親父は剣聖だったけど、俺は違いますから 〜世界なんて勝手に救ってくれ〜
ドンドンドン。
俺は今、嫌がらせに遭っている。
ドンドンドン。
こうして毎日、執拗に家のドアをノックする者がいるのだ。それも深夜か早朝に限って。
大体数十分無視すると帰ってくれるのだが、今日はやけに長い。
何度も「やめてくれ」と言ったが、その都度「君が話を聞いてくれるまで、やめることはできない」と返される。
こちらの「やめてくれ」という必死な願いを聞かないくせに、何故俺があちらの話を聞かなきゃならない。
ドンドンドン。
大体、話を聞いてほしいならせめて日中に来るべきではないか。……いや、そう言ったら「日中は仕事があるから来られないんだ」と苦笑していたな。
昼間は仕事して、夜は家にドアを叩きに来る。いつ寝てるんだアイツ。
いやいや、俺が心配することではないんだけど――
ドンドンドン。
「ええい! うるさい!」
「やっとドアを開けてくれたね。さぁ、僕と一緒に世界を救おう」
「断る」
苦情を言って、返事もした。
よし、これで用事は済んだ。あとはドアを閉めるだけだ。
ため息を吐きながらドアを内側に引く。
すると、閉まりかけたドアの隙間に、すっと足を滑り込まされた。
ガンっと大きな音を立てたが、全く痛そうではない。
――さすがは、“勇者”だ。
「中に入れてくれないか。このままだと、大声で話す羽目になる。……もうすぐ出発の日だ」
確かに、そろそろ出立予定日か。
その前に一度話してスッキリさせた方が、お互いのためかもしれない。
「はぁ、仕方ない。どうぞ、勇者サマ」
茶は出さないぞ。
そう言うと、「もちろん、構わないよ」と紳士的な笑顔が返ってくる。
「何度言われても、あんたのパーティーには入らない。魔王を倒しに行く気もない。――俺は、親父とは違うんだ」
俺の親父は、かつて“剣聖”と呼ばれた男だ。
二十年前の魔王討伐戦では、勇者パーティーの一員として魔王城に赴き、王国に勝利をもたらした。
そんな親父はもう死んだ。単純に、身体を酷使しすぎた。
「若くして……」と周囲から惜しまれた死だった。
「だが、魔王の復活はもうすぐに迫っている。お告げにあった者たちで旅に出なければならない。賢者も聖女もすでに訓練に参加している。あとは、剣聖の君だけだ」
二十年前、親父たちは魔王を討伐した。
しかし、魔王は一定の周期で蘇ってしまう。
そのたびに人類は、“お告げ”によって勇者パーティーを選び、魔王のもとに差し向けるのだ。
「『君だけだ』じゃねーですよ。“剣聖”だったのは俺の父。俺はただのその他大勢。剣だって、ガキの頃遊び半分で振ってみただけで、魔獣を切ったこともない。正しい“剣聖”さんを探してくださいっと」
「……お告げでは、君が今代の“剣聖”だと出ているんだよ」
真に迫る顔。イケメンのこんな表情、女だったらイチコロだろうな。
お生憎様、俺は男だが。
「お告げだってたまには間違うでしょうよ」
「建国から三百年、一度たりとも外れたことはない。間違いなく、君が剣聖だ」
親父も、お告げによって選ばれた剣聖だ。
あのおっさんは剣を振るのが生きがい、みたいなところがあったからいいだろうけど――俺はごめんだ。
「“お告げ”のために死ねってか」
「っ! そんなことは言ってない! 現に、これまでの勇者パーティーは全員、魔王討伐から無事生還している!」
「で? うちの親父が帰ってきてからも国に酷使されて、最期はどんどん弱って死んだのは、魔王討伐とは関係ねーの?」
勇者は息を呑む。コイツは、「関係ない」とは言わないだろうな。
まぁ俺は関係ないと思うけど。あんなの、帰ってきてからも『誰かのため』に剣を振り続けた、本人の責任だ。
「俺はさ、“剣聖”なんかになりたくねーんですよ。大体、俺なんかより、国のお偉い騎士さんでも連れて行った方がよっぽど戦力になる。それともあれか? そうするつもりだけど、周囲へのパフォーマンスとして“剣聖”が必要とか? ……本気で“俺”を戦力として必要とするなら、アンタ以外も訪ねてきて、アンタがやらされている訓練やら魔獣退治やらに参加させてるでしょうよ」
言い返せずに黙り込む勇者サマ。
やめてくれよ、俺がいじめたみたいじゃないか。
凹んだ様子を見ていられない俺は、さっさと諸悪の根源を追い出すことにした。
「ほらほら、立って。説得なんて無駄なことしてないで、早く帰って寝なよ」
無理やり立たせて、玄関までぐいぐいと背中を押す。自ら好んで進みはしないが、俺のそれに逆らいもしない。……言いすぎたか?
モヤモヤした気持ちを抱えながら、勇者サマを家から追い出す。
あっ……と。一応コイツにも言っとくか。
「お偉いさんに言っといて。前にも伝えたけど、王都出るとこまではパーティーと一緒に歩いてやる。けど、絶対次の街で解放しろよって。はぁ〜、勇者パーティー探しのとき、似顔絵なんか貼られてなきゃこのまま落ち着いて過ごせたんだけどなぁ」
勇者はまるで、迷子みたいな瞳を返す。
それを見ていたくなくて、「じゃ、おやすみ」とだけ言って、ドアを閉めた。
無事、勇者を追い返すことができた。けれど心は晴れないままだ。
「あーぁ……でも、仕方ないよなぁ。“剣聖”は親父で、俺は親父とは違うんだ」
勇者には教えなかったが、国のお偉いさん方にだっていろいろ言われた。
だから言い返してやった。
「才能が引き継がれるなんて誰が言ったんですか。見てくださいよ、このふにふにの腕。親父みたいに強そうに見えます?」
俺のやる気のなさと、身体つきからの真実味を以て、お偉いさん方は「それなら」と代案を出したのだ。
『討伐には加わらなくていいから、街を発つ当日だけ勇者たちと同行してくれ』
俺は、それに頷いた。
さっきの反応を見るに、「俺がそれに頷いた」ってところ以外は、勇者も知ってたんだろうな。当たり前か。
「親と子は別人なんだから、才能の有無だって変わるんだ」
だけどそれは、俺が親父の息子だっていうのを否定しない。
……俺は、早くして死んだ親父の背中に憧れている。
『誰かのため』に剣を振り続けて早死にしたクソ馬鹿親父は、親としては最低だと思うけど、それでもかっこよかった。
「親父の名前を、汚したくねーんですよ」
誰もいない部屋で、ぽつりと漏れた本音に、思わず頭を掻いた。
「やめやめ。こんなこと考えたって仕方ない。寝よう寝よう」
今夜はもうノックされることもない。しっかり眠れるはずだ。
そう思ってベッドに入ったのに、朝になっても疲れは取れていなかった。
勇者も説得を諦めたのだろう。
次の日の夜も、その次の日の夜も現れず、俺の安眠は確保された……はずなのに、なんだかよく眠れていない。
「あーぁ。なんでだろうなぁ」
一人ごちて、ふと親父の遺品の剣に目をやる。
親父が死んでから誰も振っていないが、整備は欠かしていない。
窓辺に寄って、鞘から抜く。
剣身を月に翳すと、光が揺れた気がした。
「お前だけでも、勇者に渡すか?」
いい武器なんざ国から持たされているだろう。
だけどこれは、そういうのとはまた違う。
これは“剣聖”の――
「魂、みたいなもんだよな」
剣は剣士の魂だ。
そんなふうに笑ったクソ親父を思い出す。
やらねえって言ってんのに研ぎ方教えてきた。「剣と向き合うときは自分と向き合う時間だ」とか言って。
剣と向き合うくらいなら家族と向き合う時間作れよって蹴り飛ばしてやった。
たしかあれは、親父がお袋をガチギレさせた日だった。
積もり積もった不満を爆発させたお袋が怖くて、俺がキレられたわけでもないのにブルブル震えたのを覚えている。
「そりゃまぁ、家のことも自分のこともほっぽって、他人を助けてりゃキレられますよ」
それでも、お袋は親父のこと好きだった。
魔王討伐から帰ってきてなお危険に身を投じることを、良く思ってはいなかった。
「んで、惚れに惚れ抜いた親父が死んだら、後を追うように病気で死んだ」
おかげで俺はひとりぼっち。
周囲からも“剣聖の息子”と認識されていたため、特に親しい相手はいない。
「直近で一番話したのが勇者ってとこでお察しなんだよなぁ」
ぼっちを極めてる。
ご近所付き合いくらいはあるんだけどね。
友達なんて一人も――
「一人は、居たか」
ガキの頃、“俺”に話しかけてきたヤツがいた。
“剣聖の息子”じゃなくて、“レイン”として。
色白で、ひょろひょろして、女の子みたいに顔が整っていた。
俺によく懐いていて、俺も弟みたいにかわいがった。
たった一人の友達。
「ノアとは、俺が叔母さんのとこ引き取られるんで会えなくなったんだよな」
あのとき、俺はまだ九歳。到底一人では暮らせない。
だから母方の叔母の元で世話になった。
「ようやく一人暮らし〜ってときにこの騒ぎですよ」
お告げで剣聖に選ばれた。なりたくもないのに。
「……まぁ、人間関係築く前だったおかげで、王都を出るのに支障なしってことで」
物事はポジティブに考えた方がいい。
俯いてたって何かいいことがあるわけじゃないから。
「よし、寝よ!」
剣を鞘に戻し、気合を入れてベッドに向かう。
寝て、明日になったら、なんかうまいもんでも食おう。
翌朝、ドンドンドンという騒がしいノックで目を覚ました。
「ええい、うるさい! 諦めたんじゃなかったのか!」
そう言いながら玄関を開けると、そこにいたのは想像とは別の人間だった。
「大変だよ! 街に魔獣の大群がやって来た! 避難が呼びかけられてる。あんたも避難しな!」
隣のおばさん。毎晩我が家がノック地獄に遭っても目を覚まさない安眠の持ち主が、慌てた顔でそう言った。
「あんた、剣使えないんだろ? それなら逃げた方がいい! バレたくないなら顔でも隠しな!」
それだけ言って、「じゃあ私は行くからね!」と去っていく。
……誰だよ、『人間関係築けてないぼっち』なんて言ったの。
良い隣人、いるじゃないか。
おばさんの言葉に甘えて、ローブを深くかぶり家を出ることにする。
俺は、戦いたくなんてない。だから、逃げる。
……念のため、親父の剣だけは持って。
指定避難所である広場に向かう途中、遠くから遠吠えとも唸りともつかない、低く濁った魔獣の咆哮が聞こえた。
勇者たちは、もう戦場に出ているんだろうか。
――そんなふうに、瞬間、過ってしまった。アイツの、迷子みたいな瞳が。
俺は戦いたくない。だから、突き放した。
けれど――アイツだって、『やらされている』。
でなきゃ、訓練や討伐のことを“仕事”なんて表現するものか。
「あぁ、ちくしょう……」
気付いてたんだ。
アイツだって、戦いたいわけじゃないことくらい。
アイツだって、お告げで選ばれてしまっただけだって。
だけど、そこからは目を逸らした。
「……っ」
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう!
気がつくと俺は、剣を大事に抱えながら、広場とは逆方向に走っていた。
魔獣の咆哮がする方へ。血煙の立つ現場へ。
……見えた。
勇者も、賢者も、聖女も、戦っている。
バカみたいに懸命に、『誰かのために』戦っている。
――親父みたいだ。
騎士たちも加勢しているけど、魔獣の数が多すぎる。まさに多勢に無勢。
その光景に、ズシリ、と剣がその重さを主張した。
そこに宿る魂が、自分を抜けと叫んでる。
一体の魔獣を屠り、体勢を崩した勇者に向かって、ワーウルフがとびかかる。
――逡巡の隙など、なかった。
「退け!」
剣を抜き、ワーウルフを一斬で伏せる。
ポカンとした顔の勇者に向かって、「早く体勢を整えろ!」と檄を飛ばした。
「な……んで」
「そんなの、俺が訊きてーよ! だけど……あれだ、その、仕事! 仕事だ! 引っ越してからゴタゴタしてて、仕事決まってなかったし! 今回は、そういうことで!」
自分でも何を言っているのか分からなかったが、勇者も、とにかく今は目の前の敵を倒すのが先だと切り替えたらしい。
小さく笑って、俺に背中を預けるように、立ち上がる。
「ありがとう、レイン」
俺の名を呼ぶその音は、なんだか、とても懐かしかった。
魔獣をひと通り倒し終え、ふぅ、と一息を吐いたそのとき、「貴方!」と聖女に声をかけられた。
「剣聖! 貴方、戦えるんじゃない!」
「戦えるよ。それが何か?」
「『何か?』じゃないわよ。なんで、今まで――」
『居ても戦力にならないから』
そんなふうにお偉方に言われて納得していたのだろうか。
俺は一言も『戦えない』とは言ってない。……似たようなことを言って、惑わせたかもしれんけど。
俺は強い。剣なんて、訓練せずともすぐに振るえた。
親父は“剣聖”に選ばれて、血を吐くような努力をしたって聞いた。
毎朝毎晩、倒れるまで稽古してたって。
俺の物心がついた頃、魔王を倒してもう何年も経ってからも、ずっと懸命に剣を振っていた。
そんな親父に剣に触れさせられてすぐ、分かってしまった。
苦労して積み上げなくても、俺はこれを難なく扱えるって、分かってしまった。
そして気付いた。
『親父は弱い』んだって。『才能がない』んだって。
俺は、何もしなくても親父を追い越せるって、悟ってしまった。
才能は、引き継がれない。
でなきゃ、なんの努力もしていない俺が強いのはおかしい。
親父の「才能の無さ」を、俺は引き継がなかった。
だけど……そんなの、間違ってるだろ。
クソ親父は、命を削って剣を振ってきたのに。
親父みたいに逆境に立ち向かって、誰かのために剣を振るってきた人間を、俺なんかが簡単に抜かしたら――
だから俺は、剣を振るいたくなかった。
他の誰でもない、クソ親父だけが“剣聖”であればいいと願った。
それ、なのに。
「あーぁ。俺、これだと、魔王討伐の旅に出なきゃ駄目かなぁ」
「駄目に決まってるでしょ!」
任命式ぶりに顔を見た、ほぼ初対面の聖女がリズムよくツッコんでくる。
そうだよなぁ。もう言い訳して逃げられないよなぁ。
「……レインが決めていいよ。これは、レインの人生なんだから。誰かに何か言われたら、僕がどうにかするから、大丈夫」
「は?」
お前が、それを言うのか。あれだけ毎日押しかけておいて。
声の主――勇者の顔を見て、唖然とする。
「ごめんね。きっと、僕のせいで戦わせてしまったんだよね。……レインは、昔から優しいから」
「昔からって、勇者、お前――」
まるで、俺の“昔”を知っているかのようじゃないか。
「ノア」
「えっ」
「ノアって呼んでよ。子供の頃は、いつもそう呼んでくれてたでしょ?」
「ノ……ア……? お前、あのノアか!?」
勇者――ノアは、困ったように笑いながら、「よかった、忘れてなかったんだ」と呟いた。
「反応からして忘れられてるのかなって思ってたけど、違ったんだね」
俺の、人生唯一の友達。
俺を、“ただのレイン”として扱ったヤツ。
「だってノアは、細っこくてひょろひょろしてて、それに――お前、女じゃないか! 俺、ノアは男だって……」
そう、勇者は女だ。
イケメンで、背が高くて、そんじょそこらの男より女にモテる女。
対して記憶の中のノアは、小さくてひょろひょろで、綺麗な顔をしてたけど男……あれ?
「僕、『男』って言った記憶ないんだけど」
「ごめんなさい!」
勝手な勘違いだ。
女の子にも見えるくらいの美少年……じゃなくて、ただの美少女だった。
男扱いしまくっていた、ガキの頃の俺をぶんなぐりたい。
「ふふ、いいよ。――ねぇ、レイン。僕は本当に、君が魔王討伐に向かいたくないなら、みんなを説得するよ。だけどさ、もし、剣を振ってもいいと思えるのなら……途中まででもいいから、一緒に来てくれないか。僕は、君と旅に出たい。あの頃みたいに、君と過ごしたい」
「……俺は、“剣聖”になりたくない。“剣聖”は、親父の称号なんだ」
だから、魔王討伐には行きたくない。
そう続けようとしたら、ノアは笑った。
「僕は今、レインを誘ってるんだよ。“剣聖”だからでも、“剣聖の息子”だからでもない、君を」
僕と一緒に、旅に出てくれませんか。
そう言って跪き、俺に手を差し伸べるノアは、どこぞの騎士様のようだった。
「“勇者の英雄譚”に付き合うつもりはない。だけど――”ノアの仕事”なら手伝ってやるよ」
ノアの手に触れると、その瞬間、ノアが勢いよく俺を引き寄せ、抱きしめてきた。
「ありがとう!」
「お前! 離れろ! 女の子なんだから、気軽に男を抱きしめるんじゃない!」
俺の言葉に、ノアは「気軽なんかじゃないのになぁ」と唇を尖らせながら俺を放す。
その表情は、たしかにあの頃のノアと同じだった。
「それじゃあいっちょ、魔王を倒しに行きますか」
台詞と共に、やる気を表すように肩をくるくる回すと、突然、後ろから聖女に杖で頭を殴られた。
「二人で納得しないでよ! ちゃーんと、私たちにも説明して! パーティーなんだから!」
こんな俺たちに対しても、どうやら怒っていないようだ。
口調は厳しくても、“聖女”は心が広いらしい。……いや“聖女”じゃないな。
「分かった、ちゃんと説明するよ。それより先に――俺はレイン。好きな食べ物は鶏の串焼きと、ぐつぐつ煮込んだ野菜スープ。あんたは?」
自己紹介から始めよう。
俺が旅をするのは、“勇者”でも、“聖女”でも、“賢者”でもない、ただの“ノア”たちなんだから。
そのあとは、苦難あり。山あり谷ありとなかなか大変な道のりだった。
ノアが地方貴族のお嬢様に惚れ込まれて屋敷から出られなくなったり、立ち寄った村でお嬢さん方がノアを巡って喧嘩を始めたり。
……ほとんどアイツのせいじゃないか。
ま、とにかく俺たちは無事、魔王を討った。
王都に戻るとパレードを開くと言われたけど、俺は断固拒否。
借りっぱなしの家にとっとと帰って、掃除を始めた。
「二年も空けると、もっと埃っぽくなってるかと思ったんだが」
どうやら叔母さんが掃除していてくれたようだ。有難い。
ちゃちゃっと掃除して、さっき買ってきたパンと干し肉でも食って寝よう。
明日からは、また別の仕事を探さなきゃな。
魔王討伐で生活に困らないだけの報奨金は出たが、それはそれである。
ただのレインとして働いて、その金で暮らしたい。
「どんな仕事があるかねぇ」
この二年間、ずっと四人で過ごしてた。それがなくなった寂しさを埋めるように、独り言を溢し続ける。
……割とその前から独り言は多かったかもしれない。
「今日は買ってきたもんだが、明日は野菜スープでも食おうかな~」
明日の食卓を考え、気分が良くなってきた俺は、鼻歌を歌い出す。
一人暮らしってこういうとこあるよな。他のヤツがどうかは知らんが。
そんな、寂し楽しい一人時間を堪能していると、急に邪魔な音が入ってきた。
ドンドンドン。
「誰だ? もう割と夜遅いぞ。……無視で良いか」
ドンドンドン。
「妙に聞き覚えのあるノックだが、いやしかし、もう夜に会いに来る用事はないはずで」
ドンドンドン。
「とりあえず出てみるか」
ドアを開くと、あのときと同じ人物がそこにいた。
「こんばんはレイン。もう夕食は済ませたかい? 実は、鶏の串焼きを買ってきたんだ」
「夕食はまだ。つーか、なんで来たんだよ」
部屋に上げながら問う。今回は茶を淹れてやる。
「君に会いたくなったから」
「ぶふぉっ」
「大丈夫かい?」
げほげほと咳込む俺の背を、ノアが撫でる。
旅の最中も、コイツはこんなイケメン台詞を吐いて、俺を困らせた。
「あのなぁ、そういうの止めろって言っただろ。いつか刺されるぞ」
「“勇者”を刺すヤツなんか居るかな?」
「思わせぶりなイケメンを刺すヤツならいくらでも居るだろうよ」
「思わせぶりって……君にしかこんなこと言わないし、しないよ」
その発言が既に思わせぶりなんだよ、とジロリと睨む。
困ったように笑うノアに、はぁ、とため息を吐いた。
「はいはい。とりあえず、もう夜に来るのはやめろよ。女の子なんだから。毎晩なんて絶対駄目だぞ」
ただの“勇者”のときは言わなかったが、今は“友人のノア”だ。しっかりと言っておいてやらねばならない。
「――なら、毎晩通わなくてもいいように、これからは一緒に過ごしてくれないか」
何を言ってるんだ、と瞳を合わせると、ノアは真っ直ぐに俺を見つめて、微笑んだ。
「これはプロポーズだ。ずっと、君が好きだった」
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