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第一章《目覚め》

 この度は、私の作品に辿り着いていただき、ありがとうございます。

 『新たな魔法系冒険ファンタジー』の作品を思い描きながら書きました。

 

 私の中では、かなり大がかりな作品になる予感がしています。


 まだ一章ですが、コレ以降、もっと掘り下げて行きますので、どうぞ皆様、お付き合い下さい。

「魔女って……いるの?」

 ふと、そう思った瞬間に《居るよ……お前もその一人だよ》と、心の中に声が響いた。

 ――しばらくすると、目が覚めた。

 そこは、学校の保健室のベッドの上だった。記憶を辿る。普通に登校したはずが、気づけばここで眠っていたのだ。理解が追いつかないうちに、「水無瀬さ〜ん、気がついたの?」と、保健室のレイカ先生の声が聞こえた。

「大丈夫? あなた、校門の辺りで倒れていて、駆けつけた先生方が運んでくれたのよ。顔色は悪くないけれど……帰れそう?」

「あ……はい! 大丈夫です。ありがとうございました」

 気をつけて帰るようにと言われ、鞄から取り出したスマホを見て驚いた。15時40分。とっくに下校時間だった。朝、登校してから今までずっと寝ていたなんて。寝起きのせいか、少し頭がぼーっとしていた。身支度を済ませ、先生にお礼を言って帰路についた。

 今日は何かが変だ。そう思いながら歩いていると、いつも通るたびに気味が悪いと思っていた、古びた「白い鳥居」に差し掛かった。不思議なことに、鳥居の奥にはお社がない。鳥居だけが存在し、しかも色が白という異様さ。

 右手にその鳥居を横目に通り過ぎようとしたとき、驚くほど真っ白な子猫が佇んでいるのが見えた。目を奪われた瞬間、目が合った。

《こっち……こっちじゃ》

 心に直接声が響いた。気がつくと、私は白猫を追って鳥居をくぐっていた。奥の雑木林へ、吸い込まれるように歩みを進める。いつの間にか辺りは暗くなり、前を歩く白猫を頼りに、暗がりの中を出口の光に向かって歩いた。光の中へ足を踏み入れた瞬間、まばゆい輝きに包まれた。

 ようやく目が慣れて周囲の景色を見て、私は悟った。完全に異世界だと。

「万華鏡かな……?」

 静かな森だが、キラキラとした幻想的な光景に目を奪われ、無意識のうちにかなり奥の方まで歩みを進めていた。見失っていた白猫を見つけ、私は問いかけた。

「私を呼んだのは何故? あなたは、ただの猫ではないよね?」

 白猫は一瞬首を傾げ、口を開いた。

「私を呼んだ? いや、逆じゃろ? お前が聞いてきただろ? 魔女の事を」

 ――夢の中で!

「あれは……何故かそう思っただけで」

 言葉に詰まると、白猫は言った。

「お前、何も知らないようじゃな?」

 私が頷くと、猫は続けた。

「しょうがないのぉ……ならば教えてやる。お前は、魔法が使える一族の血筋だ!」

 唐突すぎる発言に言葉を失う。

「魔法!? そんなの、使えないんだけど」

「いいや、もう使っておる。現にワシと話せておるだろ? それにここは現世ではない。そのくらいはお前にも分かるだろ? ここは、お前たちの先祖が創り出した異世界じゃ」

「ご先祖……様!?」

 半信半疑ではあるものの、この異世界に入ったとき、恐怖は微塵も感じなかったことを思い出した。むしろ、不思議な安心感すら覚える。

「お前、いくつになる?」

「17歳」

「……そうか。お母さんのことは覚えておるか?」

「!? ……3歳の時に亡くなっているから、何も覚えていないの」

「それはそうか……ならばワシが使命を教える」

「使命? 何なのソレ! ……うッ!?」

 急に意識が遠のき始める。白猫は小さく呟いた。

「ん〜、魔力が発現してまだ間もない……無理もないのぉ……」。


 気がつくと、今度は自分の部屋のベッドの上にいた。制服も着たままだった。

 一体どうやって帰ってきたのか、記憶がない。あの猫との出来事は夢だったのか?……いや、着ている制服から、かすかにあの異世界の匂いがした。間違いない、異世界は実在しているのだ。

 階段を上がる足音が聞こえ、部屋の前でノックの音がした。「ルミナ、帰っているのかい? 夕飯ができたから降りてきなさい」と父の声がする。「は〜い、今行く!」と応え、急いで着替えを済ませて下に降りた。

 食事中、父が切り出した。「今朝、学校から連絡があったけれど、大丈夫だったのかい?」

「あ……うん、大丈夫! 保健室で熟睡してたらお昼を食べ損ねちゃって、お腹ペコペコなの(笑)」

「それならいいのだけど、変な痩せ我慢はしないように」

 父は大学で物理学科の准教授をしている。父子関係は良好なほうだ。ただ、幼い頃に母がいない理由を尋ねたとき、「お母さんにはもう会えない!」と父に強く言われたことがある。それ以来、母の話を父とすることは避けてきた。

「ごちそうさま。先にお風呂に入るね。洗い物は上がってからするから」

 洗い物と洗濯は、私の役割である。

 部屋に戻り、机に向かった。明かりをつけて教科書とノートを広げ、宿題を片付ける。

 ベッドに横たわり、今日のことを思い返していた。私、魔女の一族? ……ご先祖様が? ……異世界を創ったって……。初めてのことばかりで、訳がわからない。思考を巡らせているうちに、いつしか眠りについていた。

 

――『早く、〇〇〇〇Blueを見つけるんだ。一刻も早く……』


 朝、目覚めた。また夢の中で声を聞いた気がする……。部屋の時計は6時50分。あと少し寝られたのに、という思いを引きずりながらベッドから起き上がった。あの夢は一体何なのだろう。あの声……どこかで聞いたような……。後ろ髪を引かれながらも身支度を整え、階下へ降りた。

 洗面所にいた私に、父が「今朝はもう出るから。戸締まりをしっかりして出かけるように」と告げ、玄関を出て行った。私は朝食を済ませ、洗い物を片付けてから家を出た。

 通学途中、例の鳥居まで来たが、普段と変わらない様子だった。相変わらず薄気味悪い場所だ。

 今朝は何事もなく授業を受けた。下校時、保健室のレイカ先生が「今日は大丈夫そうね」と声をかけてきた。

「はい! もう絶好調です(笑)。ありがとうございます!」

 そう返事をして帰路につく。あの鳥居に差し掛かると……いた。あの白猫だ。

「えーっと……」

「ネロリじゃ!」

「あ! じゃあネロさんで。あの……昨夜、いろいろと考えたの。ネロさんに会って、こうして話せている今……やっぱり魔法は存在するんだなって」

「ほう、理解が早いな! というか、素直なだけか? ……まあ良い」

「今日は、なぜ私に会ってくれたの?」

「もうすぐ分かるのだが……お前、何か感じないか? 魔力も解放されつつあるのじゃがな」

 そう言われて辺りを見渡した瞬間、突然、背後に気配を感じた。振り返ると、そこには一人の男が立っており、私に声をかけてきた。

「お! 居たぁ(笑)。お前、ここで死ぬから!」

 男がそう言い放ち、振りかざした右手が燃え上がった。間髪入れず、その炎の拳が私めがけて突き出される!

「キャッ!」

 咄嗟に目を閉じた。だが……痛みも熱さも、何も感じない。恐る恐る目を開けると、目の前にネロリが立っていた。ただ、いつもの様子とは違う。体から発したオーラのような光の衣が、男の拳を完全に受け止めていたのだ。

「お前、使いプレジャーか! 」

 男が再び攻撃を仕掛けようとした瞬間、私の中で何かが弾ける感覚がした。次の瞬間、体から温かな何かが奔流のように放たれ、一瞬にして男を包み込んだ。

「うあぁぁァぁーっ!?」

 男が絶叫し、苦しみだす。

「ほう、そうか! 目覚めたか!? ルミナ、その波動を維持するのじゃ!」

「波動!? 維持って、どうやって!?」

「よく見て、集中するんじゃ!」

 私は言われるがまま、男へと視点と意識を一点に集中させた。すると、男を包み込んでいた波動が変化し始めた。色がより鮮やかに、濃くなり、視点の中央に吸い込まれるように収束していく。最後には、男ごと空間が完全に消滅した。

 

 静寂が戻る。ネロリが振り返って言う

「よくやった! お前の能力が目覚め始めたことに呼応して、悪しき力も覚醒しおった。今日、ワシがお前を待っていたのは、その邪悪な気配を察知したからじゃ」

 心臓の鼓動は、まだ高鳴り続けていた。

 少し落ち着きを取り戻してから、私はネロリと様々な話をした。

 ネロリの説明によれば、魂に宿る魔力を具現化したものが「波動」であり、襲ってきた男も魔女であるということ。男は自身の能力で私の存在を感知し、魔力を奪おうとしてきたのだ。魔法波動を使う者は男女を問わず「魔女」と呼ばれ、人間界のような性別の線引きはない。男は私の波動によって消滅したのではなく、どこかへ弾き飛ばされただけだという……。まだ実感が湧かないものの、これが現実なのだということだけは理解した。頭の中はカオス状態だったが、私は重い足取りで帰路についた。

 帰り道、曲がり角から突然人が飛び出してきた。私は咄嗟に後ろへ飛びすさる。よく見ると、ついさっき襲ってきたあの男ではないか。

「え、マジ!? ネロさんがいないよ……!」

 警戒心で体が強張る私をよそに、男はすぐに声を上げた。

「ちょっと待った! 俺、味方だから!」

「はぁ!? ついさっき襲いかかってきておいてよく言うわよ!」

「ホントだって。さっきはこれartifact(魔法具、略して〝AF〟)のせいなんだ」

 男は指輪を見せた。

「家に伝わる魔法具なんだけど、指にはめた途端に波動が暴走しちまって……意識まで持っていかれちまったんだ。本当にごめん!」

 男は両手を合わせ、土下座する勢いで謝ってきた。

「俺、赤壁アカベメノウ。17歳。君は?」

 いきなり馴れ馴れしいな……と思いながらも、「水無瀬ルミナ…17歳」と答えた。メノウは優しく微笑む。

「そういえば、水無瀬ちゃんのAFは? どんなの? 見せてよ」

「アーティファクト!? そんなの持ってないよ!」

「は? じゃあどうやって? さっきのはどうしたんだよ!」

「わかんないのよ! それにさっきはネロさんがいて……」

「ああ、あの使い魔(pledger)か。でも、使い魔って誓約者が発現させるものだろ? どっちにしても魔法具(AF)は必要だろ?」

「道理は合っておる。だが、ルミナは例外じゃ」

 声のする方を見ると、塀の上にネロリがいた。

「お前、穢れがはらわれたのか」

 メノウが慌てて頭を下げる。

「ええ、あの……さっきは……何と言うか、すみません」

「素直な男じゃな(笑)」

「ネロさん、私にもわかるように説明してよ!」

「おお、すまん。要は、この男の魔法具の魔力波動が暴走したおかげで、穢れが生じて自我を失っておったようじゃ。まあ、悪人ではない。悪しき心も感じ取れん。大丈夫じゃ」

「……まあ、ネロさんがそう言うなら、、」

「じゃあ、そういうことで(笑)。あ、俺が穢れていた時に、また別の気配を感じたんだ。あれもかなりヤバい感じがしたよ」

「そうか……近いうちに遭遇することになるじゃろうな。ルミナ、これを渡しておく」

 ネロリがそう言うと、塀から飛びかかり、右足を私の首筋にピタリと押し付けた。

「!? ……これって?」

「マーキングじゃ。これで、お前がどこにいようとワシが転送される。ルミナの危機を察知すると同時にな!」

 その後、私は二人と別れて帰宅した。


 家の前に着いた瞬間、異変に気づいた。ただならぬ気配が漂っている。様子をうかがいながら玄関のドアノブに手をかけた瞬間、扉が勢いよく開き、中から突風が吹き荒れた。瘴気が身体を突き抜け、全身に鳥肌が立つ。「これ、マジでヤバいじゃん!」足がすくむ。しかし、この状況に驚きはしなかった。ここ2日間の出来事で、ある程度の免疫ができていたからだ。

 思い切って玄関に踏み込む。すると目の前にネロリが現れ、同時に暗闇から強烈な衝撃が襲いかかってきた。

「キャッ……冷たい!? 水?」

 水の攻撃をネロリが防いでくれている。玄関は既に水浸しだった。

「へぇ……やるじゃん」

 奥から女の声がした。少しずつ近づいてくる……。玄関の照明が、徐々に彼女の姿を照らし出した。黒髪ロング、制服姿の少女。

「誰!?」

「今から死ぬのに、名乗る必要があるの?」

 右手に持っていたステッキを振り上げると、その手が真っ黒な瘴気に包まれるのが見えた。その瞬間、ネロリが彼女の手をめがけて飛びかかった。その勢いで彼女はステッキを床に落とし、その場で転倒して意識を失ってしまった。

「この子もアーティファクト(AF)に取り込まれていたようじゃ。ルミナ、手当てをしてあげなさい」

「……え!? どうやって?」

「その名のとおり、彼女の体に触れ、念じるのじゃ」

 促されるまま、横たわる彼女の胸に手を当てる。目を閉じた瞬間、体全体に宇宙が入り込んでくるような感覚を覚えた。思わず目を開けてしまう。

「もう一度目を閉じろ! そして、集中するのじゃ」

 再度目を閉じ、心を落ち着かせる。さっきほどの大きな感覚はないが、宇宙とつながった感覚はつかめた。右手に意識を集中すると、突然『オンコロコロセンダリマトイソワカ』…予期せぬ言葉が勝手に出た!。その瞬間、自分の腕とナギサの体が一つに繋がる感覚になり、とても暖かく感じた。しばらくすると、彼女がかすかに動き出し、意識を取り戻した。

「あれ!? ……ここは?」

「正気に戻ったようじゃな」

「え!? 猫が……喋ってる!」

「良かったぁ……無事で」

「えっと……誰?」

「私、ルミナ。あなたも魔法が使えるんでしょ?」

「あ、初めまして。私、ナギサ……水湊ナギサ。AFはこのステッキ……あれ? 元に戻ってる!?」

 ナギサは胸のネックレスに目をやった。

「ナギサちゃんね! その制服、東高のだよね? 何年生?」

「1年です。ルミナさんは……法学高校ですよね? その制服、めっちゃ可愛い!」

 女子トークにネロリが割って入る。

「そんなことより、なぜルミナの家にいるのかは分からんのか?」

「え!? ここルミナちゃんの家なの!? わあ、どうしよぉ……水浸し……」

「お主……水の魔法……どちらかというと、海系じゃな?」

「確かに、潮の匂いがする気が……でも、どうしよう! ていうか、お父さん! まだ帰っていない?」

「あぁ、お父さんかな……この家に着いたときに出迎えてくださった方! AFが光り出して、気づいたら家の前に……。そしたら玄関扉が開いて、眼鏡の男性が迎え入れてくれたんだ」

 眼鏡の男性。父だ。

 ナギサは続けた。「居間に通されてソファーに向かい合って座ると、彼がすぐさま私の額に右手をかざし、何やら唱えるように言葉を発した。その直後に意識がなくなった……」

「『尸解シカイの言霊』じゃな……ルミナ、お主の父の尸解の言葉に心当たりはあるか?」

「心当たりって、急に言われても……!? 『オン・バサラ……』なんちゃらみたいな?」

「それじゃよ! お前も尸解の言葉を聞いておるのか。納得じゃ」

『お前の魔力を目覚めさせたのは、父の《尸解》じゃ』

「ねぇネロさん、お父さんは魔法を使えるの?」

「正直、分からん。ただ、お前の父親はその存在を知っているのだろう。それにしても今……気配すら感じん」

 その時、「あッ!!」

 ルミナに異変が起こった。瞳が定まり、意識が深いゾーンへと入っていく…そして『オン・アビラウンケン・バザラダト・バン』!!ルミナの尸解の言霊で、周囲にいたネロリとナギサも、突然の重圧プレッシャーが頭上から覆いかぶさるような感覚に見舞われ、意識を失った。

 しばらくして意識が戻りかけると、ルミナが必死に名前を呼んでいた。ネロリが意識を取り戻し、続いてナギサを呼び起こす。周りを見渡すと、水浸しだった玄関が、何事もなかったかのように元に戻っていた。

「……これは一体?」

「私も気づいたら、こうなってたの」

「……あの、何だか体調が悪いので、これで失礼します」

 そう言ったナギサをルミナが呼び止め、連絡先を聞いてから帰した。ネロリと別れて家の中に入ると、張り詰めていた緊張が解け、一気に疲れが出た。倒れ込むようにソファーに横たわり、そのまま気を失うように眠りについた。


 翌朝、寒さを感じて目覚めると午前4時50分だった。寝ぼけながら湯船にお湯を張り、顔を洗い、歯を磨く。目が覚めると同時に、強烈な空腹に気がついた。冷蔵庫を開けると、ラップに包まれた青椒肉絲チンジャオロースが残っていた。父が私のために作ってくれたものだ。それとは別に豆腐、ネギ、味噌を取り出し、具材を切って味噌汁を作る。温め直した青椒肉絲と、白米、熱い味噌汁で朝食をとった。

 玄関に父の靴がないのを確認してから風呂に入る。風呂上がりにスマホを見ると、午前6時55分だった。今日は土曜日で学校も休みだし、ここ数日の疲れも溜まっていたので、部屋に戻ってベッドに潜り込み、すぐに眠りに落ちた。

 次に目が覚めてスマホを見ると、午後3時52分だった。寝すぎたせいか、体を起こすと少しふらつく。部屋を出て階下に降りたが、まだ父の姿はない……。冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、部屋に戻ろうと階段を上っている途中で着信音が鳴った。慌ててスマホを確認すると、ナギサからの連絡だった。

「ルミナちゃん、もし時間が有れば会いませんか?」

「あ、うん、いいよ!」

 家には一人だし、ここ二、三日の出来事を思うと、あまり一人でいたくなかったのだ。午後6時に、お互いの家の中間地点にあるファミレスで待ち合わせることになった。

 少し早く着いたと思い店に入り、スマホを取り出して連絡を入れようとした時、

「ルミナちゃん!」

 奥の席からナギサに声をかけられた。

 席に着くと、ナギサの方から話を切り出してきた。16歳、高校一年生。魔法は母から教わり、その時にAFアーティファクトを譲り受けたこと。当時はまだ5歳だったが、その面白さにハマり、夢中になったこと。それ以来、ほぼ毎日魔法波動の鍛錬を積んできたこと――。

 話を聞いていると、年下ではあるが魔法の知識はルミナより上だった。ルミナが覚醒した際、AFのペンダントが見たこともない輝きを放ち、その光に包まれると暖かく癒される感覚に陥ったこと。そして、AFの導きでルミナの家まで来たこと…。


 「そういえば、お父さんは帰ってきたの?」

「いや……帰ってない。とにかく、話をしたいんだけどね……」

「そっか……今日呼んだのは他でもなくて……その、ルミナちゃんのお父さんに会った時のことを話したくて」

「……!? 話して」

「でも……ちょっと言いにくいんだよね」

「大丈夫だから。父のこと、話して」

「……分かった。お家を訪ねた時、迎え入れてくれたのがお父さんで……会った瞬間、AFの光が一瞬で消えたの。正直、驚いた。こんなに機能しなくなるなんて、今までなかったから」

「普段はどうなの? 魔法を使わない時って」

「使わない時でも、魂と共鳴し合って繋がりを感じてる。でもあの瞬間は、《遮断された!?》……要は停電みたいな感覚だった。『魔法波動を出そ!』って思っても、遮断されてるのがすぐに分かった。初めての感覚で、不思議に思ったんだ…そして、ソファーの向かい側から、咄嗟に右手を私の額辺りに翳して《尸解》を唱えだした途端、何か怖いモノが一気に私の中に流れ込んできて……」。

ということは、父のせいでナギサはおかしくなっていたのだ。

 ますます、父に会わなければならないという思いが強まった。

 店を出て、もう少し話をするために二人で歩いた。

 通りの信号を渡り、角を曲がったところで、ネロリと鉢合わせた。

「あれ!? ネロさん……どうして?」

「お前たち、二人だけか?」

 ネロリが不思議そうな表情を浮かべる。

「何か、ただならぬ気配を感じたんじゃが……」

 その時、ネロリの後ろから声をかけられた。

「すみません、失礼ですが、水無瀬ルミナさんでしょうか?」

 細身で高身長、スーツ姿のメガネ男子がそこに立っていた。

「いつの間に!?」

 ネロリが驚いている。

「……はい。あの、どちら様ですか?」

「申し遅れました。私はお父様に頼まれて来た者で、前原エルデと申します」

「……!? 父は今どこにいるんですか?」

「お父様はご自身の危機を察知されて、身を潜めてしまわれました」

「自身の危機!? どういうことなの?」

「詳しくは分かりません。こちらからは連絡が取れない状況でして。ただ、ルミナさんのことを危惧され、私に連絡をくださいました」

「なぜ、お主にルミナを託したのじゃ?」

「私は《魔女》です。お父様はご存知だったのでしょう」

「……ご存知だった?」

「はい。私から魔女だと話したことはありません。ですが、この度私をあなたに遣わせたのですから」

「あの、前原さんと父はどういう関係なんですか?」

「私はかつての教え子です。先生には本当に色々と教えていただきました。数多あまたの生徒の中でも、私は懇意にして貰いました。ルミナさん、どうぞよろしく」

 エルデは優しく微笑んだ。

「あ……どうも」

 横にいるネロリの様子をうかがうが、無反応だ。

「魔女だっていうのなら、証拠を見せてよ!」

 いきなりナギサが詰め寄った。次の瞬間――エルデの後ろから唯ならぬ気配が放たれ、巨大な魔物が姿を現した!

 咄嗟にネロリが戦闘モードに入り、ルミナは尻餅をついた。ナギサは呆気にとられている。

「これで、分かっていただけましたか?」

 エルデは中指で眼鏡を少し押し上げた。

「さあ、帰りましょう。お送りしますよ」

 ルミナは尻の埃を払い、ナギサを正気に戻して帰路についた。

 ルミナの自宅前で、エルデが言った。

「ルミナさん、連絡先を……」

 少し躊躇したが、父とコンタクトを取れる唯一の手段だと思い、LINEを交換した。

「では、また。ナギサさん、お送りしますよ」

「いいえ、結構です。ルミナちゃん、またね」

「あ、うん。あの、ナギサちゃん、ちゃん付け止めない? お互いに」

「……そっか。じゃあまたね、ルミナ」

「うん、じゃあねナギサ。エルデさんも」

「ええ、ではまた」

 二人の背中を見送った。

「ネロさん、どう思う? あの人」

「あやつ、かなりの魔女じゃ。Pledgerプレッジャーを尸解を使わずに従えておる……。あれは土属性の魔法使いじゃな。今、分かるのそのくらいか……」。


 《それから数日》

 

 あの日以来、様々な魔女たちがルミナたちに襲いかかってきた。ネロリはもちろん、メノウ、ナギサ、エルデも駆けつけてくれている。メノウもAFを使いこなすようにはなったが、まだ覚醒には至っていない。ナギサは既に覚醒しており、魔法波動を自在に操る。特筆すべきは『尸解領域』まで行使する点だ。

 エルデは……正に別格。その全てが桁違い。

 ルミナも自ずと成長を遂げる。そんな中……


 『今日も……これで3日連続で襲われてる』

 ナギサが少し考えてから言う。

 『魔女たちから発せられる瘴気、似てない?……なんとなく、だけど』

 『うむ、ワシもそう感じておる』ネロリも同意する。

 《……!? この気配!》そこに居合わせた皆がそう感じた、その時――。

 『おぉ……お! 居んじゃん、居んじゃんよぉ』

 真向かいの塀の上にしゃがみ込み、こちらを見下ろす男が言った。次の瞬間、ルミナの目の前に現れる! 咄嗟にルミナが後ろに引く。

 『なんて速さじゃ……』ネロリが呟く。

 《間違いない……魔女だ》皆がそう確信し、同時にメノウ、ナギサ、エルデも戦闘モードに移行した。

 『いやぁ、あんたの波動かよ! ……つーか、メッチャかわいい……♡』

 『あ! 俺、ライハ……御建ライハ。名前、なんて言うの?』

 あまりの馴れ馴れしさに、ルミナは嫌悪感を隠そうともしない。

 『おい、オッサン! いきなり失礼だろ?』メノウが言い放つ。

 『お、オッサンって……そっちの方が失礼だろう! それにまだ二十歳だし。口の利き方、教えてやらねぇとな!』

 振り抜いた足から雷光が放たれた。間一髪でメノウがかわしたが、雷光の斬撃によって頬に2本の切り傷を負ってしまう。メノウが反撃しようとしたところを、ルミナが制止した。

 『メノウ、待って。ライハさん? 私は水無瀬ルミナ。あなたも魔女なのは分かった。で、用件は何? もしかして、私達とやり合う気なの?』

 『へぇ……ルミナちゃんって言うんだぁ(笑)。やり合う!? あはははは! まぁ、それでも良かったんだけど……止めた! あんた可愛いしね♡。数日前にルミナちゃんの波動を察知してから、気になってたんだよねぇ……。そしたら今日、この近所でまた感じたから見に来たってわけ。いやぁ、ラッキー!』

 この調子の良さに皆が呆れ顔で話を聞いていると、また瞬時にルミナの目の前へと移動する。

 『水無瀬ルミナさん、一目惚れしちゃいました! どうかこの俺と付き合……』

 食い気味にルミナが返す。

 『ごめんなさい』

 『早っ!……マジかぁ。まぁ今日のところはしょうがないか! また次がある! うん、次々っと』

 『俺決めた! ルミナは俺が守るからな!』

 いきなりの呼び捨てに、ルミナの嫌悪感が再発する。

 《この時、離れた所から様子を窺うもう一人の魔女がいた……》

 徐にネロリがその気配の方を向き、少し歩み寄る。『お前はいつまでそうしているつもりじゃ?』

 『……あ……あの〜、分かっちゃいましたか?』

 ゆっくりと、皆の前に姿を現した。

 『ぼ、僕もルミナさんたちに危害を加えるつもりはありません。ただ、貴女の波動を感じて……つい』

 『何日か前から見とったじゃろ?』ネロリが問う。

 『あ……バレてましたか。すいません、なかなか声がかけられなくて……』恥ずかしげに答える。

 『ねえ、あなたも魔女なんでしょ?』ルミナが話しかけた。

 『え! あ……はい』

 『私、ルミナ。あなたは?』

 『リハヤ……霧雲リハヤです』

 『霧雲じゃと!』ネロリが言葉を遮る。

 『ほう……「晟霞八家(sorcières de huit)」……』エルデが眼鏡越しにリハヤを覗き込むように見る。

 『……魔女界の権門一族……』ナギサも驚いた様子を見せる。

 『《権門・八家》つったら……おい!』ライハも知っている様子だ。

 皆の動揺を見て、リハヤが答える。

 『あ、あの〜……家は兄が継ぐので。僕はそういうのじゃないんです(笑)。苦手だから……。それに、今は家出中です』

 ルミナがリハヤに問いかける。

 『ねえ、リハヤ君。もしかして、私たちの仲間に加わりたいんじゃないの?』

 ――《図星だった……》

 『……はい。僕も少しはお役に立てると思いますし、ぜひお願いします!』

 『うん! ありがとう。みんな、いいよね?』

 『もしかすると、実家ともやり合わねばならぬかもしれぬぞ? それでも良いと言うのか』ネロリがリハヤに問う。

 『はい、そうですね……。権門の家に生まれて、色んなモノを見てきました。そして……思ったんです。晟霞八家が全て正しい訳ではない……と。僕は、自分が信じる道を生きると決めて家を出ました。数日前にルミナさんの波動を感じ、初めての感覚に陥ったんです。家にいた頃には無かった、とても暖かな感じ……直感で《これだ!》って思ったんです』

 『その割には声すらかけて来なかったがな』ネロリが揶揄うように言う。

 『あ……それは……そうですけど……』また、顔が赤らむ

 『ううん、上出来よ!』ルミナがリハヤの頭を撫でて言う。

 

 ルミナの元に、仲間たちが集い出した…。


ーー「もはや猶予は無い。計画を早める……いいな!……はい、仰せのままに……アマツ様」ーー。

 

 翌日、ルミナの提案で皆で集まることになった。場所は市街地脇の、人気のない小さな公園。いつ、また瘴気を帯びた魔女に襲われかねない…。エルデは少し遅れるらしい。

 

 ライハは昨日会ったとは思えないほど馴染んでおり、相変わらずのお調子者だ。AFアーティファクトはアンクレット。雷属性の魔女。左利きである。メノウとは昨日の一件もあり、関係はあまりよろしくない。『神鳴かみなり』という、この辺り一体を仕切っている半グレ集団のリーダーで、多方面に顔が利くらしい。戦いがひと段落ついたら、ライハの行きつけのお店でパーティーをするという話になった(笑)。

 リハヤは16歳の高校一年生。ナギサと同い年。昨日も少し感じていたが、綺麗な黒髪に整った顔立ちをしている。何よりも二重でぱっちりとした大きな目が印象的な美少年だ。

 とてもシャイで口下手な性格だが、自分のポリシーや考えを語る時は、別人のようにしっかりとした口調になる。風属性の魔女で、AFは左耳に一つだけ着けたイヤリング。もう一つは、兄のカザトが持っている。

 「エルデさん、遅くない?」ナギサが気にし出したその時だった! 雷光がしなるようにルミナに襲い掛かって来た。ルミナは瞬時に右手をかざし、大気の密度を高めた盾でそれを跳ね返した。ルミナは《空属性の魔女》だ。跳ね除けられた姿は、まるで金色の大蛇のよう。透かさずメノウが反撃し、突き出した右拳から火柱を一直線に放つ! しかし大蛇はそれを避け、一瞬で巻きつくようにメノウへと襲い掛かった。咄嗟にかわしたものの、大きく開かれた大蛇の牙がメノウを掠める。メノウの体に高電圧の電流が流れた。

「うわぁぁ!?」

「メノウ!!」ルミナ達が一斉に大蛇へ襲い掛かる! ナギサは両手を握り合わせて人差し指を突き出し、そこから高密度の水流を放つ。直撃させたが、大蛇を止められない。別角度から、雷を帯びた左足で回し蹴りを繰り出すライハ。しかし、大蛇は微動だにせずそれを跳ね返し、ライハは吹き飛んでしまう。皆が攻撃する中、ルミナは大気を手に圧縮した刀

叢雲むらくも』を形作り、飛びかかって頭から

一刀両断する! 大蛇は雄叫びと共に真っ二つになった。

 ルミナがすぐにメノウの元へ駆け寄り手当てをしだした。皆心配そうに、ルミナとメノウを見守っていた…その時!裂けて果てたと思われていた大蛇が二体となり、再びルミナに襲い掛かった! 一体はリハヤが即座に風を圧縮した『風魔手裏剣』で頭部を切り落とす。もう一体はネロリが捕らえた!?と思われたが、大蛇は体型を細くして頭部を伸ばし、その勢いでルミナの背中に噛みついた! メノウを手当てしながらも後方の気配を察知したルミナが『大気の衣』を発動!メノウに覆い被さるように倒れ込む。直後、蛇の頭部が切り落とされたように落ちた!?。辺りに砂が飛び散る中、いつのまにかエルデが合流していた。意識を失ったルミナをエルデが抱き抱えて呼びかけるが、反応はない。

 ルミナに手当てを受けていたメノウが意識を取り戻す。右目の下辺りには、炎を形どったあざが出現していた。「ルミナ!!」ライハとナギサが駆け寄る。

 「メノウ、お前は大丈夫なのか?」ネロリが問う。

 「あ……うん……何とか。ていうか死にかけたわ」状態を起こすと、肩越しから真っ赤な鳥が舞い降り、肩に止まった。「え!……あぁ、リヒトっていうんだな」赤い鳥と会話をするメノウ。

 「メノウ、お前は死にかけたお陰で《覚醒》しおったな!目元に《覚醒の痣》が出ておる。それにPledger(誓約者)も発現しとる」

 「覚醒!? あ……でもなんか、AFアーティファクトと魂の繋がりをより強く感じる気がするよ」

    

   ーー《今……この時を待っていた!!》

 

 ナギサとライハがメノウの方に目を向けている隙に、エルデの眼鏡が鈍く光った。右手の波動で砂が刃と化し、ルミナの胸を貫こうとした瞬間、エルデの頭に激痛が走る! ライハの右回し蹴りが側頭部に炸裂し、エルデは吹き飛ばされた。その瞬間、ナギサがルミナに覆い被さる。

 「お前……やっぱそうか……」ライハがエルデの方へ向かいながら言う。

 「貴様……いつ気づいた!?」エルデはこめかみにめり込んだ眼鏡をむしり取り、捨てた。

 「俺は今まで悪いこともしてきたし、悪い奴らも大勢見てきた……だから分かるんだよ……本当に悪い奴はな!」

 「クッソ……この私が、お前のような脳筋野郎に邪魔されるとは……どう考えても理解ができない!できないんだよ!!」エルデの咆哮と同時にゴーレム(Pledger)が現れる。

 「てめぇ……俺の女に手ぇかけようとしただけでも半殺しの刑なのによぉ……俺のこと脳筋呼ばわりまでしてくれた日にゃ……もはや万死に値する!!」

 ライハが襲い掛かる。エルデを狙うライハの横からゴーレム『ノゼム』が攻撃しようとした時、ノゼムの脇腹を金色の虎が噛みついた!

 「めい、グッドタイミングだ!そっちは任す!」ライハのPledgerの突撃でノゼムは半壊し、動かなくなる。ライハの目元には雷の痣が出現していた。

 「金色の虎……」エルデが注視する中、ナギサがルミナを抱き寄せていると、ネロリが巨大化して二人を丸呑みし、離脱した。

 ライハの前蹴りを腕をクロスさせ、砂を盾にして防ぐエルデ。次の回し蹴りを後ろに引いてかわすと、そのタイミングでメノウの火柱がエルデの頭部を狙って放たれた! 「ブゥオン!!」という直撃音と共に砂煙が辺りを包む。

 「やったか!?」ライハが叫ぶ。砂煙が薄れてくると、赤い眼が二つ浮かび上がり、ノゼムがエルデの前に立ちはだかっていた。慌てて鳴の方を見ると、大破したノゼムが転がっている。もう一体のノゼムがエルデを守ったのだ!!。

『Pledgerが二体!?』メノウが驚いている。

ノゼムの後ろからエルデが放った砂がメノウとライハを襲うが、二人とも難なく払い除ける。それを確認したエルデが微笑み、「Knead(練る)」と呟いた。

 ノゼムがメノウに殴りかかる! 咄嗟にかわそうとした時、《足が……動かない!?》。両腕をクロスして防いだが、吹き飛ばされた。

 「おい、メノウ!!」ライハが叫ぶ。メノウをぶっ飛ばした勢いのまま、返す刀でライハに殴りかかる。ライハもかわそうとするが、足が動かないことに気づく!

 「!? さっきの砂が足にまとわりついてやがる!」

 『雷光』の言葉と共に雷の壁がライハの目の前に現れ、ノゼムを跳ね返した。その瞬間、背中に激痛が走る。

 「前に気を取られ過ぎだよ、脳筋君(笑)」

 「ぐぁはっ!」ライハが倒れ込む。砂で刃を形作った右手で背中を袈裟斬りにした!。次にとどめを刺そうと右手を突き出した瞬間、その手に鳴が噛みついた。

 「グッ……」右手から電流が走り、一瞬エルデが怯む。次の瞬間、後方から気配を感じて避けようとしたが、身体の痺れから思うように動かない!

 「グアアぁぁあー!!」エルデの左腕が切り落とされた。空間をつんざく余韻が残る。

 「エルデさん……あなたも前に気を取られ過ぎなんじゃないですか?」リハヤの風魔手裏剣が、エルデの腕を切断した後、ノゼムの首も跳ねた。

 悶え苦しむエルデを、ネロリが見つめている。

 「うぅ……!?」ルミナの意識が戻る。

 「ルミナ!」ナギサが叫ぶ。自力で状態を起こしたルミナは、目の前の光景に驚き、手で口を塞ぎながら「何……一体何がどうなったの!?」と押し殺したような声で呟く。「身体は大丈夫なのか?」ネロリの問いに、ルミナは頷くことしかできない。

 「エルデさん……あなたの目的は何ですか? なぜルミナさんを裏切った!」リハヤが問う。

 「……そんなこと……お前らに……はな……!?」次の瞬間、エルデが直立し、顔は天を仰いだ。

 「おお……おお! お越しになられた!! アマツ様ぁ!!」

 「アマツじゃと!? 甕星みかぼしアマツか!!」ネロリが珍しく動揺して叫ぶ。

 「晟霞八家せいかはっけ……あの忌まわしき一族!」リハヤも緊張の面持ちだ。

 「!? 確か、家に伝わる古い文献に出てきた《8人の魔女達の反乱(Rebellion Genevieve)》の首謀者の一人が……甕星……だった」ナギサも困惑している。

 目の白目部分まで真っ黒になったエルデが正面を向き、話し出した。

 《皆、よくここまでルミナを成長させてくれたね……》

 明らかにいつものエルデの声ではない。何者かが憑依している。

 「……その話し方……声……お、父さん?」その言葉に皆が驚く!!!。

 「!?……この瘴気……今までの魔女達と……」ナギサが呟く。

 「まさか、約800年前の因縁《泉凪閖みなゆり王家》を滅ぼした首謀者一族の子孫が、その正統後継者の父とはな……」ネロリが呟き、ネロリを見てアマツが気づく。

 「!? ……お前……そうか! えらく長生きだな(笑)……猫」

 「それはワシではない! 父の方だ」

 「無駄話は、、終わりだ!!」切り落とされた左腕が引き寄せられ、くっついた!?。その瞬間、身体全体から発せられた瘴気の強大さに、その場にいた皆が圧倒される。腕の具合を確かめながらルミナの方へ向かうアマツ。ネロリが巨大化し、波動がMax状態で放出される!

 「ルミナ、ワシと《同化》するんじゃ! 急げ!」

 「!? 同化って? どうすんのよ!」

 「ワシに触れ、吸い込むように! やってみろ!!」

 やってみたが、ネロリを吹っ飛ばしてしまった。

 アマツが突進してきた! その瞬間!

 「オン・バロダヤ・ソワカ!」ナギサが尸解の言霊を唱えると、魔法陣から『尸解領域・水天』が現れ、アマツを四方数十メートルの水槽に閉じ込めた! すぐさま水槽の上に向かって泳ぎ出すアマツ。ナギサが「汽水域きすいいき!」と水槽に触れて叫ぶと、アマツの足元の塩分濃度が増して水流が発生し、下へ引き戻す。呼吸が続かない……その時。

 「闇淤加美神クラオカミ!」アマツの尸解の言霊で、空から堕ちてきた大きな闇が水槽をすっぽりと飲み込む!

 「そ……そんな!!」ナギサが驚く。

 「水天ごと闇に飲み込みやがった!」メノウが叫ぶ。

 「めんどくさいよ!!」アマツが怒りの咆哮を上げると同時に、とてつもない瘴気が皆に向けて放たれる!

 一番近くにいたナギサが大量の瘴気を浴びてしまい、恐怖のあまり足の震えが止まらない。動けない……。

 「フッ……まずはお前からだよ」アマツがナギサに手をかけようとした瞬間、頭上に大きな雷が落ちた!

 「ぐはっ!!」一瞬にして全身黒焦げになり、前のめりに倒れた。あまりの威力にナギサは吹き飛ばされたが、メノウがキャッチした。

 「ライハ!」ルミナが叫ぶ。

 「お! 眠り姫のお目覚めか(笑)。これでやったろ!?」

 ライハがアマツに歩み寄る。

 「か……かなりの雷波動だ……」

 !?……エルデの身体に憑依したアマツが起き上がる。しかも先ほどまでとは比にならない瘴気をまとって!

 瘴気の強さに、ライハでさえ足がすくんだ。そして、、悟った。

 「ネロリ、メノウ! ルミナとナギサを連れて逃げろ!! コイツは俺と霧雲で食い止めておく!」リハヤがルミナ達の前に立つ。

 「でも! そんなことしたら2人が……」ルミナが叫ぶ。

 「いいから言う通りにしてくれ! どの道このままじゃ全滅だろうがよ!」

 「……確かに…我らが生き延びれば、再起を図ることもできる……」ネロリが同意する。

 「そんなの……ダメ! 絶対に。2人を失った時点で、再起なんて図れない! ……私を逃がすための口実でしょ!? やるなら……今、全員で!」ルミナの言葉に、ナギサが奮い立つ。メノウも頷く。

 「へっ……姫がそう言うなら……仕方ねぇよな!」ライハの言葉にリハヤも軽い微笑みを浮かべる。

 「……そうと決まれば、全力で行くゾ! ここが《最終決戦》じゃ!!」ネロリが吠え、皆が臨戦態勢に入った!

ーー《……ん!!》

 突然、アマツが足から崩れ落ちた!?

 「!? ……アレ……あぁ、そうか。もう持たないのかい……この身体」アマツが呟いた。横たわったエルデの身体は徐々に崩れ去っていく。

 「この勝負はお預けだ! また……すぐに会うだろう!」

 「待って、お父さん! 何で私とお父さんが戦わなければならないの?」

 「それはその猫にでも聞けばいい。代わりに一つ教えてあげるよ。ルミナ、君のお母さんは生きている」

 「!? お母さん?」

 「何と!! 泉凪閖みなゆり家の血筋がもう一人!」ネロリが驚く!

ーー《辺りの瘴気が、一気に消え失せた》ーー。

 それと同時にアマツの気配も消えた……。

 次の瞬間

 「くはッ」ライハが跪く。

 「ライハ!」ルミナが駆け寄り手当てをし始めた。そして気づく…背中の傷が思ったより重症だということに。そんな身体で最後までアマツに立ち向かおうとしていたこと…。ライハは気を失った。

 

 あの日から数日が過ぎていた。あれだけ毎日襲ってきていた魔女達が、パタリと止んだ。

 

 ライハはまだ意識が戻らない。ネロリ曰く、ライハのPledgerの存在感がしっかりしているから命に別状はない様子だ。

 

 リハヤは急な用を思い出したとかで実家に戻った。

 

 ナギサは魔法オタクの本領を発揮し、絶賛引きこもり中。

 

 メノウは覚醒後、ネロリに弟子入りし、リヒト(Pledger)と共に修行の日々を送っている。

 

 私は、といえば……ここ数日の目まぐるしさで困惑している。到底、処理しきれるわけがなかった…。

 エルデの裏切り、アマツの襲来、アマツがまさか父であったこと……そして、まだ見ぬ母が生きていたこと。さらには、自分がかつての王・泉凪閖家の出自だということ……。

 ネロリが来た。

 「やはり話しておこう。かつての王《泉凪閖》と、因縁の魔女達のことを……」

              『To Be Continued』

ーー次章へ続くーー

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。


 次章より、過去編として、約800年前『泉凪閖(みなゆり王家vs 8人の魔女(のちの晟霞八家)達の反乱』にも触れ、現世では、甕星アマツ以外の権門一族の魔女達との接触、世界に散らばる『sorcières de huit(晟霞八家)』。そして、宇宙規模のお話になって行きます!皆様、乞うご期待下さい!。

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