分たちは気絶し、傷だらけになりながら辛うじて意識を繋ぎ止めていたのは鉢巻男だけだった。

 アーチャーは大弓を背中に背負いなおした。

「ま、ざっとこんなものよね」

「アーチャー、お前は相変わらず容赦がないな」

「害虫駆除に加減する人間がおりますか? いないわよ。あ、矢拾わなくちゃ」

「ち、ちくしょう……こ、こんなはずじゃあ……!」

 ボロ雑巾のようにみすぼらしくなった鉢巻男が唸る。服はボロボロ、全身傷だらけで流血もしているが、何故か頭の鉢巻だけは無傷だった。

 アーチャーが鉢巻男たちの間を横切って、納屋の端に落ちている矢を取りに行こうとする。

 すると鉢巻男は地面に這いつくばっている訳で、特に短くもない腰布を下から覗きたくなるのは男の性というもの。

 鉢巻男は死にそうになりながらも必死に神秘の花園を見上げようとした。

 途端にアーチャーのつま先が目に直撃する。

 「目がー目がー!」と悶絶して転げ回り、「傷がー傷がー!」と叫んだ後、目を押さえたまま痙攣して動かなくなった。

「ちっ、惜しい」

「アンタ、射つわよ?」

 矢を拾ったアーチャーが小型ボウガンをフリーに向けてくる。

 フリーは即座に両手を挙げて、降参した。

「まぁ待て、軽い冗談だ。俺は面倒事は嫌いだ。仲間割れなんて面倒なのは勘弁だぜ」

「だったら口を塞げ。前を隠せ。息をするな」

「死ねってのか?」

 真顔のアーチャーの言葉にフリーは少し寒気を覚えた。

「じゃあ、さっさとあの子を連れて帰りましょう」

「分かった。それで万事解決だ」

 フリーは柱に縛られた美少女の元に移動した。

 まず口を塞ぐ布を外してやった。

「ぷはっ。あの……あ、ありがとうです」

「どう致しまして、お嬢さん」

 美少女の礼にフリーは微笑を返した。

「俺の名前はフリーマン。お嬢さん、名前を聞かせてもらってもいいかな?」

「私の名前、ですか? 私の名前はエリスというのです」

「うむ、間違いないな」

「そうね。目的の人物はこの子で間違いなさそうね」

「ほぇ?」

 美少女──エリスは、首を傾げて間の抜けた声を出していた。

「いいかい、エリス。状況が分からないだろうから教えてあげよう」

 フリーが極めて紳士的に口を開いた。

「君が誘拐されるのを見ていた兵士がいてね、君のお父上が君の奪還命令を騎士団に出したみたいなんだ」

「まぁ、騎士団にですか? それは大事なのですね」

「そうなのさ。……というか緊張感の無い返事だな。エリス、君は自分の置かれている状況が分かっているのか?」

「ええ、私はユーカイされたのです。大変なのです。ですので、先ほどから逃げ出そうとしていたところだったのです」

「……この子、本当に分かっているのかしら?」

 アーチャーがエリスの顔を見ながら呟いていた。

 フリーもアーチャーの言葉に激しく同意を覚える。

 エリスの言っているユーカイと誘拐は、同じ言葉のようで何処か違うような気がしていた。さらには自力で脱出すると言う始末だし、自身を客観的に評価できていない気がしてならない。

 何処かズレているな。この少女は。

 それがフリーの第一印象だった。

「いいか、エリス。君が誘拐されたから騎士団は必死に君を捜索している。ここまでは分かるね?」

「はい!」

 エリスは満面の笑みで頷いた。 

 本当に分かっているのだろうか。

「そこで、その話を小耳に挟んだ義賊『フリーランス』が君を救出に参上したという訳だ。君をお城に届ければ、もれなく金一封がもらえるって寸法さ」

「キンイップウ? なんですかそれは? 美味しいのですか?」

「……さ、帰ろうか」

 埒が明かない予感がしたフリーは早々に話を打ち切った。

 エリスは説明を理解していないまたは誤解している可能性が高いが、あえて詳しく説明してやる理由もない。フリーたちの目的は、エリスを城に帰して報奨金を貰う事だからだ。

 なんなら目隠しして拘束したままで城にご返却してやってもいい。

 ……それは言いすぎだが、エリスがフリーたちに助けてもらったと証言さえしてくれれば、彼らにとっては何ら問題はない。

 誘拐犯と誤解されなければいいのだ。

 フリーが何故か焦げ目の突いている縄を解くと、エリスは自由になった。

 短く切りそろえられた金髪が揺れ、見れば見れる程可愛らしい少女だった。

 エリスはフリーに天使のような笑顔を向ける。

「ありがとうです。助けてもらったついでと言っては何なのですが、一つ教えてもらいたい事があるのです」

「ん、なんだい。言ってみな」

「城下町に『精霊焼き』という美味なる焼き菓子があると聞いたのです。私はそれを探しに城からでたのですが、何処で買えるか教えてもらえませんか?」

 笑顔は素晴らしいが、言っている事は的外れというか……ズレまっくていた。

 この状況での質問がそれか。

 フリーは苦い笑みを隠せなかった。

 さらに言うのも忍びないが『精霊焼き』は焼き菓子などではない。確か城下町の安物粉モノ料理の名前で、名前ぐらい豪華にしようという理由でつけられた名前だったはずだが……。

「分かった分かった。お城に帰るまで一度食べさせてやるよ」

「本当ですか? ありがとうです!」

 小さく笑うと、フリーはエリスの頭に手を置いた。

 雰囲気は真逆だが、フリーにはエリスぐらいの妹が一人いる。小さい頃は、彼の後ろを子犬のように付いて来たものだった。

 とある事情で、同居していない妹とエリスを重ねて頭を撫でてやる。

 すると──

「あ、あれー? ち、力が抜ける──」

 ──エリスは目を回してフリーの体にもたれかかって来た。

「お、おい、どうした?」

 肩を掴んで揺さぶってみた。

 首が激しく前後するだけで目を覚ます気配はない。

「ちょっとアンタ! 何したのよ!」

「お、俺は何もしていないぞ。ただ頭を撫でただけで……」

「現に気絶してるじゃない! 可愛そうに。無能に触られたのが相当堪えたみたいね!」

 アーチャーがフリーからエリスをひったくった。

 エリスを抱きしめて、フリーを親の敵かのような視線で見据えている。

 もしくは変質者に向けられるそれだ。実際、彼が触れてエリスは倒れてしまったので何も言う事ができなかった。

 フリーは心の中で叫んでいた。

 俺は悪くない。俺は無実だ!

「くくく……馬鹿どもめ……」

 鉢巻男が頭を上げていた。

「早く逃げればいいものを……! 俺たちの勝ちだ!」

 片目で勝ち誇る鉢巻男。

 その声に応じるかのように地響きが聞こえた。

 音と共に地面が僅かに揺れるのを感じる。地響きはフリーたちに向かって来ていた。

 やがて納屋の奥から人影が現れた。

 巨大な人影だ。

精霊機(エレメンタルギア)……こんなもの何処で?」

 フリーたちの眼前に精霊機が姿を見せていた。


 精霊機(エレメンタルギア)とは精霊石を用いた現代最強の武器である。


 精霊機の外見は総じて全身鎧を纏った騎士のような風貌をしている。

 良質の精霊石を核として金属の巨大な鎧を動かし、巨体から繰り出されるその一撃は相手を虐殺するためには十分すぎ、戦闘において一瞬でパワーバランスを覆してしまう程の最強の兵器だった。

 余談だが操縦者は胸部装甲内に乗り込み操作する。

 その強靭な装甲は戦闘魔道具の魔法も弾いてしまい、ひとたび武器を持てば歩兵など一撃で蹴散らす能力を持っている。

 精霊機に対抗できるのは精霊機だけと言われ、かつての戦争で多用され多くの人命を奪い、猛威を振るった代物だった。


 長身なフリーのゆうに3倍はあろうかと言う鋼の巨体が見下ろしている。

「ひ・み・つ、ダァァァァァ! 弟分、殺れ! 俺の仇を取れぇぇぇい!」

『あ、兄貴? 兄貴……あ、兄貴ィィィィッ!』

 絶叫と共に再び気絶した鉢巻男に、精霊機から弟分の悲痛な声が響き渡らせていた。

 弟分の乗る精霊機は無手だが、騎士団が使っているモノと同じ配色を施されえている。

「騎士団の精霊機、ハルシオンか……まずいな。流石に、あれに殴られると死ねるな」

「それより入手経路はどうなっているのかしら? そちらの方が問題ね」

『兄貴。俺、殺ります! 殺ってみせます!』

 フリーたちの会話を無視して一人で弟分は猛っていた。

 鉢巻男が近くにいることも忘れて精霊機──ハルシオンで地団駄を踏む。

 一踏みごとに納屋の地面が窪み、深々と巨大な足跡が残されていた。鋼鉄の鎧だろうと粉々に粉砕しそうな威力だ。

 弟分の乗ったハルシオンがフリーたち向かって来て、

『死ぃぃねぇぇぇ!』

 巨大な足を持ち上げた。

 どうやら踏み潰すつもりらしい。潰されれば即死。それは容易に想像できたがフリーたちに特に慌てた様子はなかった。

「保険かけておいて正解だったわね」

「まったくだ」

 腕を組んで首を振るフリーとアーチャー。

『この野郎! 何をのん気──』

 弟分の言葉そこまでだった。

 轟音と金属の潰れる音と共に、ハルシオンの振り上げた足が宙を舞っていた。

 鋭利な断面を残して巨大な足は納屋の壁を突き破っていく。ハルシオンの頭上には巨大で鋭利な刃物が見えていた。

 槍。

 それも、もの凄く巨大な槍だった。

 巨大な槍の持ち主も、それに比例した巨躯を有していた。

 蒼く塗装された精霊機が、巨大な槍で、弟分のハルシオンの足を刎ねたのだ。

 蒼い精霊機の外見は弟分のそれを同じ。騎士団の精霊機──ハルシオンだった。納屋の壁には大穴が空いており、蒼いハルシオンが突入して弟分に攻撃を加えたのが分かる。

「遅いぜ、ランス」

『悪かったな、っと!』

 蒼いハルシオンは槍を持ち直し、体制の崩れた弟分に横に薙いだ。

 弟分のハルシオンは腰の部分で上下に泣き別れすることになる。地鳴りを伴ってハルシオンは倒れ、弟分は沈黙した。

「まさか、精霊機が出てくるとはな」

『まったく、最近の悪党は物騒だぜ』

 ランスと呼ばれた蒼いハルシオンの男が悪態をついた。

『どうやって入手したのかねえ? 戦闘魔道具(バトルギア)と違って騎士団が管理してるから殆ど手に入らない筈なんだがなぁ』

「それはお互い様だ」

『へ、違ぇねえや』

 ランスの駆るハルシオンが肩膝をついた。

 ハルシオンの装甲の隙間から蒸気が噴出し、胸部の装甲が前方向に開いていく。

 湯気が晴れ装甲が開き切るとハルシオンの胸部には青い髪の男が乗っていた。

 フリーに比べて背は低い。しかし体は無駄な脂肪を絞りきり、一部の無駄もなく鍛え上げられており、貧弱そうな印象は微塵も感じさせなかった。戦う事に慣れた者の体つきだ。

 ランスがフリーを見下ろしながら言った。

「用も済んだし帰るか。俺らの家へ」

「ああ。子悪党はぶんじばって」

「この子を連れてね」

 フリーたちがランスに応えた。


 この後、鉢巻男たちを縄で柱に拘束し、武器や有り金を取り上げた後納屋に放置した。

 ついでに服も剥ぎ取り『義賊フリーランス参上』と書かれた紙を張っておいた。これで「フリーランス」の名もさらに知れ渡ることだろう。

 鉢巻男たちは、エリスを城に戻した時に場所を教えて拘留してもらう予定だ。


 しかし肝心のエリスは気を失ったままだった。


 呼びかけても、頬っぺたを抓っても起きる気配はなかった。ちなみにアーチャーが監視していたため、フリーはエリスに近づく事もできなかった。射るような視線どころか、本当に矢を射られかねないため、フリーは大人しく遠巻きに眺めるだけにしておいた。

 その様子を見て、ランスは大声を上げて笑っていた。


 とにかく、フリーたちは義賊「フリーランス」のアジトへと戻り、彼女が目を覚ますのを待つことにしたのだった──……





精霊機は、中世の全身鎧のようなモノが巨大化して動き回っていると思って下さい。

魔道具→ギア

戦闘魔道具→バトルギア

精霊機→エレメンタルギアと読む設定にしているのですが、漢字で表記して毎回読みを書いた方がよいのか。それともカタカナで読みをそのまま表記した方がいいのか。

どっちでしょう?

意見やアドバイスを貰えるとありがたいです。

感想も募集中です!

少しずつ更新していくので、今後もよろしくお願いします。

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