異世界で暇してたら ――ご令嬢と見慣れない美女とで大騒ぎ――
「ふわぁ~……」
王立騎士学園中等部の昼休み。中庭の隅で、ベンチに深く腰をかけ、俺――クロガネは、大きなあくびをかました。
青い空に、心地よい風が俺の短髪を撫でる。今日は風属性との相性が良いようだ……俺は、魔法を使えないけど、なんかそんな気がする。
「クロガネ君、退屈しているところ悪いけれど、面白い情報よ」
すっと影が差す。
成金侯爵のご令嬢フランソワーズが、風で金髪を少し揺らしながら、いつもの涼しい顔で立っていた。
「今日、学園に『研修生』が来るらしいわ。しかも、かなりの美人だとか」
「へぇ……美人?」
この異世界には、フランソワーズよりも美人が、いたんだ。
◇
学園の中庭、何やら女性の声がする。
声のする方向を見ると、見慣れない美女。その美女に、学園の生徒である令息が、絡んでいた。
「ねぇ、ちょっと付き合いな。俺は、子爵家なんだぜ、男爵家とは違うんだよ」
「困ります。離してください」
美女は困惑している。
……ああ、これは助けるしかない。
「おい、やめとけよ」
俺は声をかけた。
令息が振り向き、そして、鼻で笑った。
「平民が口を挟むな――」
俺の拳が軽く空を切った。風圧だけで、令息が吹っ飛んだ。やはり、今日は風属性が冴えている。
「ひ、ひでぇ! 暴力だ! 平民が暴力を振るったぞ!」
令息は、情けない悲鳴を上げながら逃げていった。
「触ってもいないのに」
本当なら殴りたかったが、平民が貴族を殴ると、不敬だと言われてしまう。
「助けていただき、ありがとうございます」
見慣れない美女が、平民の俺に、深々と頭を下げた。
「い、いや……」
当たり前のことをしただけなのにと、照れてしまう。俺は、誉められると恐縮するタイプなんだ。
横を見ると、フランソワーズがニヤニヤしていた。
なんでそんな楽しそうなんだ?
◇
その日の午後、俺は学園長室に呼び出された。
「クロガネ。平民が貴族に暴力を振るうとは前代未聞だ。停学処分とする」
「はぁ? 風圧ですよ? ノーダメージですよ?」
そこへ、ドアが勢いよく開いた。
「学園長、彼は悪くありません。助けただけです」
フランソワーズが堂々と入ってきた。
彼女が、令息側にも非があると証言してくれたおかげで、結果――
「……今回は不問とする」
俺はなんとか停学を免れた。
「しばらく大人しくしてなさい。あなたは目立ちすぎるのよ」
フランソワーズにそう言うが、なぜか楽しそうだ。
◇
放課後、案の定、令息が仲間を引き連れて、教室へやってきた。
「昼はよくもやってくれたな、平民!」
……ああ、やっぱり来たか。
だが、俺には「フランソワーズとの約束」があるので、手を出せない。約束が無くても、貴族を殴るのは、それ相当の理由が必要だ
「ちょ、ちょっと待て! 俺は戦えないんだって!」
俺は校舎を逃げ回る。
そのせいで、学園中が大騒ぎに。
そして――
『ズガァァァン!』
轟音とともに、令息たちがまとめて吹き飛んだ。
フランソワーズの魔法だ。
「フランソワーズ嬢、助かった……」
「あなたが逃げ回るから、余計に面倒になったのよ」
しかし……
「「……あ」」
勢い余った魔法は、校舎の壁まで吹き飛ばしていた。
俺とフランソワーズは、同時に固まった。
◇
再び学園長室に呼び出された。
「学園内で乱闘騒ぎを起こすとは……二人とも停学だ」
まいったな……
困っていると、学園長室の扉が静かに開いた。
「ちょっと待ってください!」
なんと、あの見慣れない美女が入ってきた。
「彼らは悪くありません。私は一部始終を見ていました」
美女は静かに名乗った。
「私は友好国から来た研修生……そして、友好国の王女です」
学園長の顔色が変わった。
「お、王女殿下……!」
「彼は、私を助けてくれた恩人です。フランソワーズ様も、学園の治安維持に尽力されました」
こうして、俺とご令嬢の停学は、取り消された。
◇
数日後、成金侯爵が新しい校舎を寄付し、学園はピカピカになった。
そして――
「姉御! 今日もよろしくお願いします!」
「姉御、ついていきます!」
あの令息たちが、なぜかフランソワーズを「姉御」と呼んでいた。
「姉御? ……フランソワーズ嬢、彼らに何したんですか?」
「貴族として教育しただけよ……でも、少しキツすぎたかも」
フランソワーズは、涼しい顔で微笑んだ。その笑顔が一番怖い。
友好国の王女は、そんな俺たちを見て、クスッと笑った。
「クロガネ様の周りは、とても賑やかですね」
平民の俺に、王女が「様」を付けて呼んでいる。これは事件だ。
こうして、俺の平凡な学園生活は、ますます騒がしくなっていくのだった。
―― 少し休みますが、またね (^o^)/ ――




